29.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
人さらいに遭ってしまったアリス。そこに駆けつけてくれた桃子と俊宇のおかげで、何とか事なきを得たが、ユーゴの姿がない。俊宇によれば、大変なことをしているのだというが……。
男は、さっさと荷物をまとめてトンズラしようとしていた。
それもこれも、手下の男がへまをしでかしたせいだ。これまで、上手いこと行っていたのに……!
荷物をまとめ終わった男は、バレないよう平然と隠れ家から顔を出し、サッと上下左右を確認した。
——よし、まだ魔術師共は来ていない。今のうちに……!
そうして、逃走の記念すべき第一歩を踏み込ん……。
乾いた音とともに、男の足元の地面がえぐれた。
「……」
「両手を挙げろ」
さっきまでざわついていたメインストリートが、一瞬のうちに静まり返った。みんな足を止め、その場に腹ばいになって息をひそめているからだ。
男は震えながら両手をゆっくりと挙げ、そっと視線をあげた。
すぐ近くの木の枝に、いつの間にか金髪の魔術師がいた。
「お前、随分とリサーチが上手いみたいだから名乗る必要はないと思うけど、決まりなんだ。——アエラス王宮魔術師だ。腹ばいになれ。お前を人身売買取締法違反の容疑と誘拐罪の現行犯で逮捕する」
ゆっくりと横ばいになる男に銃口を突きつけているのは、レオだった。
ランフォード家は、ヘレナ以外の理由でも恐れられている。一つは、フォティア王家の分家筋であるということ。腐っても王の血筋なので、ほとんどの人がちょっかいを出すことはない。
そしてもう一つ。ランフォード家の『特性』を継ぐ者は、絶対に攻撃を外すことがない、ということ。彼らが攻撃とみなしたものは、必ず狙った場所に、狙った威力で的中する。
そんなランフォード家(とは言っても、ルイスとレオの二代しかまだいないが)は、狙撃手として有名だ。ルイスは元々、狙撃の腕を買われて出世している。
レオはルイスに引き取られてから、狙撃の極意を叩きこまれてきた。ランフォード家の力に頼らずとも、レオは狙った場所に銃弾を的中させることができる。いわば、ルイスに英才教育を施された賜物だ。
つまり、レオがここにいる限り、男が無事に逃げ切れる確率はほぼゼロに等しい。そして、レオだからこそ、こんな大勢の人がるのに躊躇なく引き金を引けたのだろう。彼なら、弾を外すことも、跳弾の心配もないのだから。
それに、無理に逃げようとしたら、容赦なくレオは男の足を撃つだろう。目の前にいるこの魔術師は、とにかく虫の居所が悪いらしいから。
レオの背後から顔を出したのは、肩にクロエを乗せたユーゴだ。なぜか、彼も顔を青くしている。
「ユーゴ。何でうちのアリスが人さらいに遭ったのかは、あとで聞いてやる」
「はい……」
——どうやら、魔術師というのも大変らしい。
少し冷静さを取り戻した男は、どうやってレオたちがここに現れたのか、自分の場所が割れたのか、ようやく理解した。
ここは、キュクノスのメイン通り。道を埋め尽くしているのは露天商たちだが、男はその通りを形作っている立ち並んだアパートの一室にいた。
わざわざ人の少ない場所に隠れるから、見つかるのだ。逆に人が多い場所に潜んでいた方が、万が一の時に身を隠しやすいし、見つかったとしても人が多いので魔術師たちも手荒な行動がとれない。隠れる場所としてはうってつけだ。
……居場所もバレたし、手荒な方法もとられてしまったけれど。
その居場所が割れた理由は、レオの後ろで小さくなっているユーゴだ。彼は、電波や魔力の波などを辿ることができる。恐らく、連絡用の携帯電話の電波やかすかに漏れていた魔力を追ってこの場所を突き止めたのだろう。
それでもやはり、込み上げてくる感情はある。
ユーゴに手錠をかけられた男の悲痛の叫びが、鎮まり替えったメインストリートにこだました。
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