197.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
アエラス王国では、国王とルイスの二人が『ユピテル』についての話し合いをしていた。そんな中、国王にティチアーノとして質問を投げかけられたルイスは……。
一方、淑女コンテストも終盤。魔法対決ではパウラの作戦がうまく成功し、アリスたちは魔術師であることを悟られずにポイントを手にすることができた。
『現在トップは、ガイア王国のリリアーナ・フォンターナ魔術師! このまま逃げ切ることができるのか!? それとも、彼女を追い続ける他の出場者たちが追い上げを見せるのか!? さあ、最後の種目は礼儀作法対決! 得点はなんと二倍! 逆転のチャンスとなります!』
司会の言葉に大盛り上がりを見せる会場。
その中で、アリスは水をがぶ飲みしていた。緊張で喉がカラカラだから。
これで、全てが決まる。
「もう。そんなふうに水を飲んでたら、さっきみたくお腹を痛くするわよ」
ローズにそう言われて、アリスはしぶしぶ水をしまった。
お腹を下したというのは嘘なのだが……。純粋なローズは「嘘」ということを知らない。というか、気付いていない。
とはいえ、ただアリスを心配しての言葉だから、大人しく従った。
パウラは何やらすでに満足そうだし、レナは「さっさと終われ」という気持ちがあふれ出てしまっているし……。
——こんな調子で、本当に大丈夫なのかなぁ……。
最後の礼儀作法対決は、とってもシンプルだった。ただ、出された料理を食べるだけ。
『毎日行っていることだからこそ、見えない落とし穴がある! どれだけ美しく、綺麗に料理を食べられるかが勝敗を分けることになります!』
というわけで、アリスたちは白いテーブルクロスがかけられた長テーブルに一斉に着かされた。目の前には、湯気を立てる美味しそうな料理が次々と運ばれてくる。
ジャッジするのは、このミュティ自治区のリーダーを務めている初老女性。もう見た目からして礼儀に厳しそうだ。背筋はピンと伸びているし、目は細められているし、口は真一文字に結んで両手は膝の上にきっちり置かれているし……。
しかし、雰囲気がダリアと近いから、アリスはむしろ緊張が少しほぐれた。一年以上、ダリアと一緒に食卓を共にしたのだ。それを思えば、懐かしさすら覚える。
そのほとんどは、ダリアにご飯を食べさせてもらっていたのだけれど。
司会と一緒にユリアへ感謝の祈りを捧げてから、アリスたちは一斉に食事を食べ始めた。
ただ、黙々と料理を食べ進めていくだけ。これも競技の一つだからアリスも精一杯頑張って料理を食べたが、これを見ていて観客たちは楽しいのだろうか……。
そんなことを思っていたが、もう少しで全てを食べ終える、というところでアリスは気付いた。
ほとんどの出場者たちが、ナプキンで口元を抑えている。それに、あまり食欲もなさそうだ。サラダなどの野菜やさっぱりしたスープなんかは減っていたが、メインのステーキやパンはほとんど手が付けられていない。
——そっか。バテて食欲がないんだ。
シャトルラン、ダンス、魔法勝負。優勝を目指して、みんな力の限りを出したことだろう。限界まで頑張っただろう。だからこその食欲不振。
パウラが言っていた通りだ。
魔術界の食事マナーで一番のタブー。それは、出された料理を残すこと。
結局、制限時間内に食事を終えたのは、アリスたち四人とリリアーナだけだった。この時点で、他の出場者たちの優勝はまずあり得ない。
あとは、この五人の中で誰が一番、美しく、正しく、料理を食べられたか。
係員に渡された紙を読んで、司会は『では、礼儀作法対決の結果をお伝えいたします』と会場を見渡した。
『第一位、パウリーネ・ツヴァイクレさん! 第二位、レナ・ラモワンさん! 第三位、リリアーナ・フォンターナさん!』
会場中がどよめいた。
それはそうだろう。公爵令嬢であるリリアーナより綺麗に食事をしたという女性が、二人もいるというのだから。——一人は性別を偽っているけれど。
そんな中、司会は『さあ、総合得点を発表いたします!』とモニターを指さした。
『最終競技の得点が入ります! パウリーネさんには六十ポイント、レナさんには四十ポイント、リリアーナさんには二十ポイント! ということはー?』
アリスたちの名前の横に現れた棒グラフは、グンと伸びていき、一位を示した。
『優勝は、レナ・ラモワンさん! みなさま、どうか盛大な拍手を彼女に!』
確かにあまり目立ったことはしていない。けれど、確かにレナは確実にポイントを各競技で獲得していた。
総合得点一位、レナ・ラモワンは九十九ポイント。優勝候補と言われていたリリアーナ・フォンターナは九十ポイントで二位。
そのまま表彰式に移り、レナはみんなに祝福される中、ミュティ自治区のリーダーに透明なティアラを頭に乗せてもらい、念願のキュプリアの帯を手渡された。
笑顔で周りに手を振って拍手に答えるレナは、確かに輝いていた。本当は男性なのだと、全く悟られずに。
アリスもレナに拍手を送っていたが、その瞳はある人物を探していた。
——いた。
リリアーナは、一人で静かに拍手を送っていた。
大会が終わった後は、記念撮影やら地元新聞のインタビューやらで、レナはあちこちに引っ張りだこ。
そんなレナはパウラとローズに任せ、アリスは一人で廊下の奥へ消えようとしていたリリアーナを走って追いかけた。
「リリアーナ!」
思わず大きな声で彼女を呼び止めてしまったアリスは、周りから驚きの顔を向けられてハッとした。
リリアーナは、他国の公爵令嬢。平民であるアリス——アリソン・ラモワンが呼び捨てにしていい相手ではない。
だが、リリアーナは振り向いて、従者であろうエルフ二人を連れてアリスに向かって歩いてきた。
『いかがなされましたか?』
相変わらずの筆談。
だが、アリスはそれにやはり、筆談で返した。
『約束を守ってくれて、ありがとう』
リリアーナもきっと、何か理由があるからこの大会に出たのだと、アリスは思うのだ。だからこそ、あんな即席の姉が優勝をかっぱらって行ってしまったことに、多少なりとも罪悪感を持っていた。依頼だろうと、何であろうと。
リリアーナはアリスからの返事を受けて目を見開いてから、口をパクパクさせ始めた。
「……ぁ、あ、あ」
「うん?」
「あ、あ、あ、あのっ、わ、わ、たし……。きょっ、き、きょ……」
——もしかして、上手に喋れないのかな。
筆談をしたがるのだから、何かあるのだろうとは思っていたが……。もしかしたら、彼女はこの話し方を隠したかのかもしれない。
とっさに「無理に喋ろうとしなくていいよ」と言おうかと思ったが、やめた。
リリアーナは、頑張ってアリスに何かを伝えようとしている。苦手な会話を使って。
だから、リリアーナの言葉を待つことにした。
「あ、あ、あ、あえ、てて……。う、う、う、れし、かか、た……」
——会えて嬉しかった。
その言葉に、アリスの瞳は大きく見開かれた。
それを見たリリアーナは慌てたようにメモに何か書きだし、アリスに見せてきた。『お会いできて、嬉しかったです』と、走り書きで。
「うん、私も。大丈夫、ちゃんと伝わったよ」
アリスはそう言って笑って見せた。
そう伝えた時のリリアーナと言ったら。眼を大きく見開き、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「だ、大丈夫!?」
「あ、あ、あああ、あ、り、がと……」
慌てるアリスに、リリアーナは小さな声でそういうと、初めて笑顔を見せてくれた。
レナがいなければ、きっと一位に選ばれていただろう。まるで、花が咲くような笑顔だった。
お読みいただきありがとうございました!




