9 傍目。
『まぁまぁ、お似合いですわ本当』
《控え目ながらも可愛らしい令嬢に、騎士、夢が広がるわね》
『ふふふ、愛も伝わってきますし、今までの事が全て誤解でらっしゃったと直ぐに他の者も気付く筈よ』
《そうよ、だから堂々となさって、ね?》
「はい、ありがとうございます」
以前は気圧され、ついお言葉を疑ってしまっていた四人の辺境伯令嬢方。
本当に喜んで下さっていて、私。
《もう、まだ茶会が始まる前よ》
『お化粧直しにはまだ早いわ?』
《ふふふ、全てはアナタの実力よ、大丈夫、自信を持って》
『さ、私達は先に行っているわね、待ってるわアニエス次期騎士爵夫人』
綺麗な花束の様な方々は、私が少し目を潤ませてしまったので席を外して下さいまして。
《アニエス》
「すみませんアーチュウ様、つい、こうして受け入れられている事に感動してしまって」
《とても可愛い顔になっていたから、あまり他では見せないで欲しい》
「意地悪な感想にも思えますが?」
《子供を抱く姿も見せたくない、君は良い母親になれる》
「親馬鹿ならぬ婚約者馬鹿と言えば宜しいのでしょうか、あの程度で」
《期待が人を育てる事も有るらしい、それに俺の目は確かだ、君との子供が早く欲しい》
「良いんですか?こうして2人だけの時間が減りますよ?」
あ、悩まれてらっしゃる。
本当に本能だけで口説いてらっしゃったんですね、なのに手は出さないで下さる。
流石、近衛騎士、と言うべきなのでしょうか。
《結婚して2年後に》
「そう上手くいかなかったら横槍が入ってしまいますよ?」
《それは潰す》
「程々にお願い致しますね?子に恨みを向けられては困りますから」
《アニエスは、いつが良い》
「せめて学園を卒業してからですね」
《繰り上げ卒業の制度を作って貰うか》
「悪用されそうですね?」
《早く一緒になりたい》
最近、私が受け入れ始めた事を悟ってらっしゃっての事なのか。
口説く文言が出る度に近付かれ、距離が縮まって。
コレは癖と申しますか、遠慮が無いと言うか我慢の限界でらっしゃるのか、アーチュウ様が今とても凄く近い距離にいらっしゃる。
先程までは問題無い距離だったのですが、もうすっかり体がピッタリとくっ付く程で、それこそ吐息が肌に。
私は昨今、違う意味で身の危険を感じております。
ドレスの件も案の定、加減や限度も無しに盛り沢山にさせられそうでしたし。
もし結婚してしまったら、私までシャルロット様のようなお体になるんじゃないか、とミラ様が。
冗談だとは分かるのですが、あながち間違いでも無い様な。
「あの、まだコレからですので、少し色気を抑えて頂けると助かります。他の方にまで影響しては困りますから」
もう、嬉しそうに微笑んでらっしゃいますけど、本当に困るんですから。
素敵でらっしゃるのは承知の上で、だからこそ遠慮が勝りに勝って。
《嫉妬させる誘惑に駆られてしまうかも知れない》
「もー、今日は初めてちゃんと一緒に出るお茶会なんですから、ちゃんと守って下さいね?」
《勿論》
助かります、お仕事に関わる事になるとしっかりして下さるので。
でも、私と一緒だと緩んでしまうらしく、笑みが零れてらっしゃいますよアーチュウ様。
「ヤベェ、あんなアーチュウ様初めて見るっすよ」
《私も、眉間に皺を寄せられてた以外は無いし》
『こう比べちゃうとねぇ、うん、アンタは無いわ』
「それなー、マジで舞台を見てるみたいだもんね、ピッタリって感じで。つかそれより生々しいって言うか、愛がコッチにまで伝わってくるもんね」
私達はアニエスの為に給仕係を任されたんだけど。
好きだとか愛だとか、似合うとか似合わないとかを、一気に分からされた。
だって私、あの横は無理だもん、マジで。
《やっぱさ、互いの為なんだよね、格が違う結婚に反対するのってさ》
『けどコレ、格の違いとか関係無いっしょ』
「そっすよねぇ、俺らだからなのか差異は分からないし、有ってもマジで愛で何とかなりそうだし」
「それなー、コレかぁって感じだよね」
あ、私にってマルタンを紹介されたんだけど、何か美味しい話を独占するみたいで嫌だったから2人にも紹介したんだよね。
でまぁ、こうなってる感じ。
確かに格は一緒なんだけど、なまじ貴族を見てきちゃってるから、もう少し貴族っぽい方が良いかなってなっちゃってるんだよね。
でも貴族は無理。
コレ性癖って言うのか分かんないけど、性癖曲げられた感が半端無いんだよね。
どうしよう、変に欲を出したせいなのは分かるんだけど、結婚が馬鹿みたいに遠い距離に有る。
まぁ、庶民は結婚しなくても生きられるっちゃ生きられるけど。
アレ見ちゃうと、羨ましい。
《あそこまでとは言わないけど、愛されたいなぁ》
自分もだけど、愛してるフリって出来ちゃうから、だからこそ本当に愛されたい。
愛されて大切にされたい、あんな風に。
『もー、大丈夫だって、顔と料理の腕は良いんだし』
「後性格も、アレよりマシだって、アンタなりに頑張ってたの知ってるんだから」
「あー、アレ見たんすね、俺は怖いから見て無いんすよ。何か、女に幻滅しちゃいそうで」
「何それ弱っ」
「いや憧れって程じゃないけど、庶民なのに令嬢出来てて偉いな、凄いなとか思ってたからさ」
『恩人の婚約者を奪って罰せられて泣くとか、中身無さ過ぎて流石のウチらでもドン引きだもんね』
《でもさ、私が料理の才能を発揮出来無かったら、もしかしたらあんな風になってたかもじゃん》
『いや、無いね、ウチらが居るんだし』
「そうそう、確かに貴族の中で育てられたって言っても、中途半端だったからこそあんなになったのかもだけど。分かるじゃん、庶民の中だけで育ったからこそ、義理って大切じゃん」
「そこなんすよねぇ、両方の良い部分を持ってるかなって、単に俺の勘違いだったんすけど、そう期待しちゃってたんすよね」
『いやさ、それこそアニエスじゃんよ、アレ知っててそれは無いわぁ』
「それなー」
《いやうん、でもやっぱ身分って大事だよ、利用も出来るし悪用も出来るんだもん。貴族でも、庶民でも》
『あー、庶民だけど貴族ぶればモテるって、でも良い迷惑だよね、本質が貴族じゃなかったらあぁなるんだし』
「本当、馬鹿が増えないと良いんだけどねぇ」
《それさ、ウチらだからこそ、何か案を出せないかな。ほら、迷惑を掛けたのは掛けたし、アニエスには何だかんだ償いが出来て無いしさ》
貴族は義理人情より利、でも庶民は義理人情を優先する。
そうした人間関係の違いって、滅茶苦茶大変なんだよね、良かれと思ってした事が賄賂って事で相手の迷惑にもなるかも知れない。
だから私が出来る事って何だろうって。
『何それ、貴族っぽいんですけど』
「ウケる、やってやろうじゃんよ、よし助けてマルタン」
「いやさっきは男に頼るのクソとか言ってたじゃんよ」
「こまけぇ」
『ちっさいわぁ、マジちっさい、あメナート様とかどうよ?』
《あー、確かにアリかも》
シリル様からも関わってやって欲しいって言われてたし、落ち着くんだよねあの人。
「えー、いや冗談だって」
「はいはい」
『休憩の間に探してみよ、来る筈だって聞いたし』
《だね、今のウチに片せるのは片しとこ》




