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欲しくなられました

「タウ……いくらあなたでもそれは許さないわよ」


 ひっ、奈々葉から殺気的な何かが滲み出している。


「私は王女なのですよ?」


 うわ、暴君だよこの人、こんな奴隷に王女の名前使ってきたよ!


「私は国を潰すくらいなんとも思わない……」


 いや、それはなんとも思おうよ!

 俺が心の中でそう突っ込んだ瞬間、タウ様の隣に立っていたカラットさんがタウ様の前に出て抜刀の体制に入る。

 ほら、国を潰す発言なんてするから!


「やめなさいカラット。なんであなたはそんなにこの子に執着しているの? 昨日買ったただの奴隷に何をそこまで執着するの? この子のどこに国一つを滅ぼす価値を見いだしたの?」


「あなたこそ、他人にほとんど興味のないあなたがなんでミーナを気に入っているの? 親との関係があってもあなたはその程度で誰かに興味を示すようなタイプじゃないでしょ」


「質問に質問で返さない。先にあなたから答えたら私も答えてあげる」


 二人は睨み合って、目で互いを威嚇している。

 なにこの状況、俺今ハーレム主人公の気分……いや、俺って今女だしハーレムじゃないか……。はは……。

 俺は心の中で乾いた笑いをした。


「……それをあなたに言う義理はないわ」


「義理ならあるじゃない。私たち友達でしょ」


「よく言うわ……暴君」


「あら、言ってくれるじゃない……亡者」


 二人はその発言をきっかけに臨戦態勢に入る。

 互いが互いに小ぶりを振り上げて、今にも殴り合いが始まりそうだ。

 おいおい、奈々葉! さすがに王女を殴るのはヤバイって!


「ナナ様はミーナさんに一目惚れのベタ惚れなんですよ。タウ様」


「ちょっと、カナムラ」


 さらっと、暴露したカナムラを睨む奈々葉。

 ナイスだカナムラ!


「タウ様はミーナ様が幼い頃に会っていてその時以来片思い状態なんです。ナナハ様」


「ちょっと、カラット」


 え……そうだったの……。というか、片思い状態って俺、今は女なんだけど。

 片思いって言ってもあれか、何かの比喩か?

 従者二人が奈々葉とタウ様の間に立つ。


「ナナ様」「タウ様」

「「これ以上、醜態を晒すなら私達も止めなければいけません」」


「……」

「……」


 二人の一括で黙る二人。


(す、すげぇ。この威圧感、本当に従者なのかこいつら)


「互いに昔とは立場が違います。タウ様は王女にナナハ様は勇者になりました。そんな二人が不仲だと城下に知れたら……うう、胃痛が……」


 カラットさんがお腹を押さえて顔色を悪くする。先ほどまで仕事のできる女の顔だったが今は臆病で病弱な人に見える。


「ほら、ここにお二人のせいで胃に穴の開きそうな人がいます。穴が開いてしまう前に喧嘩はやめてその振り上げた腕で握手してください」


「う、うぅぅ胃がぁぁ」


 カラットさんがお腹を押さえて蹲(うずくま)る。


「わかったわよ」


「早く手を握るのです」


 二人はため息を吐きながら握手をした。


「はい、よろしい。で、ナナ様、どうするつもりですか? ミーナ様を渡すんですか?」


「はぁ……、渡すわけないでしょ。安心してミーナ、そこの変態王女にあなたは渡さないわ」


「誰が変態王女なのですか。私ほど清楚と純情を体現している王女もいないのですよ」


「何が清楚と純情よ。あなたにあるのは険阻(けんそ)と薄情じゃない」


「私が険阻になるのはナナハだけなのですよ」


 険阻ってなんだ?


「あの、険阻ってどういう意味なんですか?」


「……言動が刺々しい様の事ですよ」


 うっ、呆れられた目で見られた。学がなくてすみません。


「そうなんですか……。これはあれなんですかね。喧嘩するほど仲がいいって事なんですかね」


「まぁ、この人たちは仲がいい方だと思いますよ。でも、仲がいいタイミングがとても短いんです」


 仲がいい割合よりも喧嘩する割合の方が多いのか。

 喧嘩するほど仲がいいって言っても喧嘩の方が多かったら普通に仲の悪い感じだな。

 まぁ、互いに会うくらいだから、心の底から嫌っていることはないんだろうけど。


「とりあえず、ミーナは絶対に渡さないから! それじゃ、もう帰る」


「全く、けちんぼ。あ、ナナハここに呼んだのはそれだけじゃなかったわ。これ、今回の依頼よ」


「ん、分かったわ」


 奈々葉が踵を返そうとした時、タウ様が懐に入れていた手紙を奈々葉に渡した。

 いつものことなのだろうか。奈々葉は受け取ると、ふーん、と踵を返した。


「それじゃあ、ミーナ。そこの勇者っぽいのに何か嫌なことをされたらいつでも来ていいのですよ。いつでも待ってるのですよ」


「そんなこと一度と無いから安心しなさい」


「えっと、その、私もそんな事ないと思うので……」


 奈々葉に限って俺にひどいことをすることはないだろう。ないだろう……。ないと思う。

 あれ、なんか不安になってきたぞ。

 昨日今日と奈々葉を見ていたが、かなり束縛するタイプっぽいしな。

 場合によってはタウ様のところの方が復讐しやすいかもしれない。

 これは一応、予防線を張っておくか。


 俺は奈々葉から少し離れ、タウ様に近づきタウ様だけ聞こえる程度の声で


「でも、もしそうなった時はよろしくお願いします」


「ミーナ、帰るわよ」


「あぁ、今行く!」


 俺は軽くお辞儀をして奈々葉の元に帰った。


 奈々葉達が部屋から出た後、タウは黙って立っていた。


「……」


「……どうかしましたかタウ様?」


 黙ったままのタウを心配したカラットが声を掛けた。

 そして、そのままタウの顔を覗き込むと、そこには久しく見ないタウの本当の笑顔が浮かんでいた。


「カラット……私、絶対にあの子が欲しくなった。奪ってでも手に入れるわ」


(あぁ、タウ様が素の喋り方……本気だなぁ。嫌だなぁ)


 《暴君》タウ・アルファが周りを気にすることなく、自分勝手になるときだけに出てくる素の口調。

 それを聞いたカラットは諦めのような感情を抱いていた。


「できるだけ、胃に優しい拐い方をしてくださいね」


 そして、君主にそう頼むと小さくため息を吐くのだった。

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