a great talent
鴉野は『CLOSE OF WOLRD』が主流だった時代から刀よりも銃を好んで使うプレイヤーとして一部の人間からは名の知られた存在だったのだった。しかし、その当時は刀が主流の時代だった為か目立った成績は残さなかったのだが『AFW』が出てきたことで銃が主流になるとクラン『MOST』を結成して瞬く間に実力を発揮し、多くの人間から知られるプレイヤーになっていった人物として俺も聞いたことがあるくらいはあった。
「大会に出ないで名の知れたクランと対戦できるなんてそんなこと滅多にないことじゃないだろ?」
「それで、もうどうせ渉のことだから返事はもう既に返したんだろ?」
「ああ、もちろん了承してきたさ」
俺は大きく溜息を吐いた。
渉は勝負事となると無理やりな部分があるのはいつもながらのことだったから、その時になって注意するつもりはさらさらなかったのだが、それよりもまず気になったのは
「どうしてお前そんな格好してるんだ」
「ああ、これは」
そう言ったのは他でもない、渉の服装というのは何故か汚れたジャージ姿だったのだ。
一見すれば昼休みの合間に友達と外で遊んだようにも見えなくはないが、俺が知る限りでは渉がそんなふうに外でアクティブに遊ぶような人間ではないことを知っていた。
「また昼休みの間に一人で試合を挑んだのか」
「まぁね、試合の練習にもなるしさ」
そう言って服の汚れを手で払う。
渉は中学に入ると1対1のタイマンを校内の人間に試合を挑み、勝ったり時には負けて実際の乱闘になったりとそれこそやめとけばいい事を練習になるからと繰り返していた。
まぁ、渉のことだからゲームで負けても襲いかかるような真似はしないし逆に相手が負けて逆上して襲いかかってきても反撃するだけの身のこなしを持っている訳だが
「お前も懲りないよな、どうせ今も相手に逆上されて乱闘にでもなったんだろ」
「はは…」
そう言われて照れ隠しをする様に土埃を払っていた左手を頭の後ろに回して頭をかく、その動作に俺はため息を吐き出し呆れるとしばらく渉をみつめて咳払いをした。
「それで『MOST』との対戦はいつなんだ」
「うん、それがどうやら明後日土曜日の12時に僕たちがいつも行くゲームセンターに来てくれるそうだよ」
『AFW』はこれまでの実際に広い場所が試合をするのに必須だったのとは違い仮想空間上で行われるということもあって頭につける機会と本体部分があれば試合ができるということで小規模なゲームセンターなどや家庭でも手軽に出来るのが人気を博した理由の一つでもあった。
だから当時から少なくなっていたゲームセンターは社会現象に関わったとして悪い意味で目立っていたから指定の場所に選んだのはわかったのだが
「もしかして『MOST』ってこの近くに住んでる人間なのか?」
このゲームはオンライン上でも出来るはずなのにどうして実際にあって勝負をするような事をあっちから願い出てくるのか。
「いや、それはどうなんだろ。そこまでは僕もわからないな」
渉がそういったその時になって昼休みの終了を告げる鐘の音がなり俺らは自然と話を終わらせて放課後に例のゲームセンターに集まることを約束してその日は解散した。
放課後、日が暗み始めた頃、部活動が終わった渉がゲームセンターへと来店してきた。
その当時、俺らが通っていたゲームセンターは昔ながらの喫茶店を改装して半分は喫茶店、半分はゲームセンターといったふうで規模は小さいながらもこうして渉の部活動が終わるまでは暇を潰せ尚且つ古いものから『AFW』まで様々なゲームも出来る場所ということで重宝していた。
「よう、渉来たか」
俺は手をあげて声をかける、時間帯が問題なのか俺と若葉の他に客も滅多にいないから大きな声を出しても気にするものはいない。
「ああ、それじゃあ早速練習しようか」
そう言って椅子に荷物を置いた渉はそそくさと喫茶店とは反対側のゲームセンター部分へと行き『AFW』と筐体の中へと入っていった。
部活帰りだというのにその底知れぬ体力と気力、そしてなによりゲーム好きなのは相も変わらずなのがまた渉らしいかった。
俺もその声に導かれるように渉の隣の筐体の中にある席に座ると頭を覆うようなヘッドマウントディスプレイ、通称HMDを付ける。こうすることで脳の電気信号を感じ取りそれを筐体の機械で読み取り作り上げられた仮想空間上に反映させる事でこれまでのように自らだの体を動かさずして戦いが行えるようになった。
「それじゃあ、久しぶりに的当てで勝負でもするか」
「おお、いいね」
そう言って俺と渉は目の前に映し出された数字が減るのを確認しながらも待機部屋では体の動きを確認する。
『AFW』では5感のうち視覚、聴覚、嗅覚の3つをゲーム内で再現することが可能になりこれまでのゲームをはるかに超えるリアルなものになっていた。
実際そのリアルさゆえに五感の一つである触覚は開発時点でゲームに取り込むことは出来ていたらしいが余りにも危険すぎるといことで実際の導入は見送られたらしい
そんなこんなんで目の前の数字が0になると目の前に現れた『GAME START』の文字
と、同時に俺と渉の二人は仮想空間で同時に動いた。
「1、2、3、4…」
「1、2、3、4…」
この時にも前からのプレイスタイルは変わらず渉は動き回りながら不規則に動く的を打ち抜き、変わって俺の方は一歩も動かずに的を狙うようなスタイルだった。
格段に上がった銃の扱い、一例に『AFW』が発売された時から始まったサイレントシステムの導入は大きかった。これまでの刀が主流の時代ではそんな事を誰も思いつかなかった銃の軌道を知るシステムが導入されたのは当時は革新的だった。
それに銃の種類も増えたおかげで様々な攻撃パターンが生まれ従来よりも知能と技術が必要となりこれまでゲームは若年層といったイメージから幅広いジャンルの大人たちをも巻き込んで『AFW』の人気は爆発的なものになりつつあったのも事実
「12、13、14、15…」
「14、15、16、17…」
時間が経つごとに俺のほうが数字が大きくなっていく
というのも、俺はその数年で熟練度が上がっただけではなく銃を両手に持って二つ持ちしていたからだ。
それは何のためか。答えは簡単、リロードを効率的に行うためだった
リロードは銃を横に傾けるのだが、一丁がリロードし終えるのにかかる時間はおよそ3秒、つまりリロードしている3秒の時間というのは攻撃ができない言わば非効率な時間ということになる。
そこで俺は思いついたのだ、銃を2丁持つことで片方がリロードしている間にもう片方で攻撃できないかと。そうして行き着いた結果、最初は2丁とも同時に放ち効率よく的を撃ち続けられる技を身につけた。
タネを話せば装填数である8発がなくなる前に片方の銃だけを空にしもう片方は2発だけ残しておく事にしたのだ。もっと詳しく言えば、狙いを定めてから引き金を引くまでは約2秒の時間がかかる、2発となると約5秒ほどの時間がかかる。つまり片方が玉切れでリロードしている間に2発残っている銃で一個の的を狙う。それが打ち終わった頃にはもう片方の方もリロードし終わっているから片方は8発もう片方は6発の装填数になる。
それを繰り返せばタイムロスを極力になくすことが出来るのだ。
「18、19、20、21…」
「25、26、27、28、29…」
でもそれなら渉も同じことをやればいいと思うかもしれないが実際にやるとなると、両手で箸を持つような感覚で慣れと経験がないとかなり難しい。
実際、俺は両利きであった為に普通の人よりかは出来るのは早かったが右利きの渉はその複雑な手の動きに加えて、過大な集中力を必要とするこの技の練習を断念してしまった。
『GAME SET』『WIN 龍ケ崎』 47―56




