『Re:rights』VS『OCT』
2対1になった今の状況でどうすれば勝てるか...
吸い込む息は荒く肺に痛みを感じる中、俺は一生懸命頭を働かせる。
渉がやられて数的不利になった今、強さでも経験でも上の相手と互角に戦うことさえ難しい事は誰が見ても明らか。
何か策を打つにしても俺一人だけでは相手がふたりの今、隙を突かれるに過ぎない。
考えれば考えるほど頭の中では絶望や焦燥の文字が駆け回った。
「クソッ」
大きく息を吐いて息を整えると隙を見せるのを承知の上で瞳を閉じる。
勝つには普通に突っ込んで攻撃を仕掛けるだけじゃダメだ、何か相手の不意をつくような攻撃を仕掛ける。それに加えて2対1では当然不利だ、せめて1対1のタイマンに持っていかなければ勝ち目はない。
それらを実現するにはどうすればいいか
俺は目を開けて助けを求めるように消えた渉の姿を追い求める。
やられてしまったものは試合から消されもちろん声は届かない。
考えれば考えるほど溢れてくる絶望の言葉をかき消すように、俺は辺りを見渡して何か策はないかと考えた。
「何か…何かないのか」
広がるステージに立つ三人の他には、何か状況を変えるような物はそう転がってはいないだろう。しかし、それは俺が見つめた足元に答えがあった。
「なるほど、そういうことか」
俺がニヤリと笑うとそれを見て小さく呟くと片桐は叫んだ。
「試合はこれからだ」
その言葉と同時に片桐と立花の両者は音もなくすばやく動き出す。
さきほどよりも素早い動きで迫る両者は俺のことを挟み撃ちにしようと二手に分かれると勢いそのまま突っ込んで来るようにお互い刀を握って体を狙って大きく振り払った。
その瞬間に左から回ってきた片桐の上から振り下ろされる攻撃を避けると同時にそのまま体を回転させて逆方向へと一歩出るとそれに続くように右からやってきた立花が放つ横に払いする刀を視認する。
立花のその攻撃に俺は体を後ろへと逸らし、ギリギリのところで避ける。
がすかさず隙を見計らったように刀を避けられた片桐は柄の部分を強く握ると再び刀を振り上げて俺の体を真っ二つにしようと刀を振り下ろした。
「くッ!」
それを見て俺は後ろに反らした体を起こすと振り下ろされようとしている片桐の刀を握る手に右膝を下から思いっきり突き上げるようにしてギリギリのところ軌道をずらすとその隙を狙ったように再び刀を握り直して攻撃を仕掛ける立花の姿を確認して確信した。
隙を見せた今しか攻撃のチャンスはない。
俺は片桐の攻撃を防いでいる右腕を伸ばして片桐のことを体ごと弾くと同時に姿勢を低くし地面へと左手を伸ばすとそれを掴み、力をいれると下から上へと思いっきり振り上げた。
「!?」
俺のことを攻撃しようとしていた立花はまさか自分自身がやられてしまうなんて思いもしなかったのか驚きの表情をみせ声にも声を出すと同時にフィールドから消えていった。
同時に俺は弾いた片桐と距離を取るように後ろに数歩下がると1対1になり俺の姿を見て驚きを通り越した姿を見て両手に握った刀に力強く握った。
「どうして、刀が二本も」
困惑する片桐の姿に俺は左手に握った刀を見つめた。
「これは渉が俺に残していった刀だ。このゲームはでやられて人間は消えるが刀は消えない、だから俺は渉の残したこの刀を持ってるってわけさ。ルール的にはなんの問題も何はずだ」
俺がそう言うと片桐はどこか悔しそうに唾を吐き捨てる。
その様子を見るに相手は焦ってるのをみて、俺はその隙を逃すものかと二本の刀を握ったまま片桐のもとへと真正面から突っ込んでいった。
息を大きく吸って集中力を切らさない、切らした瞬間に相手にやられる。
油断する暇もなければ息をする暇さえ俺には許されていなかった。あるのはただ目の前の敵を倒すだけ
俺は攻撃範囲に入ると体を突き刺すように左腕を伸ばす。
するとそれを待ち受けていた片桐は冷静に刀を横へと振り払い刀を弾くとそのまま手を話して親指を柄の頂点に来るような逆手に持ち替え俺の体に向かって刀を突き立てる。瞬きをする瞬間さえ無い俊敏な動きに俺はすぐさま右手の刀を下から上へと振り上げて攻撃を弾くと足腰に力を入れてそのまま左手に握った刀を片桐の腹部へと突き刺した。
そんな攻撃に片桐は小さく何か言葉をつぶやいたが俺にはそれが何といったのかは聞き取れはしなかった。
『GAME SET』『WIN Re:rights』
試合が終わりゴーグルを外した時には片桐と立花の姿は既にフィールドの外にあった。
その背中は悔しさというよりかは清々しさを感じるものだったのが印象的だった。
「やったね、龍ケ崎くん!」
そう言って飛び込んできたのは若葉だった、どうやら先に渉のもとへと近づいて一緒に試合の結果を見ていたようだったが、見事勝利を収めたことを喜んでいた。
それとは対照的に、どこか呆れたような顔を浮かべながらも笑みを浮かべている渉は倒れこむ俺に手を差し出した。
「大丈夫?」
「ああ、なんとかな」
俺はその手をしっかりと掴みながら起き上がらせてもらうと、おぼつかない足に渉は気づいて自身の肩に俺の腕を回した。
「悪いな」
「僕の方こそ」
ふらつく意識の中、そんな会話をする俺たちは、公園の外へと歩きだした片桐と立花の後ろ姿に目をやると、そこには敗者として勝ったものには何も言わない。そんな風な雰囲気を出しているように思えた。




