Start game
「それじゃあ試合前の基本的な話はここまでにして早速試合をしてみようか。まずこのゲームは銃と刀があるんだけど、一は初めてだから今回は刀を使って練習しようか」
そう言うと渉は俺に向かって棒のようなものを投げ渡すと手元の機械に触り操作をする。すると俺の手にはいつの間にか昨日の戦いでも使った刀が握られた。
その刀は当時小学生だった俺には長すぎて刃先は地面につきそうで、それを防ぐために腕を少し曲げなければいけなかった。
「この棒みたいのはソードグリップって言ってね刀を出現させるんだ。今、一の握っている刀は『ツクヨミ』と言って刃が長いのが特徴なんだけど...どう?刀を振り回してみて」
渉に言われ俺はその刀を適当に振り回してみた。
刃が長いにも関わらず手に馴染み重さを感じさせない動き
「気付いたみたいだね。そう、その刀は実際に存在しない。メガネを掛けた同士しか見えないようになっているんだ。さっき渡した棒、あれが人の動きに合わせて自動で計算したのをメガネに映像としてプレイヤーに見えるようにしているんだ」
「なるほど、だからこんなに軽いのか...」
俺は感心して刀を振っていると突然、フィールドの端にいた渉がニヤリと笑うと突如として目の前の俺に向かって走ってきた。
その手には刃が短い刀が握られいて、俺は昨日の上級生と戦い華麗に勝利を収めた姿を重ねて柄を強く握ると反射的に刀を大きく振り下ろした。
その瞬間金属が擦れる音が響く、その音は振り下ろした刀が弾き返された事を意味していた。
渉は俺の振り下ろした刀を手馴れた手つきでガードするとそのまま横に払う。
すると渉の狙い通り俺はそのままバランスを崩してしまうとその隙を逃すまいと渉の刀は俺の腹部を素早く深く切りつけた。
『YOU LOSE』
「はぁ...はぁ...」
その言葉が目の前に表示されたのは何度目だろうか、息をするのさえ苦しい中、俺は目の前で余裕そうな渉の姿を見ていた。
「取り敢えず今日はこんなもんかな」
「いやでも...俺一回も当てられないし...」
「うーんそうだけど、今日は相当疲れてみたいだし、悔しいのは分かるけど初めてなんだからそんな無茶しないで続きは明日にでも...」
「もう一回だけ」
俺は大きく息を吸って渉に言った。
「何となく掴めてきたんだ...」
渉は深いため息をつくと刀を向けて体勢を低くした。
「OK、それじゃあもう一回、これで本当に最後だからね?」
「ああ、分かった」
俺の言葉よりも先に渉は俺の元へと走り込んでくる。
渉の攻撃は大体決まっていて相手の攻撃を受けてそれを避け相手の隙を作るというものだった。
「だったら...」
俺は渉が攻撃範囲に来るといつものように刀を振り下ろした。
と同時に弾かれる刀、ここでバランスを崩してしまえばこれまでと同じように負けてしまう。俺は足腰に力を入れて踏ん張る。
鉄の擦れる音が再び辺りに響き渡る中、刀が弾き返されたと気付いたと同時に俺は刀を握る手に力を入れると横から隙を突くように振り払われる渉の刀を弾き返した。
これまでやられっぱなしだった俺の突然の反撃に渉は驚きの表情を浮かべる、と同時にニヤリと笑った。
「だけど、甘い」
そう言うと弾かれた自身の刀を一瞬だけ離したと思いきや手首を回し刀を親指が柄の端に来るように逆手に持ち変えるとすぐさま俺の腹部へと突き刺した。
『YOU LOSE』
「あの場面ではああやって行動していれば…」
「そんな落ち込まなくても、初めてにしては充分だよ」
練習終わりの帰り道、公園から出て夕焼けが照らす坂道の中を俺たち三人は横に並んでいつも歩いて帰路に着くのがこの時から日課となった。
「誰だって最初はこんなもんだよ、僕が剣道を始めた時なんて自分より小さい子供に負けてたくらいなんだから」
「あれ、聞いてる?って・・・」
「あの時、反応がもう少し早かったら攻撃に反応出来ていた…。いやでも、その前から見極められていたんだと思うし…」
「一…一ったら!」
その時の俺は渉に言われて気付いたのだがどうやら無意識に言葉に出してしまっていたらしかった。西日に輪郭がはっきり現れた渉と若葉の二人の面白いものを見るような顔は今でも忘れられない。
「どうやら龍ヶ崎くんは集中すると自然と言葉が出てきちゃうみたいだね」
「え?もしかして今考えていることを口に出してたか?」
「うん、もっと反応速度が早かったらとか見極められていたらとか言ってたし、それに刀を振り下ろす動きもしてたよ」
それを聞いた時に俺の頭の中では昔の記憶が蘇った。あれは幼稚園性の頃、俺は友達たちに混じって積み木を作っていたときのことだ
俺は子供ながらに他の友達よりすごいものを作ろうと考えていた。
しかし、そんな間に他の友達達は完成していてどうやら俺のことを見て笑っていたのだ。
当時の俺は何が面白かったのか分からなかったが考えてみればこの時から俺は集中しすぎると無意識に考えていると言葉を発してしまう癖がついていたのだろう。
俺はそれまで誰からも注意されなかった事への恨みを抱きながら、これからは深く考えるときは言葉に口を出さないようにしようと決めた。
「だけど、龍ケ崎の場合は反射神経はいいけど体力が低いのが問題かな」
「最初にも言ったけどこのゲームは現実世界を元に映像を付け加えている、つまり言えばこのゲームでは個々のプレイヤーの元からの能力が重要になってくるってわけなんだ」
「なるほどな」
思い出してみると確かに先ほどの試合で俺の攻撃がはじかれた時に渉の刃の動きは捉えていたがそれに対する体はついて来ないせいで負けてしまったようなものだ。
「だからこれからは練習する前に体力を上げる為に運動してからやろう」
渉の言葉に俺は無言で頷いた。
それにはもっと強くなりたいと思う感情の現れと同時に渉に対するライバルとしての野心、仲間としての尊敬だった。
「それじゃあ早速、いまから学校までどっちが早くたどり着けるか競争しようか!」
「分かった…けど若葉も走るのか?」
「いやいや、私は走るのとか苦手だし競争するなら二人だけでやってよ」
「まぁ、そうゆうことなら…」
赤いランドセルを背負う若葉の姿を、どこか楽しそうに微笑むその笑顔に俺は吸い込まれるように見ていると突然、渉は大きな声で言葉を発した。
「それじゃあ、よーいスタート!」
そう言って走り出す小さな渉に俺はもう一度若葉の微笑む顔を見ると大きく一歩を踏み出した。




