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第一話「水瀬ひかりの記録」

これは、いわゆる「魔法少女の物語」ではありません。


 奇跡も、希望も、世界を救うためのきらびやかな戦いも、この記録の中にはほとんど存在しません。


 あるのは、管理され、数値化され、消費されていく存在と、その過程を淡々と記した記録です。


 彼女たちは確かに戦います。誰かのために。

 けれどその結末が、物語のように報われるとは限りません。


 これは、誰も救われないかもしれない魔法少女たちと、

 その周囲にいる人間たちの話です。


 どうか、その前提のままお読みください

第一話「水瀬ひかりの記録」


            ◆


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第四管区・第二前線基地 廃棄記録 第一号


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 管理番号  :#0001

 記録種別  :定期戦闘報告

 対象    :第四管区所属 魔法少女

 記録日   :██年██月██日

 作成者   :管理官 黒木 誠


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個人日記 水瀬ひかり 16歳 第四管区第一期生


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 ██月3日


 今日で任官して三週間。

 やっとベッドが自分の場所だって気がしてきた。


 基地の食堂、思ってたよりずっとおいしい。

 今日の晩ごはんはカレー。

 お母さんのカレーとは違う味だけど、

 量が多いから、それはそれで好き。


 隣のベッドの安藤さんが、

 「ひかりって本当においしそうに食べるよね」

 って笑ってた。


 ……ちょっと恥ずかしかったけど、

 悪い気はしなかった。


 初任給、振り込まれてた。

 封筒に入れて、明日の面会日に渡そうと思う。

 お父さんの入院費、少しでも足しになるといい。


            ◆


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第四管区・第二前線基地 廃棄記録 第一号


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 対象氏名  :水瀬 ひかり(みなせ ひかり)

 生年月日  :██年██月██日(満16歳)

 所属期間  :██年██月██日より

 変換形態名 :《星灯セイトウ


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■初期ステータス


 魔力残存量 :98.4%

 身体損耗率 :0.1%(計測誤差範囲内)

 精神安定度 :A(良好)


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■今月の戦闘実績


 出撃回数  :4回

 撃破数   :魔族12体 (うち上位種 1体)

 負傷記録  :軽度(左掌、擦過傷 自然回復済み)

 特記事項  :なし


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■総評


 本個体は当期第一位の戦闘適性を示す。

 継続的な実戦投入を推奨する。


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個人日記 水瀬ひかり 16歳


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 ██月11日


 今日、はじめて人が死ぬところを見た。


 魔族じゃなくて、人間が。

 三番隊の、名前も知らない先輩が。


 私は安全区で待機してたから、直接は見てない。

 でも帰ってきた人たちの顔を見たら、

 ぜんぶわかった。


 夜、安藤さんが泣いてた。

 声を殺して、毛布をかぶって。


 私には何もできなくて、

 隣のベッドから天井を見てた。


 怖い、とは思わなかった。

 なんか……麻痺してた。


 かわりに頭の中でずっと、

 お父さんの顔を思い浮かべてた。


 辞めたい、とか思ったらダメだよね。

 やめたら、誰が払うの。


            ◆


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第四管区・第二前線基地 廃棄記録 第一号


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■██月 特記報告(月次)


 当月11日の作戦において、

 第三班所属の一名が任務中に死亡。


 対象個体 #0001(水瀬 ひかり)は

 安全区にて待機中のため、当該事案への関与なし。


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 精神安定度 :A → B(軽微な変動 経過観察)

 行動異常  :認められず

 離脱リスク :低


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■管理官コメント


 士気への影響は軽微と判断。

 予定通り、翌週より高難度任務への段階的移行を開始する。


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個人日記 水瀬ひかり 16歳


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 ██月19日


 変身、うまくなってきた気がする。

 魔力の流れ方が、最近やっと「わかってきた」って感覚がある。


 訓練のあと、黒木さん(管理官の人)に

 「筋がいい」って言われた。


 素直にうれしかった。


 帰り道に星が見えて、

 なんか急に、こういう空を

 お母さんと一緒に見たいな、って思った。


 ……任期、あと二年と八ヶ月。


 ちゃんと帰るから。

 絶対に。


            ◆


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第四管区・第二前線基地 廃棄記録 第一号


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■月末報告(同月)


 対象 #0001 今月の最終評価


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 魔力残存量 :96.1%

 身体損耗率 :0.7%

 精神安定度 :B(安定内)


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■翌月方針


 高難度域への投入を正式決定。

 生存率試算 :86%


 損耗が進行した場合の部位別再利用可否


  右腕  :可(魔力結晶付着確認)

  心核部 :要継続観察


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■備考


 家族への連絡事項 :なし

 (遺族連絡は損耗率85%超過時に移行)


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後記 担当管理官 黒木 誠 (手書き追記)


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 水瀬は 笑い方がいいやつだった


                   (削除予定)


        


                 

 第一話「水瀬ひかりの記録」、ここまで読んでいただきありがとうございます。


 この作品は、魔法少女という存在を「記録」という形で切り取る構成になっています。

 個人の感情や日常と、それを処理する側の無機質な視点。

 その差を、少しでも感じてもらえていれば嬉しいです。


 ひかりにとっては、食堂の時間も、封筒も、星も、どれも確かに“生きている側”のものでした。

 けれど記録の上では、それらは何一つ残りません。

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