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とある修復人の秘密  作者: レイン


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3/3

依頼品【フェイスタオル】


 都内某所、複数のビルが立ち並ぶ通り道。


 古くからある建物の一つに、1人の青年が周りを確認した後にエレベーターに乗り込んだ。本来は1階から6階まである他の階へ移動する為にボタンを使用するが、青年は1階のボタンを押したまま数秒待つと全ての階数のボタンが一度点滅してから手を離して、続けて4桁の数字を押した。すると、エレベーターは下へと下がり始めてすぐに止まった。扉が開くと目の前には薄暗い四畳ほどの部屋があり、一歩踏み出すと人感センサーにより部屋の一部が明るくなった。


 青年は後ろでエレベーターの閉まる音を聞きながら正面にある作業机に向かい、作業場の電気と換気用のスイッチを入れた。


「さて、今日の依頼品はどの程度だろうか・・・」


 青年は一言(つぶや)いた後に、1階の管理事務所に届けられて金庫に入っている荷物を下へと送ることの出来る仕掛けを作動させた。少し待つと、上から降りてきた郵送用の袋に入った依頼品を受け取って作業机の上へと静かに置いた。


「どうか、強い思いが込められていることを願う」


 作業机に座りながらいつもの口癖を呟いて、依頼品を開封し始めた。依頼品の郵便袋を開けると、何層もの緩衝材に包まれているチャック付きの袋に入れられた依頼品が入れられていた。


「本当に大切にしているんだな・・・」


 一般的な品ならここまで厳重に送る事はまずない依頼人の対応を見て、青年は嬉しくなり思わず微笑みながら郵便袋から取り出した。そして、依頼品にもしものことがないように丁寧に緩衝材や袋に入れられた依頼品を取り出すと、開封した物が本当に依頼品と同じ物か間違いがないように、作業机に置かれたPCの画面と見比べて間違いなく同じものだと確認した。


 依頼品は事前に知っていなければ分からないぐらい、元の大きさからは考えられないほど小さくなってしまっているフェイスタオルで、表側に描かれていたであろう柄は元が何だったのか分からないくらい消えかけていた。無事に残っている部分も糸のほつれや劣化などで無事な部分がほとんどないほどに損傷していた。


「一体どれほど使い続ければこのような状態までなるんだ・・・」


 青年は修復を請け負っている為、普段から物を大切に扱っている自覚は持っているが、思いもしない物を大切にしている人達がいて今回の依頼の品もその一例だった。普段タオルなどは取れない汚れが付いたり、大きく破れたりすると直すより新しいものを買っている為、ここまで大切にしている人が居る事に大いに驚いた。


「これなら・・・」


 大切にされている依頼品を前に感心と期待を持って、フェイスタオルの上に()()()を置いた後、依頼品に手を添えながら目を閉じて呪文を唱えるように(つぶや)いた。


「【記憶(きおく)(かて)に、(なんじ)姿(すがた)修復(しゅうふく)(ねが)う】」


 青年の言葉と共に依頼品の中心から周りに淡い光が放ちはじめた。淡い光は依頼品の上に置かれたものとフェイスタオル、青年の手にまで広がった後、フェイスタオルの半分に破れてい所から徐々に光が広がるように伸びていくと同時に、青年に()()()()()()()()が流れてきた。


 それは、物に宿る記憶の断片。長く大切にされた物にのみ起こり、僅かな思いが物に宿る現象だった。


 思いのほか様々な記憶が流れてきたので驚いたが、青年は今までも起こってきた現象だったので、時系列もめちゃくちゃな記憶がときおり脳内に流れる状態でも取り乱すこともなく、集中が途切れないように力を使い続けた。


 青年が制止してから数分もしないうちに、広がった光が本来のフェイスタオルの大きさに形作るまで広がると、時間をさかのぼるようにフェイスタオルの破れていた箇所や劣化している部分がきれいになっていった。数秒もかからないうちに、依頼品として持ち込まれたフェイスタオルは完全に新品に見える状態にまでなると、青年は一呼吸整えた後に言葉を紡いだ。


「【記憶(きおく)(かて)に、(おも)いを(かたち)に、(なんじ)姿(すがた)復元(ふくげん)(ねが)う】」


 青年がそう唱えると、光のみでフェイスタオルの形を作っていた部分と修復されたフェイスタオルの継ぎ目に両の手を添えながらほんの少しづつ光の部分をなぞっていった。すると、継ぎ目だった部分が違和感なく柄や素材までまったく同じもので形作られた。


 最初に唱えたとき時とは違い復元のペースは遅くすでに一時間は経っていたが、最後まで手が止まることはなくフェイスタオルの端まで手が進み光が消えると同時に、急に力の行き場がなくなった両手がそのまま通り抜けるように放り出された為、思わず椅子から落ちそうになったが何とか堪えて椅子に座りなおした。

 しかし、椅子に座りなおすと同時に疲労により疲れ果てた手を力なくだらりと下ろし、体をのけぞるように椅子へともたれかかった。


 しばらくあいだ動くことなくそうしていたが、時間と共に多少腕の疲れや体の倦怠感が軽減されたことで依頼品の確認のために体を起こした。

 青年は依頼品の上に置いた()()()()()()を手に取って小さな木箱の台座に置いた後、依頼品の確認を行った。


「さて、問題はないと思うが・・・」


 全体をくまなく見渡してもおかしなところはなく、手に取って裏側も確認してみて問題ない事が分かると丁寧に折りたたんだ。


「ふぅ、問題なく終わったのは良かったけど、思っていたより疲れがたまらなかったのは意外だったな。・・・・・いや、あれ程の年月の片割れだったら当然か。フェイスタオルの全てが残っていたならもっと・・・」


 もしもの考えが浮かんだが、すぐに意味のない事だと思い続きを想像するのはやめた。


()()()()()()()元の形が無くなってしまったから、残った部分をより大切にしていた為にあれほど強く思いが残ったのかもしれないな」


 青年は木箱の中身を見ながら、先ほどの作業中に見えた記憶を思い出していた。


 時系列で見えた記憶を整理して一番鮮明に見えたのが、持ち主(依頼人)の親が洗濯後に取り出した時にはすでに破れていて悪気なく処分しようとしていた記憶だった。おそらくその日の内に持ち主(依頼人)がフェイスタオルの行方を聞いて持ち主(依頼人)が慌ててごみ袋から取り出した時には、汚れと損傷でかろうじてつながっている状態で深い悲しみの感情まで残るほどに記憶に残っていた。


 見えた記憶にはもっと古い記憶らしきものもあったが、古い記憶にはノイズの様な乱れがあってとてもじゃないが思い出せない状態だった。それでも、唯一はっきりと見えた一番古い記憶では赤子の手に握られた状態での記憶だった。


「古い記憶があの状態だったのは、やっぱり敗れて半分以下になったことによる弊害だろうか・・・」


 それにしても、赤子の頃からあったとするならば破れてしまったのは何時頃なんだろうか?ごみ袋から持ち主(依頼人)が取り出した時に前に掲げた状態で破れていて長くなっているのに地面についていなかった事から推測すると、少なくとも小学生低学年の年齢ではないはず。仮に高学年、いや中学生ぐらいだとしても最低13年は使用してきていたことになる。

 そこからさらに破れて汚れてしまった状態からその後の記憶もいくつかあった為、さらに数年、もしかしたら十年以上経過してから依頼している可能性もある。


「すごいな。もしかしたら俺が生まれる前からのものかもしれないな。そうだとしても驚かないよ。だって、・・・」


 一番新しい記憶が涙を流しながらハンカチサイズになったフェイスタオルを密閉する為の袋に入れていた記憶だったからだ。それまでの記憶でも何とか長く使えるように洗濯の仕方や干し方、補強してまで大切に使い続けた記憶があった為、破れてしまってからも長い年月大切にされてきたことが分かって思わず自分の事のように思って涙ぐんでしまった。


 物は違えど大切にしている物が無くなる悲しみを知っているからこそ、依頼品の記憶に共感してしまった。


「さて、依頼は無事終わったから完了の連絡と郵送の準備をしますか」


 青年はそう言うと、送られてきた時と同じように緩衝材で包み込んだ依頼品を大きさのあった袋に入れてから、依頼品を郵便局まで持っていく専用のカバンに入れた。


 そして、木箱の中身の状態を確認した後に蓋を閉じると、懐に大切にしまい込んだ。


 今日はもうここに用はないので、依頼品が入ったカバンを持って作業場の電気を切ってからエレベーターへと向かった。エレベータ横にあるモニターで人が載っていない事を確認してからボタンを押して、到着したエレベーターに乗り込んで1階まで青年が行く間に、地下部屋の人感センサーによってついていた電気が消えて真っ暗な部屋になると同時に、一階について扉が開くと青年は普段通りに建物を出ていった。




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