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コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~  作者: 好きな言葉はタナボタ


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第103話 降り注ぐラスト・ベルゴン

「――オムニースドムニースラララテンシ――」


軍庁舎前の広場ではメカジキ少尉による《支配》の詠唱が続いてた。 解けかけたエリカの《支配》をキッチリかけ直しておこうというのだ。


詠唱がいつ完了するかもわからぬ中で、エリカは《支配》のスイッチをオフに戻そうと精神状態のコントロールに悪戦苦闘していた。 だが、大佐の存在と「今にも詠唱が終わるのではないか?」という焦りがエリカの心をかき乱す。


「――カイザード アルザード キスクハンセ――」


(マジヤバイ。 そろそろ呪文の詠唱が終わる気がする。 ...だめだめエリカ。 今はそんなこと考えてる場合じゃない。 さあ、あの丘のイメージを思い浮かべなさいな!)


エリカは大佐の命令「我々を襲おうとする者がいれば殺せ」を実行すべく広場に集まった群衆を警戒しながらも、横目でチラチラとメカジキ少尉のほうを気にする。


メカジキ少尉は額に汗を浮かべて《支配》の呪文に集中していた。 《支配》は非常に高度な呪文だ。 詠唱に長時間を要し、著しい精神集中を要求される。 数少ないエリート術者にしか使えない呪文である。


                 ◇❖◇


チラチラとメカジキ少尉を見ていたエリカの目が、彼の右手が薄く輝き始めるのを捉える。 詠唱が終わりに近づきつつあるのだ。


(ああっ、とうとう光り始めた。 くそっ、私の心め。 思い通りになりなさい!)


切羽詰まったエリカが自分の心と格闘していると、ガブリュー大佐から指示が飛ぶ。


「エリカ、メカジキ少尉の正面に立て。 少尉に背中を向けて、群衆から目を離さんようにな」


エリカの姿が透明で見えないから、メカジキ少尉が《支配》の呪文を投射する位置にエリカを立たせようというわけだ。


(ううっ、いよいよ呪文が完了なのね。 もうどうにもならないのっ?)


絶望に沈もうとする心を尻目にエリカの両足はガブリュー大佐の「命令」を忠実に実行し、指定された地点へと移動する。


「――レシビステアルグナマラノティシオン――」


メカジキ少尉の詠唱の声がひときわ大きくなる。 呪文は最終段階に入り、いよいよ《支配》の呪文を放出しようとしている。


(ああっ、もうダメ!)


目を閉じてその瞬間を待ち構えるエリカ。


そのとき、ベルタワーから大鐘の音が聞こえてきた。 リゴゴーンリゴリゴリゴゴーン。 アリスのラスト・ベルゴンの音である。


                 ◇❖◇


アリスがラスト・ベルゴンに込めた暗号のごときメッセージがエリカたちのいる広場に降り注ぐ。


(エリカさんどうにか大佐になったが! チョコレートが殺されクーララ《支配》されクビ《支配》され。 そう、廃軍どんなに災いゴハン屋さん、君にあたしをミザル市でもエリカさん。 ファントム殺させすたすたマロン・ケーキはもう食べたい!)


しかし、メカジキ少尉は何事もなかったように詠唱の最後の一節へと突入する。 それはそうだろう。 ラスト・ベルゴンと言えど音に過ぎない。 魔法的な効果は一切ない。


「――ドングリココロコ シーズオーカプリフェクチャ!」


メカジキ少尉の手の光がいよいよ強さを増す。 《支配》の呪文は彼の中で既に完成しており、あとは最後のセリフと共にメカジキ少尉は《支配》の呪文をエリカめがけて放出するだけ。


そのセリフを少尉がとうとう口にする。


「我に従い我の下僕とな――」


セリフの途中で突然メカジキ少尉は地面に両膝を突いた。


「げふっ」


少尉の手に集まっていた光が彼の体に吸い込まれるようにして消えていく。 《支配》の呪文は最後の最後で失敗に終わったのだ。


                 ◇❖◇


何が起こったのか誰にも分からなかった。 当然である。 エリカの行動は誰にも見えない。 メカジキ少尉のセリフを中断させたのは、エリカが真後ろに放った蹴り。 かかと蹴りがメカジキの鳩尾みぞおちをまともに捉えた。


蹴り終えた足を引き戻しながら、エリカはつぶやく。


「マロン... くん?」


エリカがメカジキ少尉を攻撃できたのは《支配》が解けたからである。 単にスイッチがオフになったのではない。 《支配》から完全に解放されたのだ。 そのことがエリカには直感的にわかった。 彼女の心を縛る《支配》の鎖は崩壊し、今ではその残滓ざんしが残るだけである。


でも、なぜ《支配》が解けた? エリカ自身にも分からなかった。 アリスが鳴らした鐘の音を聞いたら深い気持ちが込み上げてきて、それまでの動揺っぷりが嘘のように腹がわった。 次の瞬間には《支配》が解けていた。


(この気持ちは何なのかしら? お腹の底から力が湧いて来るような... 新鮮な感情)


エリカが感じているのは他人のための怒り、すなわち利他的な怒り。 人との交流が極度に少ないエリカには馴染みのない感情だった。

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