第102話 アリス最後のベルゴン
その頃ベルタワーでは、鐘を鳴らすための小部屋がセコイヤ大尉の号令に従い兵士で埋め尽くされようとしていた。
「よし、この部屋をすし詰めにしてやれ!」
増援に寄越されたのはムサ苦しい男性ばかり。 それが続々と小部屋の中に入ってくる。
この部屋が兵士で埋め尽くされて立錐の余地が無くなったとき、アリスはどうなっているのだろう? 壁際で兵士たちの屈強な肉体に押しつぶされている? それとも床に倒れ、兵士たちに踏んづけられている? いずれにせよ逃げ道は残っていない。 アリスはようやくそれを理解した。
(あれ? 逃げ場がない? あたし追い詰められた......)
それまでアリスは頭のどこかで「どうにかして逃げれるだろう」と考えていた。 「あたしを捕まえれるはずないやん」と高をくくっていた。 妙な指示を多発するセコイヤ大尉を心のどこかで見下してもいた。
しかし、いま目の前に押し寄せる兵の群れを見て、アリスは自分の考えが甘かったと思い知らされた。 セコイヤ大尉は自分よりも上手だったのだ。
(軍に捕まったら、あたしもエリカさんみたいに《支配》されてまう!)
アリスは心の底から震え上がった。 アリスは《支配》されて以降のエリカの暮らしぶりを見ていないから、《支配》されるとどうなるのかを具体的に知らない。 その無知がアリスに格別の恐怖と不安をもたらした。
追い詰められたアリスは必死で考える。 逃げ道は探すまでもない。 存在しないのは明白だ。 この期に及んでアリスにとって、ミスリル剣で活路を切り開くという選択肢は考慮の外だった。
(あかん。 もうどうしようもない)
どうしようもなくなったアリスは破れかぶれになって、「どうにかなあーれ」とばかりに大鐘を鳴らすロープに飛びついた。 アリスが思いの丈を込めた最後のベルゴン、渾身のラスト・ベルゴンである。
アリスの最後のメッセージを乗せた鐘の音が鳴り始める。 リゴーン、リリゴーン......
そこに、アリスがロープに飛びついたのを察した兵士たちもロープに殺到。 そのため、最後の鐘の音は乱れてしまった。 リゴッゴーンリゴリゴッリゴゴーン。
◇❖◇
アリスが鐘の音に詰め込んだメッセージが、そもそも整理不十分だった。 そこに兵士が殺到したものだから、このときアリスの念頭にあった様々な想念の断片まで鐘の音に混入し、アリスのラスト・ベルゴンが運ぶメッセージは暗号のようになってしまった。
(エリカさんどうにか大佐になったが! チョコレートが殺されクーララ《支配》されクビ《支配》され。 そう、廃軍どんなに災いゴハン屋さん、君にあたしをミザル市でもエリカさん。 ファントム殺させすたすたマロン・ケーキはもう食べたい!)
滅茶苦茶な鐘の音はベルタワーからミザル市の空に広がっていった。 リゴゴーンリゴリゴリゴゴーン......
◇❖◇
ラスト・ベルゴンと引き換えに、アリスは屈強な兵士たちに大鐘のロープごと捕まってしまった。 兵士たちはアリスの体を的確に捕まえてはいないが、強い力で我武者羅に抱きすくめられてアリスは逃げられない。
(痛い痛い。 離れろー!)
アリスは抗議するが、彼女の声は誰にも聞こえない。 仮に聞こえたとして、兵士たちがアリスを解放するはずもない。
アリスを捕らえた兵士たちがセコイヤ大尉に報告する。
「セコイヤ大尉! 捕まえたんじゃないかと思います」「オレもそんな気がします」「少なくとも消えてるロープの付近は抱きすくめてます!」
「よし、メカジキ少尉が来るまで現状を維持だ。 ドアを閉じ、厳重に守っていろ」
セコイヤ大尉は、メカジキ少尉がいまエリカの《支配》で忙しいことを知らなかった。 メカジキ少尉がすぐに戻って来ると思っていた。




