154.見た目が怪しい奴
組合長の言葉に一瞬思考が止まったが、気付いた瞬間には思わず叫んでいた。
「おい!ベイル!勝負の途中だぞ・・・・痛え!!」
ついでに机も放り上げたから、ジェリーしていたヒビットが怒り出した。更に放り上げた机がヒビットの頭に直撃。
悪い、ヒビット。けど今はそれどころじゃねえ。
「組合長。その名前はダメだろ!」
「何でだ?」
「ベイル!てめえ!喧嘩売ってんのか!!」
ああ!ヒビット邪魔!!詰め寄ってくんな!
「ヒビット、今の勝負俺の完敗でいいから黙ってろ」
そう言って500ジェリーを渡しておく。
「お!マジで?じゃあ、いいや」
はした金で黙るとは、安い男・・・・いや500ジェリーは、はした金じゃねえ!けど、仕方ねえ。
取り合えずその名前は止めさせねえと、クロにバレたらキレて王都・・・いや国が消える。あいつ俺みたいに心が広く無いからな。俺が海だとしたら、あいつはおちょこの裏だ。
「クラン名って実績から付けるって聞きましたよ。あいつら黒竜なんて討伐してないっすよね?」
「別に実績から付けないと駄目とか言うルールは無い。ただ、実績から付けた方が人が集まりやすい傾向があるから、今までのクランは、そう言う風に名付けしている所が多かっただけだ」
あー、そうなの。
「反対の理由はそれだけか?そもそもお前に反対する権利は無いんだけどな」
そう言って組合長が俺を睨みつけてくる。怖いから前みたいに片目だけでも眼帯つけといてくれません?出来れば両方つけてくれると嬉しいな。
「それなら別にいいっすよ」
思わず反対したけど、よく考えたら俺が反対する必要なかったな。あの引き籠りは俺が遊びに誘わねえと100年は家から出てこねえはず。それにもしクロにバレても女神だけ助けて、後は放っておけばいいや。
「ベイル、アーリット達のクラン名の何が気に入らなかった?言ってみろ!」
「さっき言った通り、クラン名は実績から付けるルールだと思ってました。俺はルール守らないのは許せないんでね」
「おいおい、あいつ物凄い嘘吐いてるぞ」
「あいつ、いっつもルール破りまくりじゃねえか」
「『ルールなんて破ってなんぼ』とか前に言ってたよな」
「『バレなきゃいいんだよ』も言ってたぞ」
あれー?俺そんな事言ったか?みんな誰かと勘違いしてねえ?
「まあ、お前が反対した所で、もう決まった事だから何言っても無駄だ」
そう言って組合長は自分の部屋に戻っていった。
■
今日は500ジェリー負けたから、もうジェリーする気も無いので、モレリア達の所で再び飲み始める。
「エル達も5級かー。大きくなったなあ」
「お前は親戚のおばちゃんか」
「いや、実際凄い事だぜ。俺とかクワロは、カルガーの師匠として歴史に名前が残るかもな」
そん時はカラーリングゲレロと娼館通いの事を、記録に残しておいてやろう。
最低な3日間?
あれは歴史から消さなきゃ駄目だ!
「ゲレロの言う通り、この国唯一の5級パーティです、凄い事ですよ」
「シリトラの言う通りなら、俺はこの国でたった一人しかいない『4落ち』だ。俺の方が凄いだろ?」
「うーん。悪い方で有名だから凄くないんじゃない?」
「モレリアは知らねえのか?初めての商人に俺の員証見せると100ジェリー貰えるんだ。この間なんか、わざわざ俺を訪ねて見せてくれって奴もいたんだぜ。凄いだろ!」
「ああ、ウン、スゴイネエ」
こいつ絶対凄いなんて思ってねえ。
「よお、お前ら戻ったぜ」
モレリアに俺の員証の凄さを説明しようとしたら、トレオンが割って入ってきた。
「あれ?トレオン調子良かったんじゃないの?」
「良かったけど、組合長から、いい加減コーバス戻って働けって、ぶん殴られたから戻ってきた」
「ハハハハハ、ざまあねえな、トレオン。それならさっさと働け!」
「ベイルは相変わらずムカつくな。勝ったからエール奢ってやろうと思ったけど、やっぱりやめるわ」
その言葉を聞いて意地汚い連中がわざとらしくトレオンに話しかける。
「おいおい、トレオン、残念だったな。それにしても組合長は酷いな」
「そうですね。そんな酷い事しなくても良かったのに」
「トレオンはどれくらい勝ったんだい?」
「ハハハハハ、仕方ねえ、お前らにはエール奢って、俺のギャンブル理論を聞かせてやるよ」
「はい!はい!俺も!俺も!トレオンの話聞きたい!」
「ベイルはダメだ!てめえはどっか行け!」
むうー。トレオンの奴何て心の狭い奴だ。こいつもクロと同じでおちょこの裏だ。
「まあ、まあ、トレオンさん。いいじゃないですか」
ここにいても酒が不味くなるだけだから、どこか行こうとしたら、見た事無い細目で細身の胡散臭さ全開のハゲが割って入ってきた。こいつ誰だ?
「ニシア!てめえは口を挟むな!ベイルに優しくしたら、つけあがるだけだって教えただろ!」
トレオンに怒られたって事は知り合いか?
「お前、王都で見たな」
「確か『緑』に所属してませんでした?」
うん?ゲレロとシリトラもこいつの事を知っているみたいで、警戒しながら立ち上がった。
「はい、一度王都の組合で会いましたね。私、以前『 深緑翼』に所属していた3級組合員のニシアと申します。色々あってトレオンさん達の『上を目指す』に加わる事になりました。これからどうぞよろしくお願いいたします」
そう言って礼儀正しく頭を下げるニシア。けど、見た瞬間思った、俺はこいつの加入は断固反対だ。
「いーや!てめえは駄目だ!トレオン!こいつはスパイだ!仲間に入れるのはやめておけ!」
「な、何言ってんだ、お前」
「そ、そ、そうですよ、人をいきなりスパイ呼ばわりは酷いです」
俺の言葉に慌てるトレオンとニシア。やっぱり鈍感トレオンじゃ気付かねえか。ニシアのこの慌てようで分かれよ。
「ち、ちなみに私がスパイだという証拠はあるんでしょうか?」
「ああ?そんなん、てめえのその顔だよ!」
「か、顔???」
「そうだ!細目でハゲ、そしてさっきから薄ら笑いしやがって、裏切る奴の典型じゃねえか!トレオン!こいつに隙を見せると、絶対後ろからバッサリやられるから仲間にするのやめておけ!」
・・・・・・
「えーと。それだけですか?」
「それ以上何があるんだ?」
十分だろ。これで裏切らない訳がねえ。
「お前、それは流石に失礼だろ。悪いなニシア」
「そうですよ。すみませんね、ニシア。この男、王都に名前が届くぐらいの馬鹿なんです」
ゲレロとシリトラは俺の代わりにニシアに頭を下げる。俺の父ちゃん母ちゃんにでもなったつもりなのか?
「取り合えずベイルは無視して、話の続きだ。ニシアは『緑』に所属していたんだな?ここに来たのは仇討ちか?」
「違いますよ。私はどちらかと言うとクランで反対してたんです。仇討ちよりも生活立て直す方が先だって言って。それなのに団長の仇を討った奴が、次の団長だって決まったらクラン内で主導権争いですよ。そんなクランが馬鹿らしくなって馬で遊んでいたら、トレオンさんと仲良くなったんです」
馬鹿らしくなって馬って・・・こいつも相当なギャンブラーか?トレオンと仲良くなるのも分かるぜ。
「そのトレオンは、正にあなた達の『緑』が狙っていたんですけど?」
「そうですね。団長達は怒ってましたけど、私は別に金が稼げればどう言われようが気にしないので、そう言ったら襲撃作戦から外されました。その後は、団長達主要メンバーがいきなり殺されて、残ったクランメンバーも、大半がコーバスに向かって殺されまくって、クランは解散。残った私達は団長達が人攫いに加担してたって事でペナルティで降格。更に王都じゃ今まで威張り散らしていたせいで、アーリットさん達のクランメンバー、その他大勢から目の仇にされましてね。途方に暮れていた所をトレオンさんに誘って貰ったって所です。ああ、当然トレオンさんが団長達を殺したとは思ってませんよ。流石にトレオンさんがどれだけ強くても主要メンバー相手に勝てるとも思いませんから。それに同じタイミングで他のクランも同じ目にあったんです。多分、全てのクランが誰かとんでもない人の逆鱗に触れたと私は思っています」
「とんでもない人ってのは誰ですか?」
「素人考えですが、出来そうな人は王都の総組合長か、今回の騒動で侯爵家が潰されていますから、その上・・・この国には今は公爵がいませんから・・・ね」
王族って事か。まあ王族の誰でもいいけど、オッサン達の事もまとめて倒したって考えてくれるならいいや。
「それじゃあ、僕からも質問。ニシアは王都に入る列で僕らの後ろに並んでいたでしょ?その時は商人の恰好してたのは?」
おお!そう言えば、俺達の後ろにこんな怪しい見た目の商人がいたじゃねえか!
「私、商業ギルドにも所属しているんですよ。あの時は凄い恰好した人が、どんどん列を譲られていくから、仲間だと思われたら早く王都に入れると考えて、敢えて仲間みたいな風で後ろをついていきました。そう言えば自己紹介がまだでした。商人ランク12級のニシアです。どうぞ宜しく」
「二つ所属できるの?」
それは初めて知ったぞ。
「出来ますよ。ただ二つ所属している間のメリットはほとんどありませんけどね」
「無いのかよ、だったら何でお前は所属してるんだ?」
「組合員引退した後の事を考えてですよ。引退してから商業ギルドに所属して頑張るより、そっちの方がいいと考えたからです。ギルドランク上げるのは、ある程度まではギルドに決められた金額を納めるだけで良いんですが、それだと商人のノウハウが分からないので、オフの日は商人として活動しています」
こいつトレオン達の所で大丈夫か?こいつら基本働かねえぞ。商人としての活動の方が多くなるんじゃねえ。
「12級ってまた、凄い高いね。ニシアは凄腕の商人なのかい?」
「いえ、全然。所属している王都から3つぐらい先の街まで、露店出すのが許される程度の旅商人クラスです。これが20級になると国中のどの街や村でも露店が出せます。そこから上はちゃんとした店を構えたり、他国の商人との取引許可、更にランクが上がれば地方貴族、王国貴族、王族と取引できる相手も増えてきます。王族と取引出来るのが確かランク30以上だったはずです」
ランク30以上ってまた凄い数あるな。そんなに細かく分けねえと駄目なのか?組合なんて無級入れて7つしかねえぞ。
「最初は10で別れていて、10級が見習い、1級が最上位で『店を構える事が出来る』だったらしいんですが、それだと1級がどんどん増えて、同じ級でも差がありすぎるって事で数字を逆にしたらしいです。下に級を増やすよりも、上に増やした方が、文句もなかったそうです。組合も商業ギルドを真似したって聞きましたから、いずれ30級組合員とか出てくるかもしれないですね」
30級組合員って聞くとギャグにしか聞こえねえな。星でも破壊出来ればなれるのかな。
「まあ、そう言う訳で、ニシアはこれから俺ら『上を目指す』のパーティメンバーだ。あんまりいじめるなよ」
「いーや、俺はこいつを信用出来ねえ。絶対裏切るから今のうちにコーバスから叩き出そうぜ!」
「え、えーっと。お近づきの印にエール奢りますよ」
「よーし、ニシアは今日から俺の親友だ!こいつに手を出したら俺がぶん殴るから、お前ら覚えておけ!!」
・・・・・
「ね、ねえ、トレオンさん、この人本気で言ってるんですか?ふざけてるだけですよね?」
「ニシア、悪いが、ベイルは本気で言ってるんだ。ただ奢ったエールを飲み終わると、自分で言った事忘れるから、親友はその間だけだと思ってろ」
「短!!忘れるの早すぎません?ベイルさんの頭大丈夫なんですか?」
「コーバスの連中は、ベイルはこういうもんだと思って諦めている。お前もすぐに慣れる」
「・・・・・慣れたくねえー」




