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短編物語。  作者: koma
3/3

騎士様と魔法使い

異世界恋愛風味です

 騎士という職は、多分に世俗的な羨望を孕んでいる。


 俺がこの道を選んだ動機も、至極単純なものだった。今のところ、その選択に悔いはない。


 相応の俸給と、約束された身分。そして何より、騎士の紋章を帯びて街を歩けば、女たちは一様に喜んだ。俺はその、甘やかな称賛を享受することに些かの抵抗も覚えていなかった。


「まぁ、素敵な騎士様」


 今日もまた、聞き飽きたはずの賛辞が耳を撫でる。

 公務のついでに立ち寄った、古びた魔法具店でのことだ。


 カウンターの奥にいたのは、およそ華やぎとは無縁の女だった。

 栗色の髪を無造作に束ね、煤けたような丸眼鏡をかけている。装飾を削ぎ落としたような佇まいは、店内の薄暗がりに溶け込んでしまいそうだった。


 それなのに。


「……ねぇ、何かいい品はある?」


 気づけば、俺は彼女に話しかけていた。

 彼女は静かに瞬きをし、それから、色素の薄い唇を開いた。


「たくさんありますよ」


 言って、次々と魔道具を薦められる。淡々とけれど丁寧に説明をするその仕草には、媚びるような色気が微塵も見受けられなかった。

 俺は思わず、喉の奥で短く笑った。


 ――変な女。


 俺という存在に、一顧だにしない。

 その事実が、凪いでいた俺の自尊心に小さなさざ波を立てた。


 それからというもの、俺は理由を見つけては彼女の店へ足を運ぶようになった。

 職務の余暇に。あるいは、ただの散策の途中に。


 そうして迎えた、聖祭の夜。


 街は灯火と喧騒に埋め尽くされ、人々は熱に浮かされたように踊り歩いている。

 その狂騒に当てられ、酷く摩耗した心地でいた俺は、導かれるように彼女の店の扉を叩いた。


「少し、休ませてくれない」

「どうぞ。お疲れのようですね」


 彼女は驚く風もなく、俺を店の奥へと招き入れた。

 祭りの喧騒が遠い残響のように響く静謐な部屋で、俺は重い身体を椅子に預ける。


「君は、祭りには行かないの?」

「人混みは苦手なので」

「はは、俺といっしょだ」


 俺は改めて、彼女の横顔を眺めた。

 やはり、飾り気のない、質素な造作だ。

 けれど。


「……化粧とかしないの? 見栄えするだろうに」

「必要を感じませんので」

「俺がやってあげようか?」


 彼女が瞬いた。


「騎士様が、ですか?」

「ああ、結構器用なんだよ」


 半分は冗談のつもりだった。

 しかし、彼女は思案するように小首を傾げた後、さらりと言い放った。


「遠慮しておきます」

「……どうして?」

「飾らずとも、『かわいい』と言ってくださる方はいますので」


 胸の奥を、冷たい針で刺されたような感覚が走った。


「……へえ」


 遠くで花火の音がした。


「それは誰」

「さあ、誰でしょうね」


 彼女は煙に巻くような笑みを浮かべる。

 その不透明な態度が、俺の独占欲を酷く逆撫でした。


 無言で立ち上がり、囲うように彼女を壁に追い詰める。


「教えてよ」

「嫌です」


 どこまでも不遜な女だ。

 俺は抗いがたい衝動に突き動かされ、彼女の頬に手を添えた。

 驚きに瞠目した瞳が、至近距離で俺を映し出す。


 近い。

 彼女の纏う、古い紙と薬草の香りが鼻腔をくすぐる。


「……騎士様」

「なに」

「近すぎます」

「そうかな」


 くらくらした。


「離れてください」


 生まれて初めての経験だった。

 与えられる愛に飽き足りていた俺が、自ら誰かを追い求めたいと渇望するのは。


 この、捉えどころのない生意気な女を。

 俺の手で、その平穏を乱し、屈服させてみたい。


 ――いや、違う。

 ただ、俺だけのものとして、口説き落としたい。


 夜の静寂の中で、俺は自身の傲慢な恋情を、確かに自覚した。




読んでくださってありがとうございました☺︎

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