第二話
話はそれより半刻ほど前に遡る。
「小虎ぁ。どこ行ったんだよ?飯だぞ~」
後藤晃は、一人で住む山奥の小屋で途方に暮れていた。
普段なら魚の乗った皿を置くとすぐに飛んでくる猫の小虎が、今日は朝からずっと姿を見せない。
もう昼もとうに過ぎ、流石に心配になる。
「まさか猪か熊に喰われちゃったんじゃないだろうな。・・・探しに行くか」
自分の住む小屋の周りだけでなく、この山のあらかたは把握している。
が、小虎がいそうな場所のどこにも姿が見えない。
「小虎~」
ふと、普段歩く道の脇の崖が目に止まった。
猫のくせに崖から滑り落ちるだとか。
「・・・あり得ないけど。とりあえず行ってみるか」
***
そして現在。
もちろん小虎は崖から落ちてなどいなかった。
その代わり、そこから進んだ先の、木々が少し開けた場所で見つかった。
「もう、何やってんだよ。帰るぞ、小虎」
だが小虎は動かない。何をしてるのか覗き込んで、強烈な違和感を抱く。
「・・・影?」
地面に映る、明らかな人の影。
空を見上げれば、今日は晴天で影が出るのはおかしくないが。
「えっ、誰の影?なにこれ?」
真下を見れば、ちゃんと自分の影はある。
では、これは一体何なのか。
とても嫌な予感がする。
逃げたほうがいい気がする。
小虎を抱え上げて逃げようとしたその時、当の小虎が喋った。
『助けてくれ、俺が見えるなら、ここから出してくれ!』
「・・・」
一瞬の間。そして晃は絶叫した。
「えええええええっ?!」
思わず小虎から飛び離れる。
「なっ、なんだよ、これ。え?小虎?お前・・・化け猫だったの?」
気が動転して、自分でも訳がわからないことを言っている。
だが、もちろん小虎は今まで喋ったことなどない。
当たり前だ、ただの猫なのだから。
恐る恐る、小虎にもう一度近づいてみる。
『おい、お前、そこのお前。聞こえてるんだろ、俺の声』
「またっ!!・・・・・・ん?あれ、でも」
よくみると小虎の口は全く動いていない。
そして、晃の視線に気づくと、いつも通りに、にゃあと鳴いた。




