第一話
まるで水の中にいるようだった。
呼吸のできる、仄暗い水の中。
水面のような地面の向こうには、いつもと変わらず朝が来て、夜になり、そして再び朝が来た。
初めの頃には数えていた日の数は、いつからか分からなくなった。
季節の移ろいだけを、頭上に移る景色で知った。
地の底では自由に身体を動かせる。
だが地上へと繋がる地面は硬く、どんなに叩いても蹴っても、刀で刺しても、破ることはできなかった。
待っていても、助けは来ない。
そう思わざるを得なかった。
あの忍びとの戦いからしばらく後、自分たちを探しに来た藩士たちが見えた。
必死で地下から叫んだが、彼らは自分に気付くことなく、物言わぬ楓の骸のみを運び去った。
俺は一生このままなんだろうか。
”裏”に所属して間もない頃、師範から教わった。
忍びの技は、術者自身が解かない限り、術者本人が死ぬか、かけられた側が自力でそれを解くしかないと。
今も出られていないということは、刹那というあの男はまだ生きているのだろう。
せめて術の解き方さえ分かれば。
きつく唇を噛み締める。
こんなところにいる場合ではない。
早く戻って戦わなくてはならないのに。
そう強く思っても-。
影の濃淡によるものなのだろうか。
彼の意識もまた、晴れの日は鮮やかに、月も見えない闇夜には霞がかったように。
まるで波のように流れていった。
***
そんなある日-。
ふと言いようのない感覚がして見上げると、一匹の猫がこちらを窺っていた。
「・・・?!」
窺っている?
では、自分が見えているのか?
衝撃で、彼は我を忘れ無我夢中で叫んだ。
「おい、猫・・・お前、俺が分かるのか?」
地面を強く叩く。
「頼む、誰かに伝えてくれ。ここから出してくれ!」




