第十話
「あー、小田おはよー」
教室に入ってきた小田は、ぎく、と少し立ち止まった。
うー・・・
「・・・ごめんね」
むっすー、として。無言で座っちゃったー。
それから、始終黙ってた。
あー、なんて言えばいいのか。
俺は。
どうしたらいい?
■ ■ ■
「小田、今週はここ掃除なんだよー」
いつかのように、帰ろうとする小田を引き止める。
小田は今日は完全無視を通そうとしているようで、脇を通り過ぎて行く。
「待って」
腕を掴む。
振り払われそうになるから、力を込める。
「ッ!!」
「話したいことあるから、待って」
「んだよ、離せ。俺には話したいことなんて無い」
「俺にはあるんだ」
「知らねえよ!」
キッ、と睨まれる。
知らず、俺の目つきも険しくなる。
「あの、加賀くん?」
振り向くと、どこか怯えた女子がちょっと後ずさった。
「あの、掃除終わったから、・・・私たち帰るね」
「あー、ごめんね、掃除してなくてー。あっ、邪魔になってるね、ごめんー。またねー」
顔を緩めて返事したら、ほっとした顔をして、俺達が塞いでないドアから出て行った。
「おい、離せよ」
「嫌だ」
小田の手を引っ張って、掃除用具入れの陰まで行く。
「聞いて欲しいことがあるんだ」
「俺は帰る。離せ」
「聞いてくれ!」
どんっ、
壁に押し付けたら、驚いた顔をされた。
その顔も、見たこと無い。
「俺さ、昨日考えたんだよ。始業式の日から小田にちょっかいかけてたのとか、席替えで手回ししてずっと隣の席になってたのとか、真っ赤な顔が忘れられないのとか、可愛いと思うこととか、抱きしめたのとか、・・・一昨日のキスとか」
小田の顔が、真っ赤に染まる。
「男にキスしたいとか、本気で思うって無いだろ。でも俺は小田に本気で、純粋にキスしたいって思った。だから、つまり俺は、小田のことが好きだ」
そこまで言ったら、小田の顔がふと歪んで、顔をそらされた。
「ふざけんな。あれだろ、なんかの罰ゲームとかでやらされてんだろ。いい加減にしろよな、ンッ」
口を塞いで唇を舌でなぞる。
歯列をなぞっって、口腔に侵入して舌を絡ませて
「イッ」
噛まれた舌が痛くて、涙が出てくる。
「ふざっけんなッ、って言ってんだろうが!!」
「・・・ふざけてない」
「だったらっ、謝んじゃねえよ!」
「は?謝る?」
「朝!」
言われて、脳みそ回転させて、気付いた。
そういや謝ったっけ。
思い出した俺の顔を見て、小田は続ける。
「俺のこと好きならなぁ、俺が嫌がろうが何しようが謝るんじゃねえ!」
「え、・・・小田って、M?」
・・・殴られた。
っていうかそれって
「え、何、俺が好きでいて良いってこと?」
これ以上無いくらいに真っ赤。
「小田は?俺のこと好き?好きでしょ?だから謝られてショックだったんでしょ?ね?好きでしょ?」
「嫌いだよ!」
「じゃあ、好きになって」
また、唇を重ねて。
舌を絡ませて。
心臓が高鳴るままに。
身体が熱くなるままに。
■ ■ ■
そのままの流れで、一緒に下校。
何を話すでもなく、ゆっくり歩いた。
「・・・そういやさっき、お前、なんて言った?」
「えー?」
「『席替えで手回ししてずっと隣の席になってた』?」
「あー、そうだよー?」
ぴたっと、隣で立ち止まる。
振り返れば、ワナワナと震えていた。
「え、気付いて無かったのー?だってー、偶然にしちゃありえないっいったー!」
頭っ、英単語が抜け落ちた・・・っ
「偶然だと思ってたのに・・・っ」
「えー?あ、もしかしてー、運命、とか思ってたり?」
「うるっせーっ!!」
もう一発お見舞いされそうになったから避けた。
「顔、真っ赤ー。照れてるんだー」
「ちげえよ!!」
抱き込んで、耳に口をつける。
「その顔、俺以外に見せないでね」
「ちょっ、バッカ、お前!此処は往来だ!!」
「誰も居ないって」
住宅街だし。
「でも、これ、約束して?誰か他の人にその顔見せたら、俺嫉妬でそいつ殺しちゃう」
「・・・ばーか」
「ばかでいいよ」
小田のことだから。
ここまで読んでくださって有難うございます。
なんとかくっつき(?)ました。
モノカキのリハビリに書いてみました。
ていうか、もうちょっと短いの書こうと思ってたのに、なんだか長くなった。
あれぇ?