第1話『俺、エロやめます!』
やぁ、皆さんこんにちは。一部の地域の方はこんばんは。
突然だが、急な自己紹介を許していただきたい。
俺の名前は樟霧光秀16歳蟹座。今年の春。新学年を前に、春休み最終日を迎えている、どこにでもいる普通の高校生です。
そんな、どこにでもいる平凡な俺が、他人と比べて秀でているものがひとつだけあります。それは、兼業でイラストレーターをやっていることです。
俺のイラストは、日本のイラストレーターの中でもかなり有名で、人気ラノベ小説の表紙を描いたり、一流企業のスマホゲームの絵師をやったりと、まぁ高校生にしてはそこそこ有名人な訳です。
ですが、そんな順風満帆な人生を送っているこの俺でも、なんというか、一端の悩みを抱えている――。
「この絵も違う!!これも違う!!あぁ!!仕事が手につかねぇ!!」
ただ今ペンタブレットのペンを投げ捨て、髪をガシガシと掻きまくっているのがこの俺、樟霧光秀である。
「うぅ、萌え…!ロリ…!ボンキュッボォオオン!!……って、違ぁああああう!!」
そう、俺の真剣な悩み……、それは知識の約9割が『エロ!!』に蝕まれていることだ。
「チキショウ!!俺のバカ俺のバカ俺のバカ!!よ、よぉーし!描くぞぉ!!次こそはしっかりと"ドラゴン"のイラストを描くぞぉ!!」
俺は再びペンを拾い上げ、ペンタブの上でペン先をなぞる。
「ドラゴン…、ドラゴン……、ドラコン………、ドリコン…………、ロリコ……、ってまた違ぁああああう!!!」
俺の性への執着はヤバイ、マジで常軌を逸している。このまま成人して、自分のエロを克服できなければ、間違いなく!
子供の頃に、いつかは出てみたいと思っていた、テレビニュースや新聞に顔と名前が載ってしまう!!
「ふぅ、ふぅ……、落ち着け俺。とりあえず深呼吸だ。考えろ。自分のエロを完全に抹消する、最善の方法を!!」
俺は再びペンを置き、インドや中国の修行僧がやるような瞑想の型を、椅子の上で極めてみた。
「……よし、今日から最低でも一時間!!頭の中のエロを封印しよう!!もし出来なかった場合は、俺の秘蔵コレクションを……、一冊ずつ自分の手で燃やす!!」
俺は椅子から勢いよく立ち上がり、両手を上に突き上げ、おもむろに叫んだ。
「俺の意思は固い!!これをねじ曲げられるやつがいるのならば!どっからでもかかってこい!!俺は一時間キッチリ耐えて見せる!!」
俺がそう叫んだ瞬間、突然机の引き出しが物凄い速さで開く。
そして、その机の目の前に立っていた俺のムスコが、宣言してから約2秒という速さで逝ってしまった。
「ハゥッ!!そ、そこから出てくるのは反則……やん……!!」
俺はそのまま股間を押さえながら床に倒れこむ。
すると、引き出しの中からヒョイと誰かが顔を覗かせたかと思ったら、「ふぅ、やっと着きました!!」という聞きなれない女性の声がした。
俺は、聞き覚えの無い声がしたのに気付いて、引き出しの方をゆっくり見上げる。
「あれー?おかしいですねぇ。時間と場所はここであってる筈なんですが……、ヨイショッ!」
その声の主は、ヨイショッと言って、引き出しの中から全身を露にさせ、その身を乗り出す。
「あれー?やっぱり居ませんねぇー……、時間を間違えてしまったのでしょうか……。」
声の主は、キョロキョロと辺りを見渡し、誰かを探しているようだった。
「ち、ちょっと!!誰か知らんが俺への刺客っ!!踏んでるっ!思いっきり俺踏んでるっ!!……ぐふぅッ!!」
それもそのはず、この謎の不法侵入をしてきた人物は俺の腹を、どこぞの変態が喜ぶようなハイヒールブーツで踏みつけているんだ。キョロキョロ周りを見ても見つかるわけがない!
「え!?あ、し、失礼しました!!」
謎の声の主は、踏みつけている俺の存在に気付き、ようやく俺の腹の上から降りてくれた。
そして、俺は腹をさすりながらゆっくりと立ち上がり、ここで初めてその人物と、対面を果たす――。
「お、女ァア!?」
そう、俺の目の前に突如として現れたのは女だった。特徴としては、とにかく可愛い。だが、着ている服は現代の服装としてはいささか違和感を覚えるような、白と黒と緑の蛍光色でカラーリングされた、未来チックな服を着ていた。そして、極めつけは、どこかで見たことあるような、腹部の白いポケット。
女は、目を丸くして驚いていた俺に謝罪をする。
「先程は、大変申し訳ありませんでした。」
「あ、いえ、こちらこそ。新感覚をご馳走さまでした!」
おおっと、先ほどの痛みが快感に変わる様をついつい口走ってしまった。
「あら?以外とこの状況に驚かれないんですね?大体の方は、この状況を頭の中で処理できずに混乱されるのですが……。」
この女の子の言う通りだ。そういえば、この子って今どこから出てきたっけ?
「あ、あのぉー……、さっきは気持ち良かっ…………、じゃない!い、色々あったせいで、こう見えても結構パニクってるんすけど……。」
俺は下手に訊ねてみる。まず、何が目的で、どんな方法を使えばこんな状況が成立するのかが謎だった。
すると、謎の女の子はニコッと笑って自己紹介を始めた。
「そうですよね!やっぱり驚きますよね!!……、申し遅れました!私、名をシスティエーラと申します!!システィとお呼びください!以後お見知りおきを!」
「は、はぁ……。」
「あ、まだやっぱりよく分からないって顔してますね?では、お茶でも飲みながらご説明しましょう。」
システィと名乗る女の子はそう言うと、腹部のポケットの中に手を突っ込んでゴソゴソとまさぐり始めた。
「テッテレー!どこでもティーセットー!!」
おっほぉ、さっきから気にはなっていたが、やっぱり四次元的なポケット的な著作権的なアレ的な奴だったか。
「ささっ、お茶でも飲んで、気を落ち着かせて下さいませ!」
システィは湯飲みと急須を出して、程よい温度に保たれたお茶をゆっくりと目の前の湯飲みに注ぐ。
「ズズズッ……。ホッ、それで、システィとやら……。君は、未来から来たロボットかなんかなのかい?」
俺の質問にギョッとするシスティ。
「ど、どうして私がロボットだと!?あなたは名探偵ですか!?」
真実はいつも1つ!!とか言ってみたいのは山々なんだが、この状況って、アレに似てるんですよねぇ……。
「いや、まぁ、何となくだよ。」
やっぱり言えない!こんな可愛い子があんな人語を喋る謎の青い猫型ロボットみたいだからとか、クレームが入りそうで言えない!!
「そうですか……。てっきり私とキャラが被ってしまっている人が居るのかと思いました!」
うん、名推理……。
「……と、とりあえず。一旦この話は置いといて、君の用件を聞こうか。」
俺は話を戻す。
するとシスティは、急に真面目な顔をしてとんでもないことを口にする。
「光秀様……、あなたは、未来機関の意向により、十人の内の一人に選ばれました。」
それは、唐突だった。先程まで普通の高校生、普通の暮らし、普通の人生を送ってきた俺が、"何か"に選ばれたとのこと。
そして、その"何か"は、俺の抱えていた悩みを解決へと導く糸口でもあった――。
「お、俺が……。い、一体何に……?」