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東照の王  作者: こめい
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第五話 ヤマト戴冠と新たなる世界の創生

東方最後の守護者を越えたイワレは、ついに約束の地――ヤマトへ足を踏み入れた。


そこには、これまでの世界とはまるで異なる静寂が広がっていた。


風は澄み、


水は透き通り、


大地は脈打っている。


この地には停滞も瘴気も存在しない。


世界が生まれたままの姿を保ち続ける、原初の聖域。


世界の根源が眠る場所だった。


「……ここが。」


イワレは静かに呟く。


「兄上が命を懸けて目指した場所。」


黄金の道は霊峰の頂へと続いていく。


その先には、天を支える柱のような巨大な霊樹が悠然とそびえ立っていた。


その時。


霊樹の前に、一人の男が静かに姿を現す。


争う意思はない。


それでも、その存在だけで天地が静まり返る。


白銀の長髪。


星々を織り込んだ神衣。


その瞳には、幾千年もの時が宿っていた。


東方の古代神。


ニギハヤヒ。


「よく来られました。」


穏やかな微笑み。


その一言だけで、この神がどれほど長く世界を見守ってきた存在なのかが伝わる。


「ナガスネヒコは最後まで忠実でした。」


「彼は世界を守ろうとした。」


「あなたは世界を変えようとした。」


「どちらもまた、正しかったのです。」


イワレは静かに頷く。


「私は争いに来たのではありません。」


「停滞した世界へ、新しい命を吹き込むために来ました。」


ニギハヤヒは満足そうに目を閉じる。


「その答えを待っていました。」


ゆっくりと腰の武装を外す。


天の羽羽矢。


歩靱。


神代より受け継がれた二つの神宝。


それらを静かに地へ置く。


そして。


深く膝をついた。


「今日より、この地はあなたのもの。」


「世界は、新たな王を選びました。」


それは敗北ではない。


継承だった。


守護の時代から。


創世の時代へ。


世界そのものが主を替えた瞬間だった。


イワレは神宝を受け取り、霊樹の根元へ歩み寄る。


そこには、一つの祭壇があった。


飾りはない。


ただ静かに世界の鼓動だけが響いている。


ここが。


世界の根源。


イワレはゆっくりと《フツノミタマ》を抜く。


兄・イツセ。


八咫。


ナガスネヒコ。


旅で出会ったすべての者たちを思い浮かべながら、静かに剣を祭壇へ突き立てた。


「眠れる根源よ。」


「旧き理を終わらせよ。」


「そして。」


「新たな世界を始めよ。」


黄金の光が溢れ出す。


## ――天照す因果の太陽アメタラス


神威は空へ昇る。


霊脈を駆け巡る。


海を越え。


山を越え。


世界中へ広がっていく。


西の荒野では、枯れた大地に若草が芽吹いた。


南の魔境では、永遠に晴れなかった黒雲が消えていく。


北の凍土では、氷の下から命の水が流れ始めた。


遠く離れた村では、生まれたばかりの子どもが初めて笑う。


誰も理由は知らない。


それでも世界中の人々が空を見上げた。


世界が、生まれ変わっていた。


それは奇跡ではない。


世界という理そのものが、新しい時代へ歩み始めたのだった。


ニギハヤヒは微笑む。


八咫も静かに頭を垂れる。


「これが……。」


「真なる神王。」


イワレは静かに空を見上げる。


光の彼方には、兄の面影が見えた気がした。


「兄上。」


「約束は果たしました。」


一筋の風が吹く。


まるで答えるように。


イワレはゆっくりと玉座へ歩み、静かに腰を下ろした。


その瞬間。


世界中へ鐘のような音が響き渡る。


神々は天へ帰る。


人は自らの足で未来を歩き始める。


神代は終わった。


人の時代が始まる。


その玉座に座る者の名を、人々は永遠に語り継ぐ。


初代神武天皇――イワレ。


そしてこの日こそが、世界が再び生まれた日として、後の世まで神話となるのである。


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