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東照の王  作者: こめい
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第二話 絶対障壁との激突と血の教訓

イワレの権能――《天照す因果の太陽アメタラス》。


黄金の道は大地そのものを書き換え、険しい山脈を平野へ、荒れ狂う魔境を静寂へと変えていく。


西から東へ。


数多の国々を一瞬で越えた兄弟は、ついに世界最東端の聖域――ヤマトの入口、孔舎衛坂へ辿り着いた。


その時だった。


黄金の道が、不意に止まる。


まるで世界そのものに拒絶されたかのように。


光は進めない。


因果も届かない。


目には何も映らない。


それでも、確かに"壁"がそこにあった。


「……ほう。」


イワレが静かに目を細める。


「我が道を阻む者がいるとは。」


坂の頂。


そこには一人の男が立っていた。


黒鋼の神衣を纏う巨躯。


ただ立っているだけで、大気が軋み、空間そのものが外敵を拒絶する意思を持ち始める。


東方最後の守護者。


ナガスネヒコ。


「西の神王。」


低く響く声が天地を震わせる。


「ここから先は、一歩たりとも通さん。」


「退け。」


イツセが前へ出る。


「我らは世界を停滞から救うために来た。貴様一人が立ち塞がれる道ではない。」


大剣へ手を添える。


迷いはない。


数百万の魔王軍を存在ごと断ち消した一撃。


相手が軍勢であろうと、一人であろうと違いはない。


「消えろ。」


## ――絶対概念切断


世界から音が消えた。


色彩が消えた。


剣は肉を斬らない。


存在そのものを断つ。


因果そのものを裂く。


必滅の斬撃が、ナガスネヒコへ到達する――


その瞬間。


**ガキィィィィィン!!**


世界が悲鳴を上げた。


絶対に断たれるはずの男は、微動だにしない。


それどころか。


斬撃そのものが鏡へ映った光のように反転し、イツセへ襲い返った。


「……なに?」


右腕が消えた。


脇腹が消えた。


肺が消えた。


斬られたのではない。


最初から、その部位が存在しなかったことへと書き換えられていた。


「兄上!!」


イワレが駆け寄る。


しかし、その傷は癒えない。


《因果》を書き換えても。


《存在》を修復しても。


世界そのものが、それを拒絶していた。


ナガスネヒコは静かに口を開く。


「天より降る光は、大地を貫けぬ。」


その背後では、東の空から巨大な朝日が昇っていた。


朝焼けが黒き鎧を神々しく照らし、その姿はまるで世界そのものの化身だった。


「……そうか。」


血を吐きながら、イツセは笑う。


敗れたからではない。


敗北の理由を悟ったからだ。


「イワレ……。」


残された左手で弟の肩を掴む。


「俺たちは……太陽の眷属。」


「兄上、話すな! 今すぐ俺が――」


「やめろ!!」


その怒声が、イワレを止めた。


「世界は……東を守っている。」


「昇る太陽へ刃を向ける者に……この世界は力を貸さぬ。」


イワレは息を呑んだ。


ナガスネヒコが強いのではない。


世界そのものが、東を守っている。


だから神の力すら届かなかった。


「太陽を……背負え。」


イツセの声は弱々しく、それでも力強かった。


「南へ回れ……紀伊の森へ。」


「太陽を背にした時……初めて、お前は勝てる。」


「しかし、兄上は……!」


「行け。」


イツセが微笑む。


「新たなる神王よ。」


残された左腕が大地を叩く。


最後の《絶対概念切断》。


斬ったのは敵ではない。


兄弟の間に横たわる空間そのもの。


天地を裂く巨大な断層が生まれ、ナガスネヒコとの間を隔てる。


それが兄の、最後の一太刀だった。


「……兄上。」


黄金の涙が、一粒。


静かに大地へ落ちる。


イワレは深く頭を垂れると、踵を返した。


黄金の道は東ではなく、南へ。


未知なる魔境――紀伊へ向かって伸びていく。


この日。


神王イワレは、生まれて初めて敗北を知った。


しかし、この敗北こそが。


後に世界を統べる神王を生み出す、最初の一歩となる。


東征は、まだ始まったばかりだった。


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