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竜障害 ~もう一つの競竜~  作者: 敷知遠江守
第二章 離合 地一級編

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第39話 情勢の変化

 事件から三週間が経過している。

 すでに岡山競竜場では第四節の特三『七夕賞』、第五節の特二『英田記念』、第六節の平特『倉敷特別』の開催中止を表明している。実はそれまで、岡山競竜場は第四節、第五節の四か月で収益の半分を稼いでいて、その開催ができないというのは最悪であった。


 さらに最悪だったのは、この事件の裏で瑞穂グランプリ『天皇杯』が鈴鹿で行われていた事であった。初の瑞穂での開催という事で世界から注目を浴びている中での出来事であり、本来であれば国内だけの事件であるはずが、世界に報じられてしまう事に。


 当然のように呉越国はこれを非難。今回は岡山であったが、来年はきっと鈴鹿で同じ事が起きるであろう。なんという野蛮な事だろうか。瑞穂で国際競争の開催など最初から何かの間違いであった。このような愚かな決定を下した者たち全員の辞職を要望する。そう声高に叫んだ。


 国内の新聞も論調は二分してしまっている。

 現在、瑞穂にはいわゆる大手新聞といわれる新聞が三社ある。それが、からわ新聞、瑞穂政経日報、産業日報の三社。以前は他に何社かあったのだが、隣国から工作資金を受け取り、国内の破壊工作を支援していたという事実が発覚し、廃業に追い込まれてしまっている。


 この三社は、いずれも中道をうたってはいるのだが、かわら新聞は左派に傾き、産業日報は少し右派に傾いていると巷では言われている。今回の件に関して言えば、からわ新聞は問題の発端となった騎手を悪者とした記事を書いており、瑞穂政経日報は競竜場で暴れたヤクザを公正競争違反で裁くべきという記事を掲載、産業日報はこの事件そのものが呉越国の工作の可能性があるという記事を掲載している。


 さらに大手三社とは別に日報通信、東西通信という通信社もある。この二社は自分たちでは新聞を販売せず、記事を書いて地方新聞に販売している。ただ、この二社は態度が全く違っていて、東西通信は完全に極左。日報通信は中道左派。これは国内だけでなく海外からもそう思われているようで、海外のまともな新聞は東西通信の記事は与太話としてあまり参考にはしていない。

 この通信社二社は共にかわら新聞と同じ立場を取っており、この二社から記事を買っている地方紙は、総じてかわら新聞寄りという感じになっている。


 国内の報道は二分しているが、竜障害協会の中はほぼ意見の統一を見ている。かわら新聞が報じているように、悪いのは雑賀であり、ただちに諏訪厩舎を処分せよというもの。

 そんな竜障害協会に待ったをかけている団体がある。それが競竜の総元締めである瑞穂競竜協会と竜主の会合である瑞穂竜主会。

 これが競竜協会だけであれば、越権行為であると竜障害協会は強く反発したであろう。だが竜の提供者である竜主会が待ったをかけているという事で、処分そのものは定まっているのに、それを下せないという状況になっている。


 こういった情報が、潮騒会の日比野部長から諏訪のところに逐次届けられている。高遠、雑賀、保科、本多といった厩舎の首脳たちは毎日諏訪の部屋に入り浸っており、情報を共有してもらっている。


「日比野部長が竜障害協会が折れるかもしれないって言っていたよ。なんでも、この件は競竜協会と合同で対処していく事になるかもしれないんだそうだ」

「また、えらい大きな話になってきましたね。競竜協会と合同って事は国際問題って事ですよね」

「ああ。どっかの新聞も書いていたけど、時期が時期だっただろ。もしかしたらヤクザを語った呉越国の工作員のしわざだったんじゃないかって」


 その情報は高遠も新聞を読んで目にしている。もしかしたらと期待も抱いている。ただ、まだどうなるかはわからないと日比野は言っているのだそうだ。


 何年か前から、かわら新聞と産業日報はなにかにつけて対立しており、真っ先にかわら新聞が問題の騎手を処分せよと書いたのを見て、産業日報は事件の裏に呉越国がいる可能性があると指摘した。そのせいで、当初は産業日報のいつもの逆張り記事という反応であった。だが呉越国が声高に叫んだ事で、産業日報の論調を裏付けするような形になってしまい、産業日報に賛同する声が巷では増えてきているらしい。

 ただ、そのせいでかわら新聞系の放送などでは、態度を硬化して連日のようにこの事を報じさせている。

 竜主会の中でもまだ意見は割れているそうなのだが、すでに会長をしている白詰会の一条会長は呉越国の工作という方に大きく傾いているのだとか。


「あくまで仮の話としてですよ。もしも竜主会が呉越国の工作いう意見が大勢になって、竜障害協会が我々を処罰しよういう意見で押し切ろうとしたら、そん時はどうなってまうんでしょうね」


 本多の疑問に、諏訪と高遠の表情が強張った。二人とも顔を見合わせて発言できないでいる。そんな二人を見て保科が咳払いをした。


「最悪の事態になるかもな」

「最悪の事態って、例えば?」

「例えば、傘下の調教師を競竜に戻すとかな。竜障害はまだ新規での開業が非常に少ない。ほとんどの会派が手を引いてしまったら、もはや開催はままならないだろうな」


 保科はそう言うのだが、諏訪は「さすがにそこまでの事にはならないだろう」と指摘。高遠も「協会だって馬鹿じゃない」と指摘。だが、それでも諏訪も高遠も不安は拭えなかった。


「そんな事態にならないように、腹いせのように、ひたすら嫌がらをしてきたりしてな」

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