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竜障害 ~もう一つの競竜~  作者: 敷知遠江守
第二章 離合 地一級編

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第38話 日比野の覚悟

 何があっても会派は味方に付けておかないといけない。部長が来る前、諏訪は雑賀にそう言い含めていた。その為には小早川たちの時のように正直に話をし、実情をわかってもらう必要がある。それで理解されなかった場合は、もはや自分たちを守る組織は無く、諦めるしかなくなる。


「あの、喋る前に一つうかがいたいのですけど、部長さんは俺たちの事をどのように思っているのでしょう?」

「どのようにって?」

「その、今回の件について、それなりに事前に情報は入ってはいますよね?」


 その物言いに日根野部長は少し不快そうな目を雑賀に向けた。その後、諏訪に視線を移し無言で二人を観察し続けた。


「何が言いたいのかはわからないが、私は本当の話が聞きたくてここに来たんだ。部下からの報告じゃない本当の話が。どのような対処になるにしても、最終的に会長に報告しないといけない事案だろうからな」


 『処分』ではなく『対処』。その単語で諏訪は日比野の発言に偽りは無いと感じたようで、雑賀に一から話すように促した。

 諏訪の指示なら、雑賀にとってもそれ以上考えるような事は無い。「少し長くなる」と断った上で、春香との出会いから別れ、そして救助要請、救助、警察への対応と丁寧に話していった。それを日比野は真剣な顔で、一言も相槌を打たず、ゆっくり咀嚼するように聞いていった。

 全ての話が終わると、日比野は「ふう」と大きく息を吐き出し、冷めてしまったお茶をすすり、両目を閉じて考え込んでしまった。諏訪、雑賀、高遠がじっと日比野の姿を見守る。


 再度目を開けると、日比野は再度、「ふう」と大きく息を吐き出した。


「なるほど。ヤクザなど知らないと白を切っていると聞いていたが、確かに関係無いと言えば関係は無いな。だが世間一般の常識から考えれば、そんな詭弁は通じないだろう。それはお前たちもわかっているはずだ」

「お言葉ですが部長、報復の話は今我々が話したからであって――」

「諏訪君。私は君の判断についてとやかくは言っていないよ。あくまで現状で出回っている情報を世間一般がどう感じているか。それについて、いくら今の経緯を説明したところで詭弁と言われるだけだろうという話をしている」


 ぴしゃりと言ってのけた日比野に、諏訪はぐうの音も出なかった。だが、雑賀は意味がわからず困惑顔。きょろきょろと日比野と諏訪を交互に見ている。


「で、諏訪君はこれからどうしようと考えているんだね。いくらなんでも、亀のように首をすくめていたら事が好転なんて風には考えてはいないのだろう?」

「今回の件、一部の報道に情報を漏らそうかと」

「一部の報道というと?」

「大熊調教師は競報新聞あたりが大手で良いのではないかと言っているんですが」


 日比野は腕を組み、少し考え、無言で首を横に振り諏訪の案を却下した。


「駄目だな。いや、報道を使うというのは悪い手では無いと思うんだ。だが選ぼうとしている相手が最悪だ」

「競報新聞に何かあるのですか?」

「君は今回競竜場で暴れた奴らの事はどの程度知っているんだね?」


 まだ報道では『暴漢が暴れて競竜場が閉鎖になった』としか報じられていない。だが、協会の監査員たちからの情報で暴れた奴らの事はわかっている。広域反社会組織『岡田組』。


「まさか、競報新聞って『岡田組』と関係があるんですか?」

「競報新聞がというより、その親会社のかわら新聞だな。君は聞いた事無いかね? 新社会人や大学生の一人暮らしの家に突然やってきて、新聞を契約させる訪問販売員の話を」

「ああ、以前耳にした事があります。追い帰そうとすると扉に足を挟んで、契約するって言うまで帰らない押し売りの話ですよね」

「あれが岡田組の下っ端だよ。そいつらが押し売りしているのがかわら新聞だ。そして警察に被害届を出そうにも、なぜか受理してくれない。警察だって新聞にごちゃごちゃ書かれたくは無いからね」


 見る見る諏訪の顔が青ざめて行く。日比野の説明で、色々と何かが見えてきてしまったのだろう。


「ヤクザ、新聞、警察、協会、ここまでが手を組んで敵にまわった現状、どうやって対抗していけっていうんだろう……」


 その諏訪の一言で、やっと雑賀も事態の深刻さに気が付いた。つまり自分たちの前には巨大な組織が罪を負わせようと舌なめずりをしているという事らしい。

 絶望的な顔をする諏訪、雑賀、高遠に日比野が優しい目を向ける。


「なに、君たちにはまだ我々会派が付いているじゃないか。我々は不正をする者以外は全力で守る。たとえ相手が巨大な組織であろうともな」

「相手が外国政府でもですか?」

「我々にも同士はいる。他国政府が相手というなら政府を動かし、同盟国を動かし、徹底的に戦いぬいてやる。何もせずに敗戦を受け入れるなどいう選択肢は存在しない。それが我ら潮騒会のやり方だ」


 「何か言いたい事でもあるのか?」と日比野は諏訪にたずねた。たずねたというには少し威圧がすぎただろう。明らかに諏訪は委縮している。


「会派はそうかもしれませんけど、本社の社員はそこまでの覚悟は無いように思いますけど」

「はて? うちの部にそんな弱腰の奴がいただろうかな。名前を教えてくれたら根性を叩き直すんだがな」

「そう言われて名前が言えるわけないじゃないですか!」


 小気味良い諏訪の指摘に日比野は大笑い。その後、残った茶をすすり、一旦気持ちを落ち着かせた。


「事情はわかった。問題は対処だな。協会と対立するという事を考えると、慎重を期さねばならん。帰って会長と相談し、じっくりと対策を練るとするか」

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