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竜障害 ~もう一つの競竜~  作者: 敷知遠江守
第二章 離合 地一級編

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第31話 大惨事

 ヤクザの数は画面で確認できる限りで十人程度。全員手に鉄の棒や野球の打棒を手にしており、観客席を殴りつけ壊しまくっている。さらに硝子戸が割られ、ゴミ箱も壊されている。観客には手を出していないらしく怪我人は出ていないようだが、警備員が倒れてうずくまっている。

 さらにそんなボロボロになった観客席に上空から硝子片が降り注ぐ。二階の観覧席の硝子が割られてしまったらしい。夜間照明に照らされて硝子の破片がキラキラと煌めく。


「これ……修復にいったいなんぼかかるんや?」

「廃場かもしれへんな……」


 あまりの惨状に、都築と小早川もそんな感想しか出てこなかった。


 周囲からは、「何があったらあんな事になるんだ?」という声や、「何の目的があってあんな事をしているんだ?」という声が聞こえる。さらに「警察は何をやっているんだ!」という罵声も。


「警察なん、そう簡単にあんな山奥まで来るかいな。どんだけ山奥にある思うてんねん」

「まあ、呼んでも三時間は来へんわな。岡山競竜場なめんなや」

「相手がヤクザやって知ったら、急に耳遠なるんがあそこの郡警やしな。事務棟から通報は行っとるやろけど、まあ来へんやろ」

「出動準備には時間がかかるとかなんとか時間稼ぎしてな。ほんでヤクザが引き上げた後に、のこのこ現れんねん。途中一本道やのに、不思議な事にヤクザの車とはすれ違わへんねん、これが」


 やくざが暴れている画面を見ながら、都築と小早川がぼやくように言うのを、荻が「言うてる場合ですか?」と冷静に指摘。だが、小早川と都築は極めて冷淡な会話を続けた。


「阿蘇におるうちらに何ができるいうねん。派手に壊されとるなあって指咥えて見てるだけしかできひんやろ」

「そやな。何をするんやって、声くらいあげたってもええけどな」

「あげたとてやんな。あ、また硝子割りよったわ……その硝子、なんぼする思うてんねん」


 まるで現実逃避でもしているかのような都築と小早川を荻が呆れ果てた顔で見る。その視線を荻は雑賀に向けた。真っ青な顔で画面を凝視し、一言も発しない雑賀を荻が心配そうな顔で見つめる。そんな雑賀に気付き、小早川がぽんと肩に手を置いた。


「雑賀。顔に出すな。単にヤクザが暴れとるだけやないか。あいつらは気晴らしにあんな事しとるだけや」

「そうやぞ、雑賀。誰が原因とかやない。単にヤクザが暴れとるだけや。酷い事しよんなって思うとけ」

「終わったら、ちと呑みに行くか。今後どうなるんかとか、色々話し合わなあかんやろうからな」


 「お前も来るか?」と声をかけられ、荻も首を縦に振った。



 食事休憩が終わり、第四競争に雑賀は出走。

 だが、下見所で竜を曳いている保科たちにも、岡山競竜場の件は耳に入っており、明らかに動揺した顔をしている。それが竜に伝わってしまっているようで、時折竜が首を振って嫌がる素振りを見せている。


 雑賀が竜に跨っても、保科は作り笑いを浮かべるだけで無言。そんな状況で競争に集中できるわけもなく、発走も出遅れ、最後尾を追走するだけになってしまい、竜交換にももたつき、なんとか最後の直線で他の竜に追いついたものの最下位に終わってしまった。


 第五競走、小早川の出番の前に競竜場に衝撃的な放送がされた。


『本日、岡山競竜場で行われている『赤穂特別』は、安全が確保できないとの判断から、全ての競争を中止する事となりました。お買い求めの勝竜投票券は全て払い戻しとなります』


 観客席が大きくどよめいた。

 すでに中継映像によって岡山競竜場がめちゃくちゃにされたというのは、観客たちも知っている。それが証拠に、雑賀が走っている時も観客の多くは中継映像の方に向いていた。


 競争が終わっても雑賀たちはすぐに解放されるわけではない。その日の全ての競争が終わるまでは調整棟の談話室で待機となる。

 とぼとぼと談話室へ向かうと、すぐに阿蘇の騎手たちが寄ってきて、岡山はいったいどうなってるんだと聞いてきた。そう言われても雑賀としても映像以上の事はわからないし、談話室でも中継映像は見る事ができる。


「これから先きつかね。どげんすっと? 岡山使えんこつなったらうちに来っと?」


 そうたずねられたが、正直今は先の事は何もわからない。首を傾げるしかなかった。


「ばってん、鈴鹿やったらわかるけど、なんで岡山なんやろうな」

「え? それ、どういう事ですか?」

「鈴鹿でグランプリやるまで、いろいろあったろ。そいの妨害ちいうなら、普通は鈴鹿で直接暴れるもんじゃなかと? だけん、なんで岡山なんやろなって」


 胸の奥を何かが凄い力でぎゅっと握りつぶそうとしている。呼吸が苦しい。目の前の騎手が今言った事は、つまりヤクザたちは私怨で暴れているという事になる。それは、春香を助けるためにとった雑賀たちのあの一連の行動が引き金になっていると言われているようなもの。


「わ、わかりません。俺には、何も……」


 よろよろとした足取りで去ろうとし、机に体を当ててしまい、ガタンという大きな音がしてしまった。その音で皆が雑賀に視線を集中させる。それもまるで自分が責められているような気分に陥る。その場から逃げ出すかのように、雑賀は談話室を抜け出し、外の空気を吸いに行った。

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