9話【怒りの王妃様】
「おまえたちめしがおちょい!!」
「おれたちがおなかをしゅかせてるんだぞ!!」
「あ、あかんあかんあかん、あかんて!!」
キッチンの扉が開いたかと思うと、例の双子の女の子達とそれを追いかけてきたアルさんが入ってきた。
その後ろから王妃様もゆっくり歩いて来たけれど、どうしたのか恐ろしいほどに顔が険しい。
「しょれに……なんだこのしょみんのりょうりは!」
「こんなものくちにできるわけない!!」
「ちゅくりなおせ!!」
「このクソガキ……あんたたちね___」
タケちゃんが言い返そうとした瞬間、物凄い音と同時に幼女は2人とも育児スペースに吹っ飛んだ。
あまりの突然の出来事に、思わず倒れた幼女達に駆け寄ろうとすると手で制される。
この手はと見れば王妃様の白い華奢な手で、銀の扇子をシャラリと音を鳴らして思い切り広げる王妃様に驚いてしまう。
「ちょ、あの扇子めっちゃ硬そうだけど大丈夫かね」
「だ、大丈夫なわけないでしょ!?多分純銀よあれ!?相当痛いんじゃ……」
シャラリシャラリとゆっくり優雅に扇子を仰ぎながら呆然とする双子の幼女の傍に歩み寄る王妃様を、アルさんが無礼にもその肩を掴んで制止させた。
「あかんあかん!王妃様と言えど許され___」
「アルフォンス、お前は立場を弁えなさい」
王妃は喚くアルさんの手を思い切り銀の扇子で引っぱたいた。
す、すっきりした……じゃなくって。
アルさんも呆然としていてどこか信じられない目で王妃様を見ている。
もしかしたら王妃様がこんなに怒ることなんて滅多にないことなのかしら?
.•♬キンコンカンコンキンコンカンコンキーン.•♬
.•♬キンコンカンコンキンコンカンコンキーン.•♬
そう考えると同時にまたもやこの場に不似合いな喉自慢の鐘が鳴り響くけど、双子はここにいるのに一体誰が鳴らしているの?
さっきから定期的に何かしらの音が鳴るこのシステムは何なのかと疑問だけれど、それよりも般若のごとく怒っている王妃様が恐ろしすぎて誰も何も言えない状態だ。
「わ、わかちゃん、ローズマリー漏らしてるかも」
「え!?お、王妃様が怖かったのかしら……」
後ろを覗いてみれば背中のローズマリーは真っ青になって震えて親指を吸っていて、この怖さは赤ちゃんといえどもも分かるのかと目を見開いた。
「あらあら躾がなってなくて申し訳ないわね。ローズマリーをこちらにくださる?」
王妃様は私におんぶ紐を外すよう促すので慌てて外せば、ローズマリーを奪い取ってそのままアルさんに押し付けた。
「アルフォンス、ちょうどいいわ。お前が変えなさい」
「い、いやその、尊い方の___」
「やりなさい!!そこの部屋にオムツがあるわ!!さぁ早く!!」
王妃様の怒号に慌ててアルさんは続き間へ移動した。
私も床に転がったままの幼女達も唖然とする中で、
「マリーさすがだね、王妃ってのはこうじゃなきゃ」
タケちゃんだけが口笛を吹いて感心していた。
「貴方達はそんな姿になってもまだ何も反省していないだなんて……どういうことかしら?」
「しょ、しょれは……」
「だ、だって……」
次はお前達だと言わんばかりに目をつり上げる王妃様に、双子は方を寄せあって半泣き状態だ。
こんなに小さい子をそんなに叱らなくても……と可哀想な気持ちもあるけど、今までの態度や発言を考えればいくら子供だからといえ許されないこともあるわよね。
「本当に申し訳ないわ。せっかく貴方達が心を込めて作ってくれたのに……」
「マリーが気にすることじゃないよ」
「そ、そうですよ……」
申し訳なさそうな王妃様の目には涙が溜まっていて、私達が驚く間もなく突然わっと泣き始めた。
「この情けない国のせいで!この情けない男どものせいで!!申し訳ない!!」
な、情けない男ども……?
土下座しかねない勢いで謝り始めるマリーに私達はオロオロすることしかできない。
双子も慌てて駆け寄ってくるが、近寄らないでと思い切り振り払われてしまった。
「あー……あんたら一旦これ持って部屋で食べときな」
タケちゃんは適当に皿におかずを何種類かずつ盛ると、置いてあったトレイに乗せて双子へそれぞれ押し付ける。
双子の顔を見れば絶対に何か言いたいことがあるのだろうけど、半狂乱で泣く王妃様を前にして何も言えないのか、皿を受け取った2人は大人しく部屋へと戻っていった。