38.来訪!(4)
前回の出来事: 友人といっしょにお風呂に入った。
(これは一体、どういう状況なのでしょうか)
平静を装いながらも、アリエスは混乱している。
まず、頭の中がモヤが掛かったような状態であり、上手く頭が働かない。
熟睡しているところを突然起こされたような前後不覚に近い感覚――。
しかも、目の前には何故かいつの間にかクラスメートのモアーズがいた。
こんな状況にも関わらず、ほぼ条件反射の様に、アリエスの身体はモアーズの存在に体が熱くなってしまう。
「……なるほど。アリエス様は、ボクと同じ、日本からの男性の転生者だったんですね」
(――えっ?)
そして、モアーズに『日本からの男性の転生者』という秘密を突然に言い当てられたアリエスは、思わず思考を停止させてしまった。
◇
それでもどうにか、もう1つ重要なことをモアーズが口にしていたことに思い当たる。
(何が……同じ?)
目の前に座るモアーズが、テーブルに両肘をついて、手を組み、あごをのせる。
豊かな胸がテーブルの上にのっている。
蠱惑的な微笑み。
ショートパンツからむき出しの生足。
バターを塗ったかのようにどこまでも滑らかそうで美味しそうな、思わず口づけしたくなる褐色の肌。
魅惑的な目から、胸から、褐色の肌から、美味しそうな唇から、目をそらすことが出来ない。
頭にモヤが掛かったような、考えがまとまらない気持ち悪さ――――。
いや、この状況はいったい何なのだろうか。
とつぜん目の前にモアーズが現れたような感覚。
(モアーズさんといつからここに? 今、どういう状況なのかしら?)
遅まきながら、どうにか正常な精神状態を取り戻そうと、吸血鬼族の精神抵抗力を発揮し始めるアリエス。
モアーズから何とか視線をそらし周りを目やると、この場所は乳白色の霧に包まれた、幻想的な空間にポツンと2人の座るテーブルがあるのだった。
(知らない場所ですわ……とても不思議な場所……)
知らない場所で、知っている人物から、誰にも話したことのない自分の秘密を突きつけられているという不思議な状況。
(――もしかして、何者かから魔法による攻撃を受けている?)
その考えにやっと思い至るも、その気づき自体を保つことが、すぐに億劫になってくる。
(――そもそも、どうしてモアーズさんと一緒にいるのでしょう……)
分からない。
こうなったら、とても失礼な質問をすることになりそうだ……。
いや、しよう。
「と、ところで、モアーズさんと私は、どうして会っているのでしょうか?」
◇
「あっ、分かっていらっしゃらなかったのですね。これは大変失礼いたしました、アリエス様。――――実は今、アリエス様は夢を見ています。そして、ボクはアリエス様の夢に『夢訪問』をしています」
――というモアーズの種明かしを理解した途端に、アリエスの曇った思考が、さーっと一気に晴れていく。
「今、とても頭がクリアになりましわ。――なるほど、これが『夢訪問』……」
アリエスは、ただただ驚く。
これが、夢の中、なのか……と。
(本当に、現実みたいにリアル。でも、非現実感も同居している――)
この世界が『自分の夢の中』だとすぐに実感するのが難しいアリエス。
あたりをキョロキョロ見渡してみる。
(私の夢の中って、いつもこんな霧がかっているのかしら――?)
「恐らく、この場所の霧は、先ほど入ったお風呂の霧のイメージだと思います。そして、このテーブルはティータイムの時のテーブルに似ていますね」
アリエスが考えていることを読み取ったかのように、疑問に答えてくれるモアーズ。
(なるほど、夢に出てくるものは全て記憶から作られていると、前世で聞いた覚えがありますわ……)
ふむふむ、と頷くアリエス。
――では、モアーズが穿いているショートパンツも記憶から……?
「これはアリエス様の、『ボクにショーパンを穿かせて生足を露出させたい』という願望ですね」
今度は、『恐らく』という曖昧さは許さずに、アリエスの願望だと断定してくるモアーズ。
夢の中で、ぼっ、と顔に火が付いた様に感じるアリエス。
現実世界では、寝顔も真っ赤になっているに違いない……。
「も、モアーズさんは、私の考えていることが分かってしまうのですか?」
顔真っ赤で俯くしかない伯爵令嬢。
「ふふ。夢の世界では、サキュバス族に秘密を持つことは出来ませんよ」
「!!」
なんと恐ろしい。
そんなことは、サキュバス族に関する資料のどこにも書いていなかったのに!
アリエスは、絶望する。
(私のモアーズさんに対する気持ちまで、モアーズさん本人に筒抜けになってしまいますの!?)
「アリエス様。大丈夫、落ち着いてください。必要以上にはアリエス様の秘密を探ったりはしないですよ」
(そ、う、なのですね……)
モアーズの台詞に、安心したような、残念なような、それで良かったような、暴いて欲しかったような、かなり複雑な気持ちになってしまうアリエスだった……。
◇
「思うのですが、恐らく、ボクの――サキュバスの《魅惑》がアリエス様に効いてるんじゃないですか?」
「ふぇっ!? 私は女の子ですよ。《魅惑》が効くはずは……ない……ハズ……」
「でも、ボクと話している時のアリエス様、人間族の男の子みたいになっている気がして」
「!? …………」
(そうすると、このドキドキする気持ちは《魅惑》の所為で? それだけの気持ちなのですか……?)
モアーズの指摘に、どうしてか寂しさを覚えてしまうアリエス。
そんな伯爵令嬢を慰めるように、優しげに続きの言葉を紡ぐモアーズ。
「でも、不思議に思っていたんです。アリエス様は《魅惑》が効いてしまう特別な吸血鬼族の女の子。その特別の理由ってなんだろうって。その理由がさっき分かりました」
「そ、その理由は……?」
「その理由は『アリエス様は、ボクと同じ、日本からの男性の転生者だから』ということが分かったんです」
「ふぁっ!?」
何か確信できる証拠があったのだろうか。
その結論にかなり自信を持っている様子のモアーズ。
「ふふっ。先ほども言いましたが、夢の世界ではサキュバス族に秘密を持つことは出来ませんから」
「!!?」
この異世界に転生してからずっと『日本からの男性の転生者』という事実を隠していたアリエス。
その秘密をとうとう他人に知られてしまった……。
この弱みを握られてしまったことで、モアーズとの関係はどうなってしまうのか…………。
アリエスは、今度は顔面蒼白になってしまう。
「あっ、アリエス様。この事は絶対、誰にも言いふらしたりしないので安心してください。というか、ボクも一緒なんです」
モアーズにそっと両手を握られるアリエス。
(これは《魅惑》の効果……私、しっかりしてっ!)
青くなったり白くなったり赤くなったり大忙しな顔色を自覚しながら、アリエスは再びモアーズの方に顔を上げる。
モアーズの言葉を聞き逃すまいと耳を傾ける。
「ボクも『日本からの男性の転生者』なんです」
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