夢見る少女【閑話】
バニア視点です。
私の名前はアクエリアス・バニア。どこで生まれたのか?どんな生活をしてきたのか?家族は居るのか?友人は居るのか?全て今の私には解らない。そして今の私を形成しているこの人格ですら、本来の自分なのか解りません。そう、私はつい最近の事まで全て忘れてしまい記憶喪失となっています。
私が拾われたのは、ダークエルフと言う種族達が暮らす国の森の中だったそうです。森の中で倒れていた私はそこで[冒険者]と呼ばれる方に保護され、アビスと言う名の街に連れて来られました。そしてベッドで目覚めた私はふらふらとベッドの有った部屋から出て、階段を降り、そこで一人の女性に声をかけられました。
「あら?気が付いたのね?体は大丈夫なの?」
彼女の名前はナッツさんと言い、冒険者ギルドと言う組織の職員さんだそうです。森で保護された私を、冒険者ギルドの建物の2階にて介抱してくれていた、とても笑顔の素敵な女性です。
それからナッツさんと色々と話しました。話の中で確認出来た事なのですが、どうやら私の記憶は一般的な常識、生活する上で必要最低限の事などは覚えている様でした。そして私はこの街でくらすほとんどの方々とは違い、エルフ族と言われる遠い南の国に多く住む種族だそうです。
でも自分は何者なのか、どこから来たのかなどは、スッポリと記憶の中から抜け落ちている様でした。
そしてもう一つ解った事。私はどうやら記憶を無くす以前に[冒険者]と言う物に登録していた様です。
ナッツさんの話しでは[冒険者]と言うのはこの世界、アズガルドと言うそうなのですが、そこで色々な国々を股に掛けて冒険をし、モンスターと言われる敵対生物を討伐したり、ダンジョンと呼ばれる迷宮を探索したり、色々な人の手助けなどをして生計を立てている職業との事です。
見るからに細い体をしていて、力も弱い私が、そんな危険な仕事をしていたとはビックリしました。
ともかくその冒険者であれば旅をして自分の記憶を取り戻す事も出来るのかもしれません。私は街の近くに現れるモンスターを討伐し、何時までもナッツさんのお世話になる事を止め一先ず1人でこの街で暮らす事にしました。
しばらくして、何とか生活が出来る様になって来た頃聞いた話しなのですが、自分が居たであろう遠い南のエルフの国に行くには、冒険者ランクと言う物を上げないといけないとの事で、そうしないと国と国の間にある関所と呼ばれる場所を通過する事が難しいそうです。
なので私は冒険者ランクを上げる為に、街の周りの森の奥へと入り、色々なモンスターを退治して必死に修行をしました。
修行を初めて半年ほど経った頃、[ゴブリン]と呼ばれるモンスターの集団を追い回すダークエルフの少年に遭遇しましたが、何か怖い表情をしていたのでただ見ている事しか出来ませんでした。だけど彼は自分よりも何倍もの数が居る[ゴブリン]達を次々と倒して行き、とても強く、カッコイイと思いました。私も早く彼の様に強くなって、自分を探す旅に出たいと思いました。
その日、狩りを終えて冒険者ギルドへと精算しに行った時に、ナッツさんから告げられました。どうやら半年の間の修行の成果が出た様で、レベルが20になったそうです。
まだまだモンスターが怖い時もありますし、危険な事はせず、無難な相手を見つけては弓で遠くから倒す事を続けていた私にとっては、まだまだ1人で遠くに旅に出るのは怖くて仕方ありません。
ですが、冒険者ランクを上げる試験が受けられるレベルに達したとの事で、その試験を受けて来いと言われました。正直怖くて不安です。
「仕方ないわね、丁度当てもある事だし、ちょっと付いて来なさい」
そんな私の気持ちが態度に出てしまったのでしょうか?ナッツさんは試験官のリーガルさんと言う方と、1人の少年冒険者を紹介してくれました。でも驚きました。なんと言う事でしょう、丁度その日に遭遇した、あの強くてカッコイイ冒険者の方だったのです。
あの素敵な白のローブに、強力な魔法を放っていた灰色の杖。間違いありません。
「アクエリアス・バニアでしゅっ、あっ、でしゅ!デス……」
緊張しすぎて何を言っているのか分からなくなってしまいました。恥ずかしい。彼の名前はセヴン君と言うそうです。
どうやら3人で昇級試験のクエストをする[試練の洞窟]へと向かう事になりました。足を引っ張らなければ良いのですが…。
試験は無事に進み、最後に強力なモンスターが出て来た時は驚きましたが、セヴン君があっと言う間に倒してくれてしまいました。リーガルさんはモンスターに倒されて?強制的に転送されていましたけど…。
セヴン君と出会ってから怒涛の日々が過ぎて行きます。
他種族の街でナッツさんが居るとは言っても孤独に近かった私を、一緒に狩りへ行こうと誘ってくれました。しかも2人で強くなったら、一緒にエルフの国まで冒険してくれると言うのです。
その日セヴン君と別れて自分の宿に戻った後、嬉しすぎて涙が止まりませんでした。何度も何度も、私を誘てくれて手を差し伸べてくれたシーンを思い出して…何かが私の中に生まれた気がしました。
次の日私達は[ブラックウィロー]と言う樹のモンスターを狩る事になりました。とても大きく、恐ろしいモンスター。でもセヴン君なら大丈夫、あっと言う間にまとめて倒して行きます。私は何もする事ができませんが、頑張ってモンスターを探してセヴン君の待つ場所に連れて行きました。
彼と居ると1人でビクビクとおびえながら狩りをしていた頃とは大違いです。レベルがドンドン上がって行きます。私もかなりレベルを上げる事が出来ましたが、セヴン君はもっと凄かったです。
やはりセヴン君に付いて来て良かったと思いました。
その夜、装備を新調したいと言う事で、アビスの街にある武器防具屋に向かったのですが、どうやら貴重な素材を使って私の弓を作ってくれるそうです。
今まで使っていたのは私が倒れていた時に傍らに落ちていた弓。結構使い込まれていたのですが私が愛用していた物なのでしょうか?手に持つと何か安心感が生まれます。
でもセヴン君が折角私の為に貴重な素材を使って作ってくれた弓です、しかも出来上がってみたら凄い使いやすく丈夫に出来ています。今まで使って来た弓は手放す気にはなれず、大事に仕舞っておく事にしましょう。
そして昨日、セヴン君がレベル40に到達した事で上位の職業に転職できるとの事で、その転職の為のクエストに同行して来ました。色々な召喚士と言われる人達に会って来ると言う物だったのですが、皆さんとても個性的で楽しかったです。
クエストの最後で何やら[性癖]?なる物を大声で叫ばないと行けないとの事で、私にはその[性癖]という言葉が良く解らないのですが[人が持つ大事な思い]だと私は解釈しました。
セヴン君は「人に見られる事が好きだ」と言う様な事を言っていました。やっぱり彼は凄いです、大勢の観衆に見守られながら凱旋する英雄を目指しているのでしょう。できれば私もその時に彼の隣に居られたら嬉しいです。
さて明日はエルフの国を目指して旅立つ日です。私は記憶を取り戻す事が出来るのでしょうか?出来なくても何か解れば良いのですが、一緒に彼が着いて来てくれるのです、不安はあまりありません。なので明日からの長旅に備えて今日は早く寝ましょう。
私に[性癖]と言うのがあると言うのならば、きっと[彼の傍にこのままずっと居たい]と言う思いなのでしょう。私に記憶が戻っても、この思いは変わらなければ嬉しいな。
なんか日記の様な感じをイメージしてみました。
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