第6話 魔王、力の意味を知る。
部屋の外に出ると、トーマが食卓で朝飯を食べていた。
「やっと起きたか。この寝坊助め」
「おはよう。大丈夫なの?」
「もちろん、父さん何も怪我してないからな。だけど、あの時は人生終わったと思ったよ。でも……それ以上にレオの力には驚いたぞ」
確かにな。正直かなり不可解だ。
「レオは子供のくせに大人びてて、普通と違う感じはしてたが……やはり特別だったんだな。でも父さんはな、嬉しい反面、恐ろしくもあるよ」
「恐ろしい?」
「世界は勇者の悪政に虐げられている。そんな力を持っている事が知れれば、奴らの脅威となる。そうなれば命を狙われる事だって……」
「僕は元々勇者を倒す事が目的……」
トーマは我の話を遮る様に、抱きしめてくる。
「俺はな、レオが普通の幸せを掴んでくれれば、それでいいんだ」
何をバカな事を……。
我を抱きしめるトーマの腕に力が入っていた。
何故かそれに抗う事が出来ず、我はただ抱きしめられた。
我を命がけで守った時もそうだ……これが親の「愛情」というものか。
その時の我は、トーマの言葉に何て返せばいいのかわからなかった。
次の日
体調も良くなったので、ドミニクに会いに行った。
ドミニクの家は訓練場のすぐ近くにある、小さな家だ。
そういえばヤツは独身で「エリザに甘い強い老兵」って事以外は知らないな。
玄関の前に立つと「開いてるぞ」と中から声が聞こえる。
流石は自警団の長、気配に敏感だ。
中に入ると、ベッドに倒れたドミニクがいて、傍でエリザが看病していた。
骨折した手足は固定され、身体中に包帯を巻いていた。
見てるだけで痛々しい風体だが、表情は柔らかい。
「わざわざ来てもらってすまんな。この通りの状況だからな」
なさけない自警団長め。
だが、ここは人らしく優しさを見せよう。
「身体……大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないでしょ? アンタ馬鹿じゃないの!」
何故エリザが答える? そして馬鹿は余計だ。
ドミニクの部屋は殺風景だった。
家具はベッド、机、食器棚。
ただ、壁一面に色んな剣が飾られている。
「凄いでしょ? お爺ちゃんのコレクション。中には凄い業物もあるの。まぁアンタみたいな素人にはわからないでしょうけど」
一通り剣を見ていると棚に置かれた「黒い物体」に目が止まる。
刃先が無く、柄と鍔しかないが装飾が凝っている。
これは「エクノバ」……我が昔に使っていた武器の一つだ。
これは魔力を込める事で、形を変えられる特殊な金属で出来ている。
そして一度変形した形を記憶する「形状記憶合金」でもある。
まぁ、変形できる質量に限界はあるがな。
我が城の宝物庫に安置していたはずだが……人間どもに荒らされたようだな。
じっと見つめているとドミニクが「コホン」と咳をする。
「それは……わしの肩こり用に使っているものだ」
「なんだと」
「その鍔の部分がツボにはまって気持ちよくてな。あまり直々と見られると照れるのう」
「ハハハハ、流石レオね! 業物よりそっちに目が行くなんて」
こいつ……我が武器を肩こり器具にしていたのか!
許せん……なら見せてやる、コレの使い方をな!
我は2人に見せつけるように片手で柄を握る。
「アンタ何してんの?」とエリザが呆れて顔でいう。
見よ! そして驚愕しろ!
体内の魔力を剣に流し込むと、刀身が生えてくる。
「なんと! 肩こり器具に刀身が!」
まだ言うか! だが、こんなものではない!
今度は柄を両手で持ち、魔力を込めて上下に引くと柄が伸びて槍の様な形に変わる。
「なんと! まさか魔力に反応する形状記憶合金か! そんな希少な物だったとは……」
驚くドミニクの顔を見て、我は不敵に笑う。
そして今度は先端の刀身が横に曲がり、鎌の様な形状になる。
「今度は大鎌……何この武器?」
驚く二人の顔を見て、優越感に浸りながら元の形に戻す。
「お爺ちゃん、コレ凄い業物じゃない! てかレオ、なんでアンタが使い方知ってるわけ?」
あ……調子に乗り過ぎた。
「エリザよ。恐らくレオは、あの武器に選ばれたのであろう」
「選ばれた?」
「優れた武器は相手を選ぶという。我が師であり、エリザの祖父ロイド様がよく仰っていた」
ロイド? どっかで聞いた事のある名前だ。
「レオよ。お前には、武器の声が聞こえたのではないか?」
武器の声だと? この爺、本当にボケ始めてるな。まぁこの場を乗り切る為に合わせるか。
「そうなんです! なんか女性の声が聞こえて……」
「そうか。ではお前が一人前の剣士になった暁には、その武器をやろう」
「……ありがとうございます」
元から我のモノだが……。
どうやらエクノバ以外の我が武器や宝も、世界各地に散っているようだな。
「それはさておき、レオ座れ。お前の力について話がある」
我は近くにあった椅子を持ち、ドミニクの傍に座る。
隣を見ると、何故かエリザも興味津々に椅子に座って話を待っている。
「エリザ、お前も聞くのか?」
「当然でしょ? アンタは私の相棒なのよ」
「では話すぞ。まず五大属性は知っておるな? 火・水・雷・風・土。人は皆、このどれかに属し、その系統の魔法を使う事ができる」
ドミニクは手から火の玉を作り出す。
「わしは火の属性。だから火を使った魔法を使う事ができる。そして中には〈複数持ち〉という者もいて、火と土で鉄魔法、風と水で氷魔法を使う者もいる」
そんな事は知っている。
我は闇喰のおかげで五属性はもちろん、複合魔法も使えたからな。
「そして、五属性に属さない特殊な力を持つ者がいる。その力は〈ギフト〉と言い、神々からの恩寵とも言われておる」
「神々の恩寵?」
「うむ。神に選ばれし者に与えられる究極の力じゃ。レオの持つ光の力。そして亡き魔王が持っていたとされる闇の力も該当する」
「魔王の力も? なんで悪い奴が神に選ばれるの?」
「それはわからん。人間が崇拝する神がいる様に、魔族にも崇拝する神がいるという事じゃろう。神は一人とは限らん」
確かにな。魔族の中には魔神を崇拝する者達もいた。我は信じておらんかったがな。
「そしてわしの知る限り、あと3つ判明している」
「他にもあるのか?」
「命すら蘇らす〈生の力〉、未来を見る〈先見の力〉、身体を超越する〈剣聖の力〉。恐らく他にもあるだろう。どれもこの世に二つとない唯一無二の力じゃ」
長年魔王として君臨していたが、そんなヤツには全く出会わなかったな……。ん? 唯一無二だと?
「ドミニクさん、唯一無二って……カイラスはまだ生きているはずでは? 光は2つあるの?」
「ヤツは確かに生きておる。だが、今のヤツに力は無い。光の力に見放されたのじゃ。自分の欲に溺れたせいでな」
「見放される? そんな事があるのか」
「詳しくは知らんが、力は宿主を選ぶ。その意に反すれば、その逆が起きてもおかしくはない。レオもカイラスの様な俗物になれば、力を失う事になるだろう」
なるほど。だが、妙だな。
仮に神が力を授ける相手を選んでいたとしよう。
何故、魔王だった我に光の力を授ける?
これには、何か意図があるのか?
前世の記憶を持っているの例も聞いた事がない。
我を人間に生まれ変わらせた事に、大きな理由があるのだろうか?




