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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第三章▼恩寵の克服▼

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54/83

第52話『首の皮一枚』

 ★26/5/28

 第51話が投稿されていないという大事件が発覚したため、急遽投稿しました。読者の皆様におかれましては、大変ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ありません。


 なろう様とカクヨム様合わせ、なんと30万PVを突破しました。本当にありがとうございますm(_ _)m


 今後も応援、よろしくお願いします!

 岩槍の影が青く染まる。


 火炎に炙られて乾いた赤土の表面に、薄い霜が走った。熱でグラグラと揺らいでいた空気が冷え、白い靄が低く流れる。岩肌についた水分が一瞬だけ凍り、細かな結晶となって光を美しく反射していた。


 ロヨンの雨具のような服の裾が、魔力の流れに煽られて揺れている。彼は溶岩蜥蜴をそのレンズ越しに見つめていた。


「母なる大地よ」


 ロヨンの美しい声が、岩槍の間に響いた。普段の好々爺のような穏やかな口調から余計な柔らかさが消え、怜悧な響きを伴った声だ。


「熱に荒ぶる獣へ、深き水底の眠りを」


 ロヨンが何事かを口にすると、青い魔力が波のような波動で一斉に周囲へと広がった。次の瞬間、それが逆再生のように一点へ集まり始める。天高く掲げた杖の先端へ集まり、回転しながら圧縮され、形を変えていく。


 杖の先に浮かんだ水がゆっくりと凍っていく。彼がそこに更なる力を込めるような動きをすると、凍った水の厚みが増していく。


 青白い塊は、やがて巨大な氷の鏃となった。槍というには太く、杭というには鋭い。内部には何層もの青が重なり、中心に行くほど深い色をしている。表面を走る白い亀裂のような模様が、かすかに光った。


 溶岩蜥蜴の視線の先にいるのは、私ではなくロヨンだった。火炎放射の準備を済ませた奴は、口の奥に赤い光を灯す。だが、今度はロヨンの方が一拍早かった。


「穿て」


 杖がまるで槍のように突き出される。その動きに従うように、氷の鏃が美しい青の軌跡を残しながら撃ち出された。僅かに音が遅れる。


 青白い塊は赤土の上をかすめるように飛び、周囲の熱気を切り裂き、白い尾を引きながら溶岩蜥蜴の顔面へと勢い良く突っ込んだ。


 見事なまでの直撃である。


 倒れ伏した私の視線の先で、ほんの一瞬、溶岩蜥蜴の頭部が大きく仰け反る。


 次の瞬間、激しい爆風を伴って爆散した。


 氷の鏃の中に押し込められていた水と冷気が一気に解放され、溶岩蜥蜴の頭部を内側から破裂させたように見えた。


 赤黒い鱗が飛び、熱い血と白い霜が周囲へ同時に散る。顔から首にかけてが弾け飛び、背中の瘤が一瞬だけ激しく赤く光った。その光も、すぐに消える。


 首を失った巨体が、後ろへ二歩ほど多々良を踏む。


 顔を失ってもなお鋭さの残る爪が意味も無く赤土を掻く。ピクリと肉厚な尾が大きく揺れ、近くの岩槍へぶつかって石片を散らした。それから、胴体はゆっくりと横へ傾き、朽ちた巨木のようにドスンと倒れ伏す。


 ずん、と重い音が地面を伝って私の腹に響いた。


《戦闘終了時ログを確認。パーティ機能使用不可により、ルイス様は経験値分配対象に含まれていません》


「……くそ」


《補足します。経験値の獲得は確認できません。ただし、戦闘状況、行動内容、各種条件を照合した結果、複数の称号の獲得を確認しました》


「そうか」


《情報を表示します》


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


 ▼獲得称号▼

 ♦【天敵と踊りし者】

 ♦【適した防具を身につけましょう】

 ♦【焼け落ちぬ古の絡繰】

 ♦【報われぬ共闘者】


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


 ふむ。まあ、確認は後でも良いだろ。それよりも優先すべきことが多すぎる……。


 溶岩蜥蜴が倒れた衝撃により、赤土が激しく跳ね、白い蒸気が上がった。熱い体液が地面へ流れ、ロヨンの氷によって生じた霜と混ざり、奇妙な霧となって広がる。


 ロヨンは、その死骸には目もくれず、霜焼けに覆われた杖を握ったまま、一目散にこちらへと駆け出した。


 赤土には私が刻んだブレーキ痕が残り、火炎で表面が乾き、ところどころが脆く崩れている。駆けるには少し不安が残る地形だな。それでもロヨンは転ばず、岩片を避け、私の傍らへ膝をついた。


「救世主殿!」


 声が近い。


 彼はガチャガチャと音を立ててガスマスクを外すと、それを収納し、その美しい双眸でもって私の顔を覗き込んだ。ガスマスクで普段は見ることができないその表情は、はっきりと焦っていた。


 額には無数の汗が浮かび、目は見開かれている。いつもの飄々とした学者の顔ではない。


「聞こえておりますかな。ルイス殿、返事を!」


「……う、聞こえているよ」


 声を出すと、発声器官を成す機構からざらついた雑音が出た。私の反応に安堵したのか、ロヨンの肩が僅かに落ちる。


「おお、まだ意識はありますな。まだ間に合いましょう」


「吸収同化を使う……」


 私の言葉に、ロヨンはすかさず頷き返した。


「昨日、ブラッドたちから剥ぎ取った装備を分解したものがある……。あれを使う」


「承知しましたぞ」


 私は辛うじて動く左手を用いて、インベントリ内の荷物を探り、仕分けておいた素材をまとめていた幾つかの袋を取り出す。その袋の中身を適当に赤土の上へ広げると、細かな金属片や革の切れ端、短槍の穂先、安物の防具から外した留め具、短杖の内部に入っていた細い部品が辺りへと散らばった。


 そのどれもが上等な素材ではない。ゲーム開始初期に誰しもが得られる程度の数打ち装備では、まあこんなものだろうか。しかし、今はあれこれと贅沢を言っていられない。


吸収同化アシミレーターの起動補助を行います。意識入力が不安定です。処理の一部を代理制御》


「ああ、頼む……」


《優先順位を設定。第一、胸部リアクターから各部への最低限の出力伝達。第二、頭部および首部の情報伝達安定化。第三、左腕および脚部の駆動復旧。外装補修は後回しにします》


「なんでもいいさ……」


 今更この朽ち果てた体の見た目などどうでもいい。初めから気になどしていないからね。今必要なのは、この広場の先にあるとされる、機神様の祭壇をこの目で見つけることのみだ。


 素材の輪郭が視界に浮かび上がる。焼けた視界の中で、ピッと半透明の線が走った。辺りに広げられた各種素材が、私の体のどこの補修に利用できるかが、マリーによって素早く選別されていく。


 私はその流れへ意識を合わせた。


「吸収、同化」


 赤土の上に散らばった素材が光の糸となって崩れた。


 金属片が細かな光へと変わり、淡い光を帯びて徐々に私の体へ吸い込まれていく。


 くそ、ただただ不快だ。


 焼けた場所へ無理やり異物を押し込み、合わない形の部品を噛み合わせていく感覚だ。当然だが、吸収同化アシミレーターを使用したからといって、これらの箇所が綺麗に治るわけではない。


 恩寵【不完全なる古修復跡】の効果の中には、自動修復機能完全停止がある。吸収同化アシミレーターの効果によって体の修復が可能になったが、それはあくまでも観察的な修復手段に過ぎないのは語るまでもないことだ。


 本格的な修復機能は、この恩寵を克服するまではアクティベートされないのだ。故に、無理やり治すような形になってしまうのは仕方がないことなのである。しかし、いくらなんでも……。


 歪んだ場所に歪んだまま支えを入れ、今だけ崩れないように押さえ込む。


《仮設伝達路を形成。出力を制限して開通します。過負荷時は全機能の即時遮断を行うことで暴発を抑止する予定です》


「最低限この体が動くのであれば、些細なことはあまり気にしないことにするよ」


《承知しました》


 補修が進むにつれ、胸の奥からわずかに力が戻ってくるのが感じられた。


 やはり、全身へ行き渡るほどではないな。細い水の筋が、乾いた地面に無理やり流されているような頼りない感覚だ。それでも、完全に途切れていた時よりはずっと良いだろう。


《応急処置完了。限定的な動作が可能です。ただし、激しい運動を伴う戦闘行動は推奨できません。火属性攻撃による損傷が深刻です》


「ふむ、激しい戦闘行動か……」


《現状で体に無視しえない負荷がかかる戦闘を行った場合、仮設の機構の閾値を上回ることが予想されます》


「それは推奨できないね」


 私は小さく笑おうとした。うまく笑えたかは分からない。喉の奥で掠れた音が漏れただけだったかもしれない。


 ロヨンが慎重に肩を支えてくれる。


「起きられますかな」


「たぶん」


「ご無理はなさらず」


 彼の手を借り、私はゆっくりと体を起こした。


 その動きに合わせ、吹き飛ばされた時に付着したであろう赤土が、体中の装甲の隙間からぱらぱらと落ちる。


 私は赤土の上に刻まれた自分のブレーキ痕を見た。


 戦闘中に何度か弾き飛ばされ、そのたびに足で地面を削って止まった痕だ。深く抉れた赤土は、焦げた場所と混じって黒く変色している。そこに自分が押し負けた証拠が残っているのは、なんだか腹立たしいな。


「……まあ、最終的には私が生き残ったからね。自然の摂理に従うならば、私たちの勝ちだ」


 経験値は得られなかったけども……!


 仕方なし、か。あの怪物を倒せたのは、そのほとんどがロヨンの成果だからね。私が果たせた貢献といえば、倒れ伏して奴の注意を引いたことくらいだろうか。


「初デスはお預けか」


「その状態で気にするところがそこなのですな」


「重要だよ。初めては、自分で相手を選びたいんだよね。私を殺めるに足ると思った相手に、こう、劇的に散らされたいんだ」


 とはいえ、これからの旅路の中で一度もデスしないなんてのは不可能だろう。先程の溶岩蜥蜴に叩きのめされたことからも分かる通り、私はとんでもなく脆弱だからさ。


 色々な人の注目を浴びながら散りたいと思うのは、私がおかしいのだろうか。そんなことはないだろう?きっと誰しもが同じようなことを考えたことがあるはずだ。それと同じことである。


「何度でも蘇るゆえ、あまりこういうのも憚られるのですが、どうか死は控えていただきたいものです」


「ふふ、善処しよう」


 死を控える、かなり厳しい縛りだな。まあロヨンも分かっているのだろう。これからの旅路の中で、死なないなんて保証は無いことくらい。それを受けての小言に違いない。


 私は倒れた溶岩蜥蜴へ視線を向けた。


 首を失った巨体は、岩槍の根元に沈んでいる。まだ熱が残っているのか、鱗の隙間から白い蒸気が上がっていた。背中の瘤は赤い光を失い、黒く固まり始めている。それでも、きっと近づけば危険な熱を持っているだろう。


 恐ろしいという言葉だけでは足りない。想定外の力で弾き飛ばされ、業火で焼かれ、武器を失い、最終的に動けなくなった。この場にロヨンがいなければ、間違いなく死んでいただろう。


 そして、その最大の理由は相手の強さだけではない。ずばり、私自身の弱点だ。その名も火炎嫌悪。


 【火属性耐性】激減。


 ああ、本当に嫌な敵だった。自分の弱点をここまで突かれたのは、色々なゲームをやってきた中でもかなり久しぶりのことだ。


 この体が特別だというのもあるが、なんといっても選択した恩寵が……。うん、まあ選んだのは自分だからな。


 たった一つの試練が、ここまで露骨に私を追い詰めた。これまで恩寵のデバフは常に私の行動を邪魔してきたが、火属性に関しては格が違う。相手が火を扱うというだけで、戦闘の前提が壊れるようなものだ。


 私のデバフにデバフを重ねた装甲値と組み合わさることで、絶大な効果を発揮するのだ。悪い意味でね。


 これは、放置していい弱点ではない。早急な対応が不可欠だろう。


「マリー」


《はい》


「溶岩蜥蜴の素材は、火炎耐性の克服に利用できると思うかい」


《可能性はあります。対象は高温環境に適応した外皮、熱を保持する体内構造、火属性魔力に対する耐性を有していると推定されます。詳細な解析には解体と素材取得、その上で詳しい分析が必要です》


「なるほどね。なら、なるべく早めに作業を行う必要があるか」


 ただ痛めつけられただけではつまらないだろう。だが、その痛みが次の強化へ繋がるなら話は別だ。火に弱い私を火で焼いた相手から、火に耐えるための素材を奪うとは、なんとも分かりやすい因果ではないか。


 まあ、私が奴を倒したわけではないのだが……。


 私はロヨンの肩を借りつつ蜥蜴の死骸に近付き、それを収納した。顔から首の一部にかけて爆散しているので、火炎放射に関する情報は得られそうにないが、それ以外に関しては詳細にわかるはずだ。


「ロヨン。少し休んだら、可及的速やかにこの広場を抜けよう。いつ再びあの怪物が襲ってくるか分かったものじゃないからさ」


「もちろんです。ですが、まずはルイス殿の状態をもう少し安定させねばなりませぬ。高揚したままでは、冷静な判断ができませぬからな」


「……ああ、そうだね。今の私は、焚き火に近づくだけでも嫌な気分になりそうだ」


 確かにこのまま進めば、どこかで判断を誤ってしまいそうだ。ロヨンの忠告通りだ。


「まったく、笑い事ではありませぬぞ」


「ふふ、ごめんごめん」


 ロヨンは数拍黙り、それから低く息を吐いた。


「……あれほど焼かれて、なお笑えるのであれば上等ですな」


「まあ、銀牙までやられたのは想定外だけどもね……」


 赤土の上に転がる銀牙の残骸を見る。


 黒銀の刃は半ば歪み、刃先の美しい線は失われていた。柄も焦げ、固定具に収まっていた頃の頼もしさはない。


 胸の奥に、なんとも言えない淋しい気持ちが湧き上がった。半月ほどか?なんとも短い付き合いだった。あの武器で切り捨てた敵は、如何程だったか。


 きっとまだまだ満足したりないだろう。もっと丁寧に使えたはずだ。


「その犠牲、決して無駄にはしない。銀牙も、あいつも、全部使うぞ」


《銀牙残骸にも銀索蜘蛛由来素材が残存しています。回収を推奨》


「当然だ」


 私は回収できそうなものを粗方インベントリに収容した後、分厚い岩槍に背を預け、しばらく動きを止めた。


 ロヨンが周囲の赤土を湿らせ、私の近くへ熱が残りすぎないように薄い水の膜を作る。水量は少ないが、それでも焼けた空気を少しだけ和らげてくれた。


 岩槍の広場には、再び風の音が戻っていた。


 低く長い唸りが、岩と岩の間を抜けていく。


 何度でも反省しよう。火属性耐性の低下は、想像以上に致命的だった。あの一撃を真正面から受ければ、今の私では耐えられない。


 なぜかHPが限界で踏みとどまっていたが、普通は一瞬で蒸発していたはず。きっと何かが奇跡的に噛み合ったことで、致命打は避けられたのだろう。


 とはいえだ。弱点は、なんであれ克服するに限る。完全には無理でも、せめて次に火を浴びた時、即座に終わらない程度には。


 そのための材料は、もう手の内にあるからね。


「ロヨン」


「はい」


「とりあえず、祭壇の前に解体だ。あれの鱗も、背中の瘤も、熱に強そうな部分は全部欲しいんだ」


「ええ。分かっておりますぞ。祭壇は逃げずとも、私たちは戦い続けなければなりませぬからな」


「そういうこと」


 私は焼けた機構で、小さく笑った。


 よし、そろそろ行こうか。なるべく早くここを抜けたい。そんな気持ちを胸に、背を預けていた岩槍から立ち上がった。

 余裕があれば今夜にでもまた更新するかもです。

 m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
第51話が抜けているようです
意図的な戦闘スキップかと思いましたが、話数的に第51話がまるっと抜けてますね
溶岩蜥蜴とエンカウント後 次で倒されてる状態はなんなのかな?話が1話分ごっそり消えてる気がする
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