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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第三章▼恩寵の克服▼

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第46話『ログアウト』

 誤字報告ありがとうございますm(_ _)m

 呆気ない。その一言に尽きた。


 こんなにも容易く命が失われるものなのだろうか。私が彼らの命を奪ったその人であるにも関わらず、なんだか非現実的な感覚が離れない。


 旅人としては、いずれ経験することになるのかもしれないね。だが、できれば積極的に試したくはないな。何よりこの身体で積み上げてきたものを不用意に失うのは惜しい感じが止まぬのだ。


 それに、私は死ぬ側よりも殺す側でありたい。


「よし、進もうか。ここに長居して、別の奴らに誰何されても面倒だ」


「ふむ、それならばまた糧になるのでは?」


「それはそれでとても魅力的だけど、連戦になると今はまだ気力が足りないからさ。仮に相手の復活地点が近い場合、すぐ戻ってくる可能性もあるしね」


「なら移動ですな」


 私は銀牙を腰へ戻し、古道の先へ向かった。その足取りはとても軽い。何より、気分が良かった。


 初めて出会った私以外の旅人は思いのほか無礼で、底が浅く、よく鳴る空き缶のような連中だった。ただ与えられた物を口を開けて咀嚼するような、深みのない人間性が感じられるあのコミュニケーションに、思わず失笑が漏れてしまったのはまずかったか?


 この先、彼らのような旅人はいくらでもいるのだろう。その度にこんな思いをしなければならないのかと思うと、ウンザリしてしまうよ。


 掲示板の情報をつまみ食いし、現地の教会や住人の言葉を都合よく解釈し、機械種を邪神の眷属と呼び、討伐すれば称号がもらえるかもしれないと笑う者たち。


 そういう連中は、きっとごまんと存在するのだろう。私以外にもあらぬ疑いをかけられて苦労しているプレイヤーが居るのかもしれない。


 うーん、それはとても怠い。


 正義感で来る者もいれば、得られるかもしれない報酬目当ての者もいるだろう。珍しい機械種を見たいだけの者、掲示板で目立ちたい者、単純に強敵と戦いたい者もいるかもしれない。


 まあ、そんなお題目はどれでもいいか。もし私の目の前に現れたなら、こちらも相応に迎えればいいだけである。


「ルイス殿」


 しばらく歩いたところで、ロヨンが声をかけてきた。


 さっきまでの現場は、すでに低い地形の起伏に隠れかけていた。血の匂いも薄れ、代わりに湿った土と古い植物が腐ったような独特な匂いが漂ってきている。


「何だい」


「先ほどの旅人様方を、どう見ましたかな」


 私は少しだけ歩調を落とした。


 ロヨンがなぜそれを聞くのかはよく分かる。単なる感想を求めてのことではないだろう。今後、彼の中で旅人という存在をどう扱うべきか、その判断のための問いに違いない。


「つまらないな」


 私は即答した。


「ただ、あれが特別に愚かだったのか、旅人全体の傾向なのかはまだ分からない。色々な情報を踏まえる限り、、もっと慎重で賢い旅人も多くいる。現地の住人を尊重し、情報を集め、礼儀を守る者も当然いるだろう」


「ええ」


「だが、数が多ければ当然、軽率な者も増える。それは自明だろう?自分が死んでも元通りに戻ると知っているから、住人よりもずっと命を軽く扱う。住人と違う出自だから、彼らへの礼儀を省く。便利な能力があるから、相手の不快感を無視して使う」


 私はロヨンの目をじっと見つめた。そのガスマスクの瞳に反射して、私の顔が映っている。


「そういう連中は、私にとっては利用しやすいから好きだよ」


「利用、ですか」


 そう、利用。


「彼らは勝手に情報を運ぶだろう?住人は土地に根を張って生きているけれども、旅人は遠くの人と好き勝手にコミュニケーションできるからさ。嘘八百が世界中へ届くこともあるかもしれないし」


 ロヨンはしばらく黙っていた。


 歩きながら考えているのだろう。杖の先が道のくぼみを避け、一定の間隔で地面を叩く。その音が、会話のあいだに短い区切りを置いた。


「なるほど。では、今後は旅人様方との接触も慎重に選ぶべきですな。斬るべき相手、泳がせるべき相手、言葉を交わすべき相手。全て同じに扱うのは少し難しい」


「その通りだね」


 私は少し笑う。


「今回は初回サービスだ。無断鑑定、侮辱、先制攻撃。条件が揃いすぎていたから、分かりやすく処理しただけで、彼らの声に耳を傾けるのも新しい発見に繋がるかもしれない」


《今後、同様の事例が発生した場合の対応基準を設定しますか》


「面白い提案だな」


 視界の端に、小さな記録用の表示が開く。白い線で描かれた枠の中に、空欄がいくつか並んだ。


《無断鑑定への対応、敵対発言への対応、武器を抜いた場合の対応を段階化することで、判断速度が向上します》


「段階化か」


 私は考える。


 確かに、毎回気分だけで判断すると無駄が出る。もちろん気分は大事だが、基準がある方が動きやすい。


「第一段階。無断鑑定のみなら警告。ただし相手の態度次第で変更」


《記録しました》


「第二段階。邪神の眷属だの討伐対象だの、こちらを敵性存在として扱う発言があれば、交渉価値を再評価」


《記録しました》


「第三段階。武器を抜く、スキルを発動する、攻撃する。これは敵対確定」


《記録しました》


 ロヨンが楽しそうに笑う。


 そんな会話をしながら、私たちは古道を進んだ。


 先ほどの血の匂いは、既に空気の中にほどけていた。代わりに湿った土の匂い、遠くの水場から漂う青臭さが戻ってきた。


 この世界は少し特徴的な地形が目立つな。こういうのを目的に宛もなく彷徨うのもまた一興だろう。将来的にはそういったことを楽しむのも良いかもしれないね。


 少し進むと、右手に大きな木が見えてきた。


 幹は太く、表面には深い皺が刻まれている。枝は古道の方へ大きく張り出し、厚い葉が自然な屋根を作っていた。


 根元には踏み固められたような平らな土があり、腰を下ろすにはちょうど良さげだ。誰かが以前ここで休んだのか、幹の近くには古い焚き火の跡にも見える黒ずみが薄く残っていた。


 うん、周囲の見通しも悪くない。


 背後には今歩いてきた道。前方にはゆるやかに曲がる古道。左手には低い植生帯、右手には木の奥へ続く浅い林。完全な安全地帯とは言えないが、少し休むには十分だ。


 私はそこで足を止めた。


「今日はここまでにしよう」


 私は木の根元へ歩み寄り、幹に背を預けた。


 硬い樹皮が背中の外装に当たる。機械の身体だから痛みはないが、凹凸の情報はしっかり伝わってきた。頭上では葉が揺れ、重い空を細かく切り分けている。


 ロヨンは少し離れた位置に立ち、古道の先を確認した。


「ここで休まれるのですな」


「うん。そろそろ時間だ。ずっと入りっぱなしというわけにはいかないからさ」


 ログアウトという言葉を、この世界の住人にどう説明すべきかはまだ難しい。ロヨンはすでに私が別の世界から来た旅人であることを理解しているが、それでも目の前にいる者の意識がふと消える感覚に慣れているわけではないだろう。


「旅人様方は、そうして別の世界へ戻られるのでしたな」


「そう。こちらで眠るというより、向こうで目を覚ます感じだ」


 言ってみて、自分でもよく理解できない難解な表現になってしまったことに笑ってしまう。なんだそれは。


 ロヨンはなんとなく理解できたといった様子で頷いた。


 彼はその大きな身体に似合わず、動きがちょこちょこしていて可愛らしいのだ。ガスマスクの丸いレンズが、木陰の薄暗さを映している。


「不思議なものですな。こうして話しているルイス殿が、ふと別の世界へ帰ってしまう。儂には、まだ少し慣れませぬ」


「すぐ戻ってくるよ」


「ええ。そうでなければ困ります」


 彼の声は一見穏やかだったが、その奥にほんの少しだけの寂しさがあった。無理もなかろう。やっと出会えた自分のレゾンデートルとすら呼べそうな人物なのだから。


「サクスザント様の御心を果たすには、まだ歩き始めたばかりですからな」


「そうだね」


 私は木陰から古道を見た。


 先ほど五人を殺したことを思い出す。殺すと表現すると、なんだか物騒だな。処理だ、うん。それも物騒か?


 彼らが復活し、あることないこと掲示板に書き込むかもしれない。仲間を集めるかもしれない。あるいは恐れて近づかないかもしれない。


 どれに転んでも、面白い。


 しかし、千三百万人だ。膨大な数のプレイヤーが日夜様々な掲示板を立てては情報交換を繰り返している中で、未熟な彼らの不明瞭なあれこれが受け入れられるとは到底思えないが。


 この世界には、それよりもずっと刺激的なものが溢れているのだから、それらに飲み込まれてしまうに違いない。


 私はログアウト操作を意識する前に、マリーへ声をかけた。


「マリー、今日のまとめをお願い」


《はい。ルイス様はイビル・ゴブリンおよびイビル・ホブゴブリンとの戦闘経験を経て、大地魔法の運用精度を向上させました。その後、瘴人に関する情報をロヨンより取得。さらに、古道上で旅人五名と接触し、敵対行動を受けたためこれを撃破。レベルは8から10へ上昇しています》


「こうして聞くと、かなり濃い一日だ……」


《加えて、旅人との接触リスクおよび経験値効率について、新たな知見を得ました》


「そこが重要だね」


《はい。今後、旅人との遭遇時には、敵対判定および情報拡散リスクを考慮する必要があります》


「分かった。次はもう少し、相手を泳がせることも考えよう」


 そう言いながらも、私は自分が本当にそうするか少し疑わしいと思っている。なぜなら私は気紛れだからさ。仕方ないじゃないか、我らが主神もそうなのだから、これはもうそういう運命なのだ。


 全ては私の気分と相手の行動次第。


 礼儀を守るなら腰を据えて話そう。役に立つなら利用しよう。面白ければ泳がせよう。気に入らなければ斬ればいい。この世界はずっと広いらしいから。


「ロヨン」


「はい」


「次に会う旅人が、もう少し賢いといいね」


 ロヨンは曖昧な笑い声を上げた。旅人である私に対しての配慮だろうか。先ほど五人を処理した時の冷たい雰囲気は、すでに薄れていが、完全に消えたわけではない。まだ奇襲か何かを警戒しているからだろうか。


 少しは落ち着けば良いのにと思う反面、まあ彼の行動が正しいということも分かる。


「賢ければ、利用価値が増しますな」


「その通り」


 頭上で葉が揺れ、曇天から落ちる光が細かく震えた。遠くの植生帯で、何か小さな生き物が跳ねる音がする。古道は何事もなかったように、岩槍の広場へ向かって続いている。


 初めての他旅人との邂逅は、友好的な握手ではなく、五つの死で終わった。


 その事実が、私にはひどくこのゲームらしく思えた。思い返せば、ポラリスのゲーム体験はいつもこんなだったな。毎回ずっとこのようなハードコアな毎日だった。


 それがまた始まるのかと思うと、複雑な感情に苛まれると同時に、ワクワクしてくるから堪らない。私はポラリスの大ファンだから。


 ログアウトの表示が視界の端に浮かぶ。


 次に戻ってきた時、この先には何があるのだろう。岩槍の広場か、機神様の御跡か、あるいは、五人の死を聞きつけた別の旅人か。


 どれであっても、きっと退屈はしない。


 私はその期待を胸部の奥に沈めたまま、静かにログアウトを選択した。

 現在のGoAの総プレイヤー人口は約1300万人です。この時代の人口を考えると、かなり多くのユーザーが楽しんでいることになります。


 となれば、当然ルイスくんとは性格的に合わないプレイヤーが出てきても何ら不思議ではありません。むしろ、ブラッドくんはかなり平均的なライトユーザーではないでしょうか。


 ルイスくんが独特なだけです。今回の衝突は、暗黙の了解(ゲーム開始一ヶ月ちょいの段階で、現地住人との関わり合いの中で生まれた基本的なルール)を破った彼らと、少し感性がズレているルイスくんとの間で起きてしまった不幸な事故でした。


 どちらかがもう少し大人であったならば、穏健な会話で終わっていたかもしれませんね。

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― 新着の感想 ―
きっとキルされた相手は自分の都合のいいように話すんだろうね 赤髪の少年やアッガスと言ったかな?そんな類の人種っぽいね
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