第29話『ゲート』
昼以降も何話か投稿する予定です!
「ゲートと聞いていたから扉の形をイメージしていたのだけれど、これは……うん、文字通り『ゲート』だね」
その姿は多くのファンタジーに登場する古代の遺物に近しい外見をしていて、きっと誰がどう見ても他所と繋がるゲートのような機能を持つ構造物を想起するだろう。
この世界の技術水準が不明瞭なのでなんとも言えないが、少なくとも簡単に作れるような物には見えない。凄まじい技術力を持った集団が、長い時間を費やして作るような代物に見える。
「ルイスよ、この幸運に感謝するのだぞ。この世界のどこを旅しても、これ程にまで保存状態の良い遥か古の異物を目にする機会はまたとないだろう」
「ああ、その通りだね。この機会をくれた神とロヨンに感謝を捧げよう」
下手なことは言えないが、このゲームを初めて見てきた物の中で、機神様を除いて最も存在感があるように感じてしまうのは、別におかしなことではないだろう。
多くの研究者がこの構造物を一目見ようと押し寄せたことの説得力が増していく。
《上層で発見した資料を表示します。調査の参考にしてください》
「ありがとうね、マリー」
マリーがそう言うと、私の視界の端に上層で見つけた研究資料のタイトルが一覧で表示された。おそらくタイトルに意識を集中するとその内容が表示されるのだろう。
私はまず『ゲート本体観測記録』に意識を向け、その内容を詳しく確認する。内容はこのゲートを遠くから観察した調査記録で、なにか特定の技術を得ることを目的としたと言うよりも、ゲートそのものが持つ不思議な魅力についての記述が多い。
『我が祖国に眠っていた古代の遺物ボルカンは、残念ながら遥か過去に行われた戦争によって無惨な姿に変えられてしまった。本当に残念なことである。残された残骸から得られた知見は、無闇に争いをするべきではないという当然の不文律のみで、技術的なものは全くの皆無であった。』
とある国の研究者が残した研究資料は、まずは遺物ボルカンなる物が敵国との戦争によって失われてしまったことへの悔恨から始まった。
たしかにその遺物を研究することが叶えば、素晴らしい知見や技術を得られたことだろう。しかし、もうこの世界にそのボルカンなるものは残っていないらしく、私も二度と見ることのできない物を思い複雑な気持ちになった。
『幸運なことに、隣国ファルファードの第三都市サンクティンの地下にて、ボルカンと同じくサクス文明によるものと思われる遺物が発見されたとの報告を受け、ここに馳せ参じた次第である。我が祖国に残る言い伝えによると、ボルカンは複数の円の組み合わせで作られた美しい構造物で、強力な結界を作り出す力があったとされるが、果たしてサンクティンの遺物はどのような力が眠っているのだろうか。』
ファルファード……この都市、サンクティンが属していた国名のようだ。今でも残っているのだろうか?掲示板にはそんな名前があったような気がするのだが……
まあ、国名は後で調べれば良いか。今はゲートの方が重要である。
執筆開始時点では、まだこの遺物がゲートのような力を持つ構造物だとは特定できていなかったようだ。タイトルも後からつけたのだろう。最初は単なる観察手記のようなものだったのかもしれない。
それよりも、ボルカンなる遺物は結界を生み出す力を持っていたとされるのか。たしかこのゲートを見て結界を生み出そうと試みていた資料が残っていたが、あれもこの研究者と同じ国の人物が行っていた研究なのではないだろうか。
その後も長々と語られる話を流し、実際に観察を行うに際して書かれたとされる記録を見つけた。
『一目見て分かるのは、この構造物がアルマッドに遺るサクス文明の遺物にそっくりだということだろう。この欠けた円環は今でこそかの国の国旗に使われるまでになったが、ファルファードでも似たような遺物が見つかるとは、これまた不思議なことである。かの国は研究者を自国の者のみに制限しているので私に見ることは叶わなかったが、ここではならいくらでも研究できるというので、ファルファードには心の底から感謝を述べたい。』
アルマッドにも似たようなサクス文明の遺物が存在しているらしい。それもいつか観察してみたいものだ。国旗にまで使われているとあるので、それほど大切に思われているのだろう。
というか、サクス文明ってどこまで広がっているのだ……?ファルファードとアルマッドの位置関係が分からないのでなんとも言えないが、多国間に渡ってその遺物が遺されていることを鑑みるに、かなり強大な文明であったのか、あるいは幅広く技術を共有していたのか。
そもそも私の思うサクス文明と、現実のサクス文明が乖離している可能性も考慮しなければならないのか。
私は単一の集団を指していると考えているのだが、もしかしたらこれが誤った認識の可能性もある。これも後ほど詳しく調べてみよう。
『欠けた円環の表面に刻まれたサクス文字は、我が祖国に辛うじて残っているボルカンのスケッチと共通する物が多い。解読された情報を踏まえると、この円環には接続、選択、転送のような意味が込められているらしいが、詳細は不明だ。アルマッドの物と比較することができれば良いのだが、残念ながらそうはいかない。転送という機能が何を意味するのかは判然としないが、異なる場所へ何かを送ることができるのではないだろうか。そしたその先は、同じく欠けた円環をしているアルマッドである可能性が高いと私は考えている。』
ボルカンと同じ形のサクス文字がこのゲートにも刻まれているらしく、その機能まで推測されているのだから、この資料の著者はかなりのキレ者だろう。名前は……レナードさんか。
同じ構造物であるアルマッドの遺物と相互に何かを送り合うことができる可能性、かあ。たしかにここにある情報だけを元にするなら、その可能性が非常に高いのは疑う余地がないね。
「ロヨン、やはりこのゲートには対になるもう一つの構造物が存在していて、それと接続することで物を転送することができるという考え方は、今ではスタンダードなのかい?」
幸運なことに、今ここに一人の研究者がいるではないか。彼に尋ねるのは最も合理的な選択肢の一つである。
「うむ。たしか今は亡きポード王国のレナード殿が災厄の日の直前に発表した論文にそのようなことが書かれていての、今ではその説が主流じゃよ。多くの学者が検討を重ねたが、多角的に考えても非常に納得感のある考えでの」
おお!レナードなる人物が執筆した論文が、今のスタンダードになっているのか。なら、尚更この資料は貴重な情報源足りうるだろう。
だから「ゲート」と呼ばれているのではないだろうか。その先駆けはこの資料を著したレナードなのか。
『遥か古の時代には、きっと人や物を好きな場所を送ったり、あるいは受け取ることができるような力を持つ構造物を生み出すほどの技術を有していたのだろう。残された遺物から分かるのは、今の時代からは考えられないほどの超技術である。これらの力があれば、災厄の日に訪れるとされる者共にも対抗できるのではと考えてしまうが、非情にもかのサクス文明は今よりずっと昔に忽然と消えてしまったのがとても不思議な話である。いつの日か、再びこの欠けた円環の構造物が繋がり、私が考える人と物を自由に移動させる姿を拝むまでは、決して死ぬものかという思いを胸に、いつかこの考えを論文に落とし込もう。』
その後も熱弁が続いているが、とりあえずはこのくらいだろうか。
レナードの考えによると、この構造物は対となる物が存在していて、それらを接続することで人や物を行き来させることができるようになるとされるが、もう片方のゲートがあるとされるアルマッドなる国がそれを許可しなかったために分からないままのようだ。
「このゲートの対となる構造物の調査はどうなっているのだろうか」
私の呟きに、ロヨンがすかさず返した。
「災厄の日からかなりの年月が過ぎたが、あの恐怖の時代を生き残った国も数多く存在しているのだ。その一つがアルマッド王国よ。後は分かるじゃろ?今も許可された一部の者のみが、かの円環を研究しておる」
未だにその制限は解除されていないのか。まあ国旗にするほどだし、並々ならぬ思いがあるのだろうな。
「ここサンクティンは見ての通り隅から隅まで崩壊しておるじゃろ?みなレナードの考えが正しいと思いながらも、その理論を検証することができなかったのだ。だからこそ、この幸運に感謝せねばな」
その通りだと思った。多くの研究者がこのサンクティンの地下に眠る構造物とアルマッドの構造物に何かしらの繋がりがあると考えてきたが、その検証は現実的に不可能なことであった。サンクティンが滅んでしまったからだ。そして七年も調査したロヨンからも分かる通り、地下への侵入方法を見つけるのは困難だったはず。
「このゲートの概略については良く理解できたよ」
「先程話してくれた特殊な機能を使ってか?」
先程の情報交換で交わした幾つかの事柄の中に、私を支援してくれる特別な機能が存在するということは既にロヨンへ話している。
支援AIというものが難解なのか、かなり唸っていたが、どうにか便利な機能として噛み砕けたらしい。直接マリーを使うことでこのゲートを理解したというわけではないが、便利機能で理解できたということにしておこう。
「このゲート、見るからに他者を寄せ付けない威容を放っているけど、もう少し近付いて観察するのは御法度なのかい?」
そう、気になったことの一つに、ロヨンの観察位置がある。彼は入口を抜けた少し先の空間で立ち止まり、少し離れた位置からじっと眺めるように観察しているのだ。
私もそれに倣って同じように観察しているが、もう少し近付かないと片目では細かく分析できず、少し困っていた。
「ふむ。そうさな、よおく見ておれ」
ロヨンはそう言うと、先程手にしたであろう小さな礫を軽くゲートに向かって放り投げた。拳大のそれは綺麗な弧を描いてゲートに吸い込まれるような軌道を描いた直後、強力な引力に引かせるようにゲートの中へと消え入ってしまった。
「なっ!」
どういうことだ?このゲートは眠っているのではなかったのか……?
多くの資料にも、未だゲートに転送能力があるなどといった記述はなかったはず。今見た光景は、文字通り小さな礫がまるで転送されたかのように消えてしまったではないか。
「このゲートの転送能力は健在なのだろうか?」
「いいや、どうやらかなり小さな物は転送できるようだが、それより少しでもサイズを増やした物には見向きもしない。転送できて精々あの程度の物だけだろうよ」
眠っているって、そういうことだったんのか。全ての機能が停止状態にあるかと勘違いしていたが、弱まっているというニュアンスだったのか。
「ならなんでこんなにも離れた位置からの観察に留めているんだ?転送される恐れがないなら、いくらでも近くで分析できるだろうに」
「いや、もしもの事があったらと思うとな。結局あれの転送先も不明のままだし、実際にアルマッドにあるゲートから礫が出てくるのを確認するまでは怖いじゃろう?」
全くもってその通りだな。僅かな危険性があるなら、それは何を持ってしても注意しなくてはならない。
しかし、ここまで来て遠くから眺めることだけを続けるのも、納得のいく選択とは言い難いのは私が重度のゲーマーだからだろうか。
「もし私がアレに近付きたいと言ったら、止めるかい?」
私が試すような口調で尋ねる、彼は笑って言った。
「馬鹿言え、たしかにここでお前さんを止めるのが一研究者としての正しい選択なのかもしれんが、こちとら十年待ったんじゃ……。いい加減コイツの力を確かめても罰は当たらないだろう」
二人してニヤリと笑うと、ゆっくりと窺うようにしつうゲートへと歩み寄った。




