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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第二章▼避難所から始まる地下研究所探索▼

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18/24

第18話『攻略開始』

 大変遅くなりました(T_T)


 ああではない、こうではないと消しては書きを繰り返しているうちに、想像以上の時間がかかってしまいました……。


 18話と19話は何度も何度も書き直したので、色々と混じって流れとしておかしな箇所や、誤字脱字が多くあるかと思います。二章を書き終えたら一度精読し、おかしな箇所を見つけたら適宜修正していく予定です。

 まだあの怪物は、私に気が付いていないようだ。そのまま中腰を維持し、壁面に沿ってゆっくりと移動する。


 壁面にはカラフルなコードや管がうねり、その上をボロボロに朽ちて穴が空いた配管が張り巡らされている。その穴の奥に見える何らかの機構は、かなり風化しているようだ。


 冷静に分析するに、私のこの体ではあの外骨格に傷一つつけられないだろう。とはいえ、決して無策というわけではない。


 工夫を凝らすことで、どうにかなるはずだ。


「ふむ。よくよく観察すると、あいつの周りのパイプ、かなり劣化してるようだな」


 銀索蜘蛛が陣取っているこの部屋中央部は比較的雑多な物が溢れているエリアで、その周囲を廻る配管のいくつかは、水を垂れ流したり、ガスを噴出したりと散々だ。何かに利用できるかもしれない。


 左手をチラリと見やった。打撃武器、まあつまりハンマーなわけだが、こいつを上手く利用することで痛打を与えるつもりだ。


 あいつの周囲の環境を利用した上で、頭にデカいのを一つ叩き込んだら、流石に耐えられないだろう。


 さて。


 私は壁沿いを離れてゆっくりと中央部へと向かい、良さげな障害物を見つけてはそこ目掛けて移動するというのを数度繰り返し、ちょうど銀索蜘蛛と壁の中間辺りに辿り着いた。


 現在は大きな筒状の構造物と謎の操作パネルの間にしゃがみ込み、周囲をつぶさに観察している。


 「マリー、何か気になることはないか?」


《特には。ただし、銀索蜘蛛の攻略には可能な限りの知恵を絞る必要があるでしょう。それと、ここらから銀索蜘蛛のテリトリーに入ります》


 本当だ。ゆっくりと進んでいたので気付けたが、周囲に糸が増えてきた。


 一部の床や壁の色を塗り替えてしまうほど糸濡れの箇所があり、周囲よりも一層浮いているそれが不気味でならない。


 最初は床や壁に白い汚れが増えた程度にしか見えなかったが、目を凝らすほどに、それがただの付着物ではないことが分かってくる。


 床の亀裂、古びた配管の継ぎ目、倒れた筒状の機械の縁、そして天井から垂れ下がるケーブルの影にまで、銀色の細い線が絡みつき、部屋の中央を囲むように張り巡らされていた。


 足元を避ければ済むものではなく、膝の高さ、腰の高さ、さらに頭部の横をかすめるような位置にまで細糸が走っている。


 光の当たり方によっては完全に消えて見え、角度が少し変わると、濡れた刃物のように細く光る。糸の一本一本が空間を切り分け、部屋そのものを銀索蜘蛛の感覚器官に変えてしまっているようだった。


 私は喉の奥で唸るように思考を沈める。


「……あの糸、触ったら終わりか?」


《接触により即死亡するとは考えられません。ただし、振動伝達による位置捕捉、拘束、切断、いずれの危険も無視できないでしょう。現状の機体損傷を考慮すると、接触は非推奨です》


「つまり、触れたら最悪ということだな」


《概ね同意します。しかし、この密度の糸を無視して進行することは不可能でしょう。ある程度の接触は受け入れた上で、最大限の利益を求めるべきです》


 恐怖や焦りを混ぜられるより、事実だけを淡々と並べられた方が、今の私にはよほどありがたい。糸の接触を忌むなら、これまでに散々触れてしまっている。だから今考えるべきは別のこと。


 銀索蜘蛛はまだ動かない。


 部屋の中央に陣取り、太い配管の影へ腹部を沈めるようにして、複数の脚をゆっくりと折り畳んでいる。外骨格は鈍い銀色で、ところどころに黒ずんだ斑点が浮かび、紫がかった複眼だけが暗がりの中で不自然に湿った光を放っていた。


 眠っているわけではない、と思う。奴さんの生態がイマイチ掴めていないので判然としないが、恐らくあれは獲物を待っている。この空間に張り巡らされた糸は、既に私の存在をビンビンと伝えているはずだ。


 巣の内側に迷い込んだ何かを、ただじっと待っているのだ。


 「マリー、もし仮に一部の糸に激しい振動を加えたら、銀索蜘蛛はそれを確認するために移動するだろうか」


《現在は糸に獲物がかかるのを待っている状態であると推察されます。その状態で獲物が罠にかかったと考えたなら、きっと仕留めるために移動する可能性は高いでしょう》


 私は足元の瓦礫を慎重に探った。


 右腕がない分、拾う動作一つにも気を遣う。左手にハンマーを持ったままでは細かな作業ができないので、一度ハンマーの頭を床へそっと置き、柄を太腿の装甲に引っかけるようにして固定する。


 それから左手の指先で、音を立てないよう小さな金属片を幾つか拾い上げた。


 拾い上げた破片は、どれもが掌に収まるほどの薄い金属板だった。角がめくれ、表面には古い油と埃がビッシリとこびりついている。


 これなら、喧しい音を出すと同時に、糸に多くの振動を与えられるはず。


「マリー。左奥の水漏れしてる配管、あの下を確認できるだろうか?」


《確認しています。床面に未知の液体による滞留あり。更に糸が帯状に固まった箇所が複数まとまり、大きな塊となっているようです。音の反響に重大な影響を与え得ることはないでしょう》


「よし、銀索蜘蛛が反応したら、私は中央上の太い配管の留め具を狙う」


 奴が周囲を探るような状態から音に反応することで生まれるその一瞬の隙を狙い撃つ。奴の頭上にある水漏れやガス漏れをしている配管を叩き壊すことができれば、落下物で大ダメージを与えることができるはず。


《標的を単一の打撃で破壊できる保証はありません》


「まあ、それは私の工夫次第だな。上手くいけば御の字、悪くてもリスポーンし直すだけだ。この場所は既に記録してあるし、また来ればいい……死ぬのは嫌だがね」


《成功確率は不明です。ただし、直接戦闘よりは生存率が高いと推定されます》


「それで十分だ」


 私は身を低くし、左手だけで金属片を構えた。


 右腕がないせいで、投げる動作のバランスが取りづらい。肩を回すと、欠損した右側の空白へ体が逃げそうになる。


 無意識に右腕で反動を取ろうとする癖が残っているのだろう。存在しない腕に頼ろうとする度に思うのだ。良かった、現実では五体満足で、と。


 ふう、焦るな。


 私は膝をわずかに沈め、腰を捻り、左肩から先だけではなく、肩甲骨の動きや胸部の重心移動も使って金属片を放った。


 破片は低い弧を描いて弾け飛ぶ。


 幾つかの礫が糸と糸の間を辛うじて通り抜け、左奥の空間に突き刺さる。


 甲高い音が鳴り響くと同時に、その辺の糸がグラグラと大きく揺れた。


 直後、銀索蜘蛛の複眼が一斉にそちらを向いた。


 ただ顔を動かしただけではない。巣全体がわずかに震え、壁や天井へ張り巡らされた銀糸が、蜘蛛の意識を左奥へ運んでいくように小刻みに波打った。巨大な脚の一本が床を擦り、湿った金属音が低く響く。


 速い。だが、反応は読めた。


 私はハンマーを左手で掴み直し、身を低くしたまま遮蔽物の影から滑り出る。走る、というほど綺麗な動きではなかった。


 重い脚部は思うように動かず、右腕の欠損によって上体のバランスも悪い。私はほとんど転ぶ寸前の姿勢を、左肩と腰の捻りで無理やり立て直しながら、銀索蜘蛛の上部にある太い配管へと向かう。


 周囲に手当り次第に残った瓦礫や小さな屑を投げ、蜘蛛糸を無造作に揺らす。床に散らばる糸を踏まないよう気を付けるのは止めだ。


《糸による情報収集を諦め、視覚による補足に切り替えたようです》


 一点に集中していた銀索蜘蛛の複眼が、方々へと向き始めた。


《捕捉されかけています》


「分かってる」


 私は一つ呟くと、持てる限りの力を脚に込めた。リアクターによって生み出されたエネルギーを一部に集中する技術は、以前から考えていたことだ。やっつけだが、上手くいくことを願う。


 ついでに私に宿る僅かな魔力にも命じる。脚の力を強めよ、と。


 「っら!」


 全力で床を踏み抜き、空へ跳ね飛ぶ。床に与えた以上の力で押し返され、私の体はまるでゴムボールのように目標へと向かった。


 目標との距離が凄まじい速さで無くなっていく。


 太い配管を壁へ固定するための金属製の枠が目に入った。表面は赤黒く腐食し、何本かのボルトはすでに欠け落ちている。


 私は空中でなんとかハンマーを振りかぶる。身体ごと押し潰すようにして、全身に込めた力を留め具の腐食した一点へ叩き込んだ。


 凄まじい音が響き渡る。


 その刹那、私の存在を知覚できていなかった銀索蜘蛛が、上部を凄まじい勢いで通り過ぎていく私に気がついたようだ。


 しかし、


「残念だったな」


 与えた衝撃により留め具が消し飛び、配管の蒸気の噴き出し方が変わり、それぞれの継ぎ目が嫌な音を立てて歪む。


《銀索蜘蛛、接近》


 背後で床を叩く音がした。ようやく見つけたこの異常の元凶に、そのツケを払わせるかのように襲いかかるつもりなのだろう。


 細長い脚が、湿った金属床を滑るように移動している。


 途端、錆びた破片が空より散る。太い配管が小さく沈み込み、その上に絡みついていた銀糸がまとめてビクビクと震えた。


 銀索蜘蛛が思わずといった風に反応する。

 

 私に向いていたはずのその巨体が、今度は明確に上部へと意識を向けた。


 ドガンという響と共にけたたましい音が鳴り響き、下部に鎮座していた銀索蜘蛛を大量の瓦礫が押し潰した。天井の様子を見るに、かなりの重量があっただろう。


 「さすがにタダでは済まい。死にはしなくとも、耐え難いダメージを与えられたはずだ」


 私の呟きを証明するかのように、瓦礫によって巻き上げられた砂煙が収まると、銀索蜘蛛がボロボロの状態で瓦礫に押し潰されている姿が現れた。


 「さすがに動けないか」


 ピクピクと痙攣し、その様子から残された命も僅かしか残っていないことが窺える。あの放たれた存在感を思うと、思わず憐れに思ってしまうほど呆気ない最期だったな。


 私は止めを刺すべく慎重に罠にかかった獲物へと向かう。長く苦しめてやる必要もあるまい。さっさと楽にしてやろう。


 なんて思った直後、私は無意識に手に持っていたハンマーの先端を盾のように構えていた。


 我が身を凄まじい衝撃が襲い、その勢いに押されて背後に吹き飛ぶ。幾つかの障害物にぶつかりながらその勢いを弱めていき、最後にかなり大きな柱を砕く。


 右側に腕がないため、衝撃を和らげるような受け身は取れない。肩口から背中へ衝撃が走り、欠損部の奥で火花のような感覚が散った。


「うぐ、ああ……」


 信じられない。アイツ、あの状態で攻撃してきたようだ。油断はなかったはず。慎重に止めを刺そうとしたのだ。しかし、私は銀索蜘蛛の生態についてあまりにも無知だったようだ。


「口からも出せるのか、糸……」


 壁を背に座り込むような体制で力無く佇む。くそ、思うように体が動いてくれない。何か重大な問題が起きていてもおかしくない攻撃だったので、きっと想像通りのだろう。


「マリー、全身をスキャン、それからダメージコントロールは可能だろうか」


《全身スキャンは実施済みです。左肩部に重度の問題、腹部、胸部、右脚、腰部の一部に中度の問題、右腕部、左脚部の一部に軽度の問題が生じています。ダメージコントロールを実施します》


 クソ、散々だな。まともに動けるだろうか……。


 遠くに見える銀索蜘蛛の様子は、相変わらず瓦礫の下で藻掻いているのみだ。あの攻撃も、死ぬまいと放った咄嗟の一撃だったのだろう。


 全身の様子を鑑みるに、左脚の問題が解決すれば移動はできるだろう。ただし、左肩部の状態次第では攻撃ができない。両腕が使えないとか、もう本当に終わりだ……。


 《現在可能なダメージコントロール完了。軽度の問題はほぼ問題なく処置、中部の問題は現在の機体能力では修復に時間を要する必要があり、簡単な応急処置に留まっています。重度の問題に関しては処置を保留しています。》


 なんとか移動はできそうだ。全身にあった中度の問題も我慢すればなんとかなる程度には修復できた。重度の問題は……


《現在の自己治癒能力では修復することが不可能な程の深刻なダメージです。吸収同化を利用するか、一時的に全身のリソースをダメージ回復に向けるかの選択肢が取れます》


 「……よし、私に規格が合わなかったり、ファブリケーターで利用する予定だったいくつかのパーツを吸収同化でエネルギーに変換することに加え、全身のリソースを回復に回そう」


 瓦礫の下で蠢く姿を眺める限り、まだ猶予はあるはずだ。


 収納した幾つかのパーツを出し、吸収していく。これはスキルを得た頃、あの廃ビルで使っていた応急処置法だ。今になって再び使うことになるとは。


 ゆっくりと処置が始まったようだ。


「はあ、吹き飛ばされてばっかりだよ……。いつになったら吹き飛ばす側になれるのだろうか」


《この難所を切り抜け、幾つかの諸問題を解決し終われば、後は全ての資源を強化に使えるでしょう。そうすれば、あなたはいずれ何者にも手が付けられない機械兵器としての力を取り戻せるはずです》


「そのためにも、まずはあのデカブツから必要な素材を収集し、その上でこの地下施設を隈なく探索する必要があるな」


 私は床に座したまま、何がなんでも離さなかったハンマーの柄を引き寄せる。左腕一本で立ち上がるのは簡単ではない。


 体を起こそうとするたび、右側の欠落が重心を狂わせる。私は近くの筒状構造物に幾分かマシになった左肩を押しつけ、そこを支点にして無理やり立ち上がった。


 銀索蜘蛛はもう完全にこちらを認識している。何としても斃すべき宿敵として私を見ている。その敵意のなんと甘美なことか。


「ふふふ」


 思わず笑みが零れてしまった。あんな恐ろしい巨体を持つ怪物が、私一人を叩き潰すために藻掻いている姿を見て、何も感じない人がこの世に居るのだろうか、いや居ないだろう。


 前脚の一本が持ち上がり、床を切り裂く。その脚の先端は細く鋭く、装甲の薄い部分に刺されば、私のこの朽ちかけた体など簡単に貫けるだろう。


 「命と命をかけた真剣勝負だ。今度は卑怯な手を使わないと約束しよう。ちゃんと殺しあおう」


 銀索蜘蛛は自身に食い込んだ幾つかの物を除いて、のしかかる瓦礫を何とか落とし、痙攣から立ち直ろうとしていた。


 外骨格も大部分がひしゃげ、その隙間から体液が零れ落ちている。幾本かの脚の動きが目に見えて鈍い。見るからに満身創痍であることが分かる。


 「でも、それは私も同じだからさ」


 私と銀索蜘蛛は、同じタイミングで床を蹴り、お互いの距離を縮めていく。

 少し投稿をお休みしている間に、かなりの方に見て頂けたようで、なんと10000pvを超えていました!な、なんだってー!です。


 まだ投稿を開始してから一週間ちょっとなのにブックマークが100を超え、こんなにも多くの人に楽しみにして頂いているという事実だけでも感無量です。


 日間のVR部門のランキングでも3位になることができ、これも一重に読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


 今後もこの拙作をどうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
>中部の問題は現在の機体能力では修復に時間を要する必要があり、 確か恩恵の一つに自動修復機能完全停止があったかなと思ったのですが、完全に壊れた・無くなったものを再生する(レベルの自己修復機能)のとちょ…
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