20.
ソフィーに手伝ってもらって正装に着替え、途中でアルと合流する。
彼も身なりを整えていて、少し長めだった髪も短くなっていた。
思わず見惚れていると、アルも綺麗だと言ってくれた。それがとても嬉しい。
アルに手を取られて、そのまま王城の謁見の間に移動する。
そこには、多くの貴族が詰めかけていた。真実を知らしめるためということで、国王が特別に参加を許可したらしい。
先に、教会の大司教とルヘーニ伯爵。そしてレイナの姿があった。
レイナは喉を抑え、不安そうな顔をしている。
どうやら声が出ないというのは、本当のようだ。だがリゼットの姿を認めた途端、憎悪を剥き出しにして睨みつけてきた。
レイナの態度で、ルヘーニ伯爵も、リゼットたちに気が付いたようである。
ルヘーニ伯爵とは、レイナと一緒にいるときに何度か顔を合わせたことがあったが、そのときよりも人相も悪くなったように感じる。
今もこちらを見て、馬鹿にするような顔をした。
「王城に平民と罪人がおりますが、王太子殿下はどのようなおつもりですか?」
ルヘーニ伯爵はそう言ってアルとリゼットを見ると、わざとらしく嘆くような素振りをしてみせる。
「まさか、買収して偽の証言などを言わせるおつもりでは?」
「平民ではない。アルフレートはフォン公爵の長男。そしてリゼットは今でも聖女だ」
その挑発には乗らず、王太子は冷静にそう発言する。
視線がフォン公爵に集中するが、彼はただ静かに頷いたのみ。
それだけで王太子の発言が真実であることを、周囲の貴族たちも悟ったようだ。
「しかし元聖女 は、フォン公爵令嬢を毒殺しようとした罪で、投獄されたはずでは」
大司教がそう反論した。
王太子はそれにも、冷静に答えた。
「アンジェリカに毒を盛った実行犯に、詳しい話を聞いた。彼女は、脅されて偽の証言をしたと言っている」
王太子の指示で前に出た教会のシスターは、泣きながらレイナに指示されたと証言した。
他にも数人のシスターや教会関係者が大司教やルヘーニ伯爵に命じられて、偽の証言をするように言われたと告白した。
「それこそ捏造だ! 王家は、教会を潰そうとしているのだ!」
大司教がそう叫んだが、王太子はそれを否定した。
教会の内部にも腐敗を嘆く人たちはいて、王太子は彼らと連携して、少しずつ調査を進めていたのだ。
中でもルヘーニ伯爵やレイナに脅されて偽の証言をした人たちは、真実を話してくれれば罪には問わないと約束したらしい。
ルヘーニ伯爵と大司教は、まだでたらめだ、捏造だと喚いているが、肝心のレイナはリゼットを睨みつけるだけで何も言わない。
「事実と違うのならば、聖女本人が反論を」
王太子にそう言われて、レイナは青褪めた。
声が出ないことを、よりによって恋した相手に追及されて、絶望しているのだろうか。
「娘は、病気で。そのせいで、出ないだけで」
ルヘーニ伯爵が慌てて弁解するが、レイナは本当に声が出ないのだと知って、見学していた貴族たちもざわめいた。
「調査など不要で、声が出なくなったことこそ、何よりの証拠。たしか、そちらではそう言っていたと思うが」
「それは、元聖女 も同じことで」
「私の声は、元に戻りました」
ルヘーニ伯爵の反論に、リゼットは静かに口を開いた。
周囲の人たちの視線が、一斉に集まる。
レイナやルヘーニ伯爵も、信じられないような視線をリゼットに向けていた。
それでもアルがずっと手を握っていてくれたから、怖くなかった。
「毒を盛られて、声を奪われてしまったのです。ですが、薬によって回復し、今はこうして声が出るようになりました」
「昨日の歌声は、皆も聞き覚えがあっただろう」
王太子がそう言うと、同意するような声があちこちから聞こえてきた。
「たしかに、あの声は……」
「聞き慣れた、美しい声でした」
あの歌声は、たしかに前 の聖女であるリゼットのものだとわかったようだ。
「私に毒を盛ったのは、新 たに聖女となったレイナです。聖女の力を持ち、聖女を祖母に持つ彼女は、どんなことをしても聖女になりたかったのでしょう」
レイナが王太子に恋をしてアンジェリカにも毒を盛ったことは、さすがに口に出さない。
いくら罪人とはいえ、恋心を晒し上げるのは、やりすぎだと思った。
「ですが、罪は必ず裁かれるもの。レイナが声を失ったのは、そういうことかと」
「!」
何度も声を出そうとしたレイナだったが、掠れた声さえも出ない。
罪を犯した聖女は、声を失う。
まさにそれを現している姿である。
そんなレイナを見る周囲の視線も、冷たいものになっていく。
「きっとレイナにも毒を盛られたのだ!」
ルヘーニ伯爵は、まだそう叫んでいる。
「我が伯爵家は、数多くの聖女を輩出した名家だ! それを妬んだ者が、レイナに毒を飲ませて声を奪ったに違いない!」
「その話だが」
王太子は古い本を取り出した。
それは、アルの診療所が放火された原因にもなった、毒について書かれた本である。
それが何かわかったのか、ルヘーニ伯爵の顔色が変わった。
「そ、それは……」
「この本に、ルヘーニ伯爵家に代々伝わる毒の詳細が書かれている。皆も知っていると思うが、これは何代か前の国王が、有能な人材が毒殺されている現状を憂いて、各家に伝わる毒の詳細について調べた結果が記してある」
その本の存在は、貴族ならば知っている。だが本来ならば、王族しか見ることが許されないものである。
「ここに、ルヘーニ伯爵家に代々伝わる毒についても記してある。それは命ではなく、声を奪う毒だと。それがリゼットに盛られた毒であることは、すでに判明している」




