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第2話 冒険者になるため、街へ向かう。

 とりあえず家から脱出したものの、ノアは途方に暮れていた。そりゃそうだ。お金もあまりないし。


「ひとまず街へ行って、ギルドに登録してもらって金を稼ごう。必要な道具は銅貨で買えるだろうし」


 街まで歩きながら、頷く。

 ノアは賢い子供だった。

 普段から使用人の話を盗み聞きしていたため、世間の情報には詳しかった。もちろん、街までへの行き方も覚えていた。

 いわゆる『闇ギルド』というものは、年齢制限がないらしい。そこに登録してもらって、ダンジョンの低い層に潜って適当に日銭を稼ぎ、当分生き延びられたらそれでいいのだ。

 15歳にもなれば自然と力もついて強くなってくるだろうし。


「楽しみだなぁ。何より自由だ」


 歩き始めて小3時間。どうやらノアの家は王都の隣の領地で、かつ王都に1番近い場所だったらしい。活気に満ち溢れたリーベルタース王国の首都――イニティウム最大の商店街に着いた。


「剣を買うか。いや、その前に金を貯めるか……? 魔獣と戦わないクエスト選んだらいいんだもんな」


 人混みをかき分けながら、『闇ギルド』なるものを探す。ときおり気前良さそうな人に声をかけ、道順を聞いた。

 ちなみに魔獣、というのは、ダンジョンの中に生息する生き物だ。普通の動物に比べて魔法を使うから厄介なのだ。

 そしてさらに30分……


「ここが、『暁闇(ぎょうあん)』かぁ」


 ノアは闇ギルドに辿り着いた。

 闇ギルドと言われるだけあって、ショットバーの地下にひっそりあるらしい。

 商店街とは雰囲気の違う薄暗い階段を、ノアは慎重に歩いた。レンガ壁も煤けて古ぼけている。

 『暁闇』と書かれたプレートが下げられた赤いドアを押すと、そこはたくさんの冒険者たちで賑わっていた。

 確かにガラの悪い者が多いが、どうにかやっていけそうな感じがする。

 ギルド内は普通の子供なら泣き叫んで出ていきそうなほどいかつい大人たちでいっぱいだったが、そこはノアである。ノアは家でいじめ抜かれ、かつ元から並々ならぬ気力を持ち合わせていたため、刺青かっこいい〜!! くらいしか思わなかった。


「俺も成長したらこんなになるのかな」


 今はまだふにゃふにゃした体を見つめ、ノアは呟いた。ここにいる人たちは、みんな引き締まっている。貴族たちのガリガリだったり、逆にブヨブヨだったりする体よりよっぽどかっこいい。

 ノアにとって、初めて憧れた世界だった。

 筋肉男たちに揉まれるようにしてノアは受け付けに辿り着き、列に並んだ。

 こちらも何人かの男たちが仕切っている。


「ギルドの受け付けは、女の人だって聞いたんだけどなぁ……」


 そんな慌ただしい受け付けの様子を見て、ノアは内心首を傾げた。闇ギルドであるため、えらく治安が悪く、ほとんど女性がいないことをまだノアは知らない。


「ま、いっか。今日の宿代くらい稼げたら何だっていいし」


 初めての長旅や父に裏切られたこともあって、ノアは疲れていた。

 10分くらいですぐに順番は回ってきた。

 背伸びして、机の高さに目線を合わせる。


「あんた、誰かの子供かい?」


 受け付けの筋肉だらけの男がノアを見た第一声がそれだった。そりゃそうだ。こんな小さな子供が来るなんて誰も思わない。

 

「いや、ギルドに登録してほしくて……」

「はぁ!? なんであんたみたいな子供が……もしかして……」


 ノアが担当してもらった受け付け――マーベルは、運良く良い人だった。良い人、というよりも心が乙女だった。

 そんなマーベルに、ノアは非常にいじらしく見え、ついでに母性をわかせた。マーベルは未知の感覚に戸惑った。

 もしかしたら、家でも追い出されたのかもしれない。貧乏で、働かないといけなかったのかもしれない。

 まだあどけない少年……というより子供のノアの身の上を想像し、マーベルは心を打ち砕かれた。

 ノアがここにいる理由は前者だが、案外喜んでいることをマーベルは知らない。


「わ、分かったわ。これが冒険者の証のネックレス。一応あんたが15歳になって成人を迎えたら、ここのギルド以外でも使えるようになるから。今は無理だけどね。今から簡単なクエストを用意してあげる。死んじゃダメよ。お兄さん、悲しむから」


 マーベルはノアの手をネックレスと一緒にしっかりと握った。

 ノアが黙っているのを喋るのが苦手なのだと解釈したマーベルは、そんななのにこんなところまで来て、と内心涙したが、ノアは単に見た目とのギャップに混乱していただけである。


「はい。これが簡単なクエスト。いくつか薬草を取ってくるだけだから簡単だと思うの。頑張ってきてね!」

「あ、ありがとうございます!!」


 マーベルからクエスト用紙やら色々受け取ったノアは頭を下げた。貴族形式の挨拶は教わっていないから分からない。

 健気さに感動したマーベルをさておき、ノアはさっさと歩き出した。彼はリアリストである。


 ノアがギルドを出ようとした瞬間だった。手首をギリっと握られた感触に振り返った。老人だ。それもヨボヨボそうな。ただ目だけはキリッと据わっている。


「少年、冒険者になりたいのか……?」

「え、えぇ……」


 頷くと、老人は満足そうに笑った。

 ここにいる筋肉男たちが霞むほどの、かっこいい笑顔で。


「少年。着いてこい。お前を取っておきの冒険者にしてやる」

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