最終話 祝福の式典
「ナディア様!」
「おい、アディ」
がやがやと声が漏れ聞こえるホールの入り口前で知っている声に名前を呼ばれ、そちらを振り向くと聖女様が、いやアデライド様が輝かんばかりの笑顔でこちらへ足早に向かって来るところだった。後ろからアレクサンダー様が仕方なさそうな顔で追いかけてきている。
アレクサンダー様は痩せていた体が健康的なくらいに戻ってきていて、とてもお元気そうだ。
私たちはこのパーティーの主役なので、一番最後に一緒に入場するためここに待機していたのだ。
「アディ、私を置いていかないで欲しいな。早かったな、フィル。久しぶりだね、ナディア嬢」
「俺たちも今来たところですよ」
フィルがアレクサンダー様に挨拶を返す。
「アレクサンダー様、アデライド様、お久しぶりです。わあ、アデライド様、今日は一段と綺麗で、とても素敵です!」
アデライド様はアレクサンダー様から贈られたという黄色と青色のいつもより華やかで豪華なドレスに身を包み、幸せそうな微笑みを浮かべている。
もちろんお二人の胸にも、それぞれお互いの色の花が挿してある。
……やっぱりアデライド様のドレスも、アレクサンダー様の髪と目の色だ。よかった、私と一緒だね!
「ありがとうございます。ナディア様もとても素敵ですよ! 今日はよろしくお願いいたしますね」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いいたします」
アデライド様の優しい笑顔に緊張が和らいでいく。お二人も一緒で嬉しいな。
というか、今日の本当の主役はこの二人だ。
この式典はアレクサンダー様の快癒と立太子、婚約のお祝いが主な目的だから。第二王子も同時に婚約したということで、私たちはおまけでこんな盛大にお祝いしてもらっているだけなのだ。装いは華やかにしてもらったけれど、あんまり目立ちすぎないようにしないとね。
大勢の貴族たちがいるホールの中を、四人で入場していく。
それを合図に音楽が始まり、ダンスを踊る。
まずは私たち四人がそれぞれのパートナーと踊るので、通常とは異なるけれどトゥールの音楽から。
一曲目のトゥールが終わると、ラトルの曲に変わり他の人たちもダンスに加わるのだ。
いろんな人にダンスに誘われるだろうからと、このダンスの練習が一番大変だった。誰かの足を踏むようなことは絶対にするわけにはいかない。
私とトゥールを踊っているフィルは終始にこにこしていてとても楽しそうだった。
私は周囲の令嬢方が頬を染めつつちらちらとフィルを見ているのがわかって少しだけもやっとしてしまったけれど、フィルは周囲のことなんてまるでお構い無しとばかりに私のことばかり見ているので、そんな気持ちはすっと消えていった。
……恥ずかしいから、むしろもう少し目を逸らしてくれてもいいんだよ。
二曲目はパートナーを変えて踊った。私はアレクサンダー様と、フィルはアデライド様と。
「しばらくダンスなんてできていなかったから、こういう場では少し緊張してしまうね」
「わたくしの方こそ、アレクサンダー様の足を踏んでしまったらと緊張し通しですよ」
二人でくすくす笑い合う。あんなことを言っていたけれど、アレクサンダー様はとてもお上手だった。きっと頑張ってリハビリしたんだろうな。
「ナディア嬢。苦労するだろうが、これからも弟をよろしく頼む」
真剣な表情でそう言うアレクサンダー様に少し驚いて目を瞬く。
「わたくしの方こそ苦労をおかけすることになるかと思いますが、精一杯頑張ります」
にこっと笑ってそう言うと、アレクサンダー様も微笑んでくれた。
アレクサンダー様は終始丁寧に優しくリードしてくれて、とても踊りやすかった。
一曲踊り終わり礼をしてアレクサンダー様とお別れしたとたん、様子を窺っていた人たちにわっと囲まれてしまった。
「初めまして、グレイスフェル嬢。私は──」
「おい、抜け駆けするな!」
「是非私ともダンスを──」
う、しまった。すぐフィルのところへ行こうと思っていたのに、この人たち早すぎるよ!
見ると、アデライド様と踊り終えたフィルもすでに大勢の人たちに囲まれている。これじゃ、フィルのところへ行くのは難しそうだ。
……でも、これはある程度予想していたことでもあるんだけどね。今日の主役である王子とその婚約者たちに挨拶しようとするのは当たり前のことだもん。でも、それはフィルと一緒の時がよかったな……。
「ただ一度でいいのです、貴女の美しさにすっかり心を奪われてしまった憐れな私に、どうか貴女と踊る栄誉を──」
うわーっ! そんな気障なお世辞はやめて! 背中がぞわぞわするからあ!
「呼んだか、ナディア」
ふわりと背中に温かい気配を感じたと思うと、すぐそばには正装に身を包んだメノウがいた。
「メノウ!? その格好どうしたの? というか、呼んだって?」
「困った、誰か助けてと思っただろう。違うのか?」
……うぐっ。私は明確にメノウを呼んだわけではないけれど、そう思っていないとは言えないかもしれない。
でも、今までは少し困ったことがあったくらいじゃ姿を現さなかったのに、どうして今回はこんなにすぐ来たの?
「も、もしかして、闇の大魔術師……?」
ざわめく声にメノウはくるりと視線をめぐらせ、私の周りを囲むぽかんと口を開けている人たちを見て状況を把握したようだ。
「悪いが、我が主は私と踊りたいそうだ。其方等はまた今度にしろ」
「ええっ!?」
メノウはさっと私の腰に手を回し、空いたスペースへと連れ出した。置いてけぼりとなった人たちはあっけにとられたように呆然としていた。
「さあ、踊るぞ」
「え、う、うん」
メノウって踊れるのかな、という心配は杞憂に終わり、メノウは意外と慣れたような動きで私をリードして、ダンスを踊り始めた。メノウの背が高すぎて私とじゃバランスが悪いけれど、踊れないほどではない。何より、メノウが上手にリードしてくれている。
でも、私はなぜ今メノウがこんな格好でこの場所に現れたのかまだ納得できていない。もしかして、いつでも来られるよう準備してた?
「メノウ……もしかしてこの前のことがあったから、必要以上に警戒してない?」
「さあ、なんのことだ?」
メノウはふいっと目線を逸らしてとぼけるけれど、この態度はきっとそうなんだろう。
私はむすっとした顔を作ってメノウを見た。
「メノウが私を助けてくれるのはすごく嬉しいけど、メノウは何でもできちゃうから、甘えてばっかりじゃ私何にもできない子になっちゃうよ」
「……そんなことはない。魔王に対して、私は何もできなかった。今度こそ、お前を守ると誓ったのに」
メノウは眉を寄せて悔しそうにそうこぼした。
でも、私はそれに首を傾げる。
「メノウはいつもちゃんと私を守ってくれてるよ。あの時もメノウが精霊殿にフィルを連れて行ってくれたから私は助かったんだし、これもすぐに作ってくれたじゃない」
私は少し手を持ち上げて、メノウにもらったふたつ目の腕輪に目線をやった。
魔王にさらわれた後しばらく、メノウは顔を見せなくなった。久しぶりに来たと思ったら目の下にひどいクマを作っていて、「いつもつけておけ」と言って渡してきたものだ。ほとんど寝ずに作ったというそれは、また魔術で勝手にどこかへ連れて行かれるのを防いでくれるらしい。原理とか仕組みとかも説明してもらったけれど、よくわからなかった。メノウって本当にすごい。
あ、ちなみにその後フラフラだったメノウはちゃんと寝かしつけました。「まだやることがある」と帰ろうとするメノウを無理やり私のベッドに入れて上掛けの上からしばらくポンポンと叩いてあげたらあっという間に寝ちゃったんだよね。
ローナが「このことは絶対に殿下に知られては駄目ですよ」と怖い顔で言っていたけれど、別に一緒に寝たわけでもないのに大げさだと思う。
……一応言うことはきくけれど。
「ありがとね。メノウのこと、信頼してるよ」
「……ああ」
メノウが嬉しそうに口元を緩めると、周囲がざわりとどよめいた。
ちらりと確認すると、大勢の令嬢たちが頬を染めながらメノウを見ている。
……もしかして彼女たちは、メノウのファンなのだろうか。実は結構いるみたいなんだよね、闇の大魔術師のファンだった人。
ダンスを終え、礼をする。メノウはすごく上手だったけれど、どこかでこういうパーティーによく参加していたのかな? まあ、長く生きているんだし、そういう機会もあったんだろうな。
(あの方が従魔だなんて本当かしら? どう見ても黒髪なだけの人間よね。仲も良さそうですし、もしやただならぬ関係なのでは?)
(初代女王の生まれ変わりだというのも、わたくしは信じられないわ。何か裏があるのではないでしょうか)
(本当に上手くやられたこと。真偽はともかく、あそこまで噂が広がれば王家に入れるべきだと陛下は考えられたのでしょう。でなければあのフィルハイド殿下がこんなにも急に婚約だなんてありえませんもの)
(殿下がお可哀想……)
……え。
なんだか陰口のようなものが聞こえてくるりと声がした方へ顔を向けると、ぱっと視線を逸らした三人の令嬢たちがいた。
「よし、あいつら殺……」
「メノウっ!」
がしっと腕を掴んで、彼女たちの方へ行こうとするメノウを止める。
もう、すぐそうやって乱暴な対応をしようとするのは本当に止めさせないとね。
それにしても、私が初代女王の生まれ変わりだと信じていない人もまだいたんだね。まあ、考えてみればそうか。全国民の前で魔法を使ったわけでもないし。
でも、メノウが悪く言われたり、フィルとの婚約が政略だと思われるのは嫌だなぁ。メノウは大切な友達だし、フィルと私は政略結婚なんかじゃないもん。
訂正したいけど、明確に私に向けて言ってこない以上、私からつっかかる訳にはいかない。
ダメだよ、とメノウに目で訴えると、メノウはとても嫌そうな顔でチッと舌打ちをして、渋々彼女たちに背を向けて私の腰に手を添えスタスタと歩き出した。
去り際に彼女たちの方を恐い顔でギロリと睨んだので、「ひぃっ」という小さな声が聞こえた。
……メノウは本当に感情を抑えるのが苦手だね。
「ナディア! と、お前、なんでいるんだよ……」
「あ、フィル!」
やみくもに進んだだけなのかそれとも狙っていたのか、ぐいぐいと人垣を掻き分けてメノウが連れてきてくれたのは、なんとフィルのところだった。フィルが周囲の人たちに「失礼する」と言って私たちの方へやってくる。
「曲がりなりにもナディアの婚約者ならば、女どものやっかみくらいからは守ってみせろ」
「!」
メノウはそう言って、トンと私の背をフィルに向けて押した。
「め、メノウ」
「……ナディア、何かあった?」
「え、いや、そんな大したことは」
「……」
心配そうなフィルに対してなんでもないと誤魔化そうとすると、フィルの顔がにこりと凄みのある笑顔に変化した。
おおう、誤魔化すのは無理みたい。この笑顔の裏にある怒りがちょっと怖い。私に対して怒っているわけじゃないのはわかっているけれど、それでも怒りを向ける相手のことを考えると思わず肩に力が入ってしまう。これは正直に言った方が良いかもしれない……。
「じゃあな」
「えっ、メノウ、もう行くの?」
「……こういう場は苦手なのでな。だが困ったらいつでも呼べよ」
「そっか、ありがとう!」
私をフィルに引き渡すと、あっさりとメノウは帰って行った。
……もしかして、私と踊るために来てくれたのかな? 正装もしていたし。
メノウと踊れて楽しかったよって、ちゃんと後で言おうっと!
そして午後。
いよいよ国民に向けて顔見せである。
午前中は色々あったけれど問題もなく終わった……はず。うん。
『婚約が政略的なものだけでなく、俺がどれだけナディアを好きなのかみんなにもわかってもらわないとね』と言ってフィルはあれ以降なんていうか、遠慮がなくなった。
ずっと私の腰を抱いて離さなかったり事あるごとに愛しげに見つめてきたり手にキスをしてきたりして周囲を戸惑わせていたけれど、私たちの婚約披露の場でもあるんだし、それは問題ではない、はず。
……その度に私の顔が真っ赤になって爆発しそうになったり、周囲の人たちがフィルの色気にあてられてよろめいていたくらいで。
おかげで大半の人たちには私たちがちゃんと、こ、恋人だってわかってもらえたみたいだったし、一旦忘れよう。でないとまた顔が熱くなってくる!
午前中祝宴に参加していた貴族たちはすでに城の敷地内の広場にいる。陛下や王妃様、お養父様やお養母様も。城に入れない子供や平民たちは門前広場で、みんな私たちが出てくるのをを待っている。
「わあ……!」
王族の挨拶の場である広いバルコニーに、アレクサンダー様がアデライド様を、フィルが私をエスコートしながら歩いていく。門前広場には、人がいっぱいに埋めつくされていた。
す、すっごい見られてる……当たり前だけど。
あ、お養父様とお養母様、手を振ってくれてる!
「「ウオォーー!」」
「アレクサンダー殿下ー!」
「ご快復と立太子、おめでとうございます!」
「王太子万歳!」
「聖女様ー!」
うわあ、すごい歓声!
「フィルハイド殿下ー!」
「ご婚約おめでとうございます!」
様々な声が聞こえる中、広場正面の一番前にアリアナとマリエラがメイドたちと一緒にいるのがすぐにわかった。一生懸命手を振っている。手を振り返すと、嬉しそうにはしゃいでいるのがとても可愛い。
それから、もしかしたらという気持ちで会いたい人たちの姿を探す。これだけ人がいるのだから、後ろの方にいる平民なんて見つけられないだろうなと思いつつ。
「あ……」
けれど、アリアナたちの少し後ろの方に、院長先生の姿を見つけた。周囲には、孤児院の子供たちやお兄ちゃんたち、パン屋の店長やサラさん、私の大好きな人たちが集まって、みんな嬉しそうに笑いながら必死に手を振っている。懐かしくて嬉しくて、涙が出そう。
「みんな、どうして……」
あんないい場所で見るには何日も前から場所取りをしなければならないはずだ。孤児院のみんなにはそんな時間の余裕も体力もない。
「みんな元気そうだね」
「フィル」
フィルが驚いている私を見てくすくすと笑う。まさか、フィルが何か手を回してくれたの?
「難しいことじゃないよ、ちょっと人を雇っただけ。ナディアのそんな顔が見られるなんて、やった甲斐があったな」
イタズラが成功した子供みたいに笑うフィルに、たまらない気持ちになった。嬉しい。私のためにって考えて、動いてくれるフィルの気持ちが。
「フィル、ありがとう。すごく嬉しい」
フィルが一緒にいてくれるなら、何だって頑張れる気がするよ。さっきみたいな人たちにだって、負けないもん。
フィルの手をぎゅっと握ると、フィルは少しだけ驚いたような顔をしたあと、ふわりと笑った。
しばらくの間下に向かって手を振っていると、合図を受けたアレクサンダー様が手のひら大の拡声の魔術具を腕輪から取り出した。私たちが手を振るのを止めると、騒がしかった歓声が徐々に小さくなっていく。
「みんな、今日は忙しい中、集まってくれてありがとう」
小さく一瞬歓声が上がり、また静かになる。
「今まで病気がちだった私がこうして快癒し王太子としてこの場に立つことができたのは、ひとえに周囲のみんなのおかげだ。今まで私を支え励ましてくれた全ての人たちに謝辞を述べたい。本当にありがとう。そして何よりも、ずっとそばで私と共に病に立ち向かい、ついにはそれを取り払ってくれた愛する我が婚約者に、最大の敬意と感謝を捧げる」
アレクサンダー様がアデライド様の手を取り唇を落とすと、わあっと一際大きな歓声と割れんばかりの拍手が沸き起こった。
アデライド様の目が潤み、赤く染まった頬が幸せそうに緩む。
「愛する方と共にあるため、愛するこの国と国民の皆様のため、王太子妃としてふさわしくあるよう、これからも励んで参ります。どうぞよろしくお願い致します」
大きな拍手が鳴り響く。フィルと私も一歩引いて拍手をした。私たちの御披露目はついでだからね。王太子夫妻より目立つわけにはいかないのだ。まだ夫妻じゃないけど。
だから、これからやることもこっそりやらないとね!
「この国を支える王太子としての今後の働きを以て、みんなへの恩返しをしたいと思う。どうか見守っていて欲しい」
アレクサンダー様の締めの言葉によってより一層民衆の歓声は高まり、そろそろかな、と私がこっそり魔法を使おうと口を開いた。
けれど、この歓声の中聞こえるはずのなかった私の声は、広場中に響き渡った。
《大きな虹を作って》
私の声がすごく大きく聞こえて驚いて横を見ると、アデライド様がにっこり微笑みながら私の前に拡声の魔術具を差し出していた。
えええええええ!
「え?」
「何?」
「え、呪文?」
「なんだ?」
ざわざわと民衆たちの戸惑う声が聞こえる。
「えっ、どっ、どうして?」
そして私の動揺などお構い無しに先ほどの“お願い”は叶えられ、広い空の端から端までを繋ぐ、大きな虹がキラキラと姿を現した。
まるで何かが爆発したような大音量が辺りを埋めつくした。「うおお!」とか「すげぇ!」とか「信じられない!」とか。
みんな上を向いていたので、見つけるのも早い。
あああああ! 二人にとってのいい箔付けになればって私が提案して、こっそりと魔法を使うってみんなで決めたはずなのに、これじゃ私がやったの丸わかりだよ!
「魔法使い様だ!」
「初代女王アイリス様の生まれ変わりだ!」
「素敵な魔法をありがとうー!」
「彼女が第二王子と婚約とは、めでたい!」
ほらあああ! 私めちゃくちゃ目立ってる!
アデライド様、どうして!?
「うふふ、ご覧になって、ナディア様。先ほどナディア様に陰口を言ってらした方たち、とても驚いて開いた口が塞がらないようですよ」
ころころと上品に笑うアデライド様が指し示す方向には、かくりと大きな口を開けっ放しにして虹を凝視している先ほどの令嬢三人がいた。こちらはとても上品なお顔とは言えない。
というかアデライド様、さっきの見てたんですか? だから私が魔法使いだって証明しようとしてこんなことを?
「すまないねナディア嬢、勝手に計画を変更してしまって。でも私たちは元々こうした方がいいと思っていたんだよ。君の功績はもっと評価されるべきだ。ただでさえ、私の病の件では君を正当に評価できていないのだから」
「ア、アレクサンダー様……」
お、お二人とも上品に微笑んでいるけれど、少しだけ怒りのオーラが漏れている。お二人も笑顔で怒る技術をお持ちだったのか……。
わあわあと聞こえてくる声に耳を傾ける。
みんなとても喜んでいて、私の力を誉めてくれている。
……魔法の力で、こんなに人を喜ばせることができるんだな。両親の元にいた頃は、思いもしなかった。
孤児院のみんなの方を見ると、子供たちは感動したように目を輝かせて興奮している。でも、院長先生は嬉しそうに、穏やかな表情で虹ではなく私を見つめている。
……あれっ、もしかして、院長先生……?
「ナディア」
フィルがまた優しい目で私を愛しそうに見つめて、私の肩を抱いて抱き寄せた。
「!」
「「きゃあー!」」
下から悲鳴のような歓声が上がった。
こんなに大勢の前でくっついていることが恥ずかしくて、また頬が熱くなってくる。
「おや。私たちも負けてられないね、アディ」
「ふふ、そうですね、アレク様」
アレクサンダー様もアデライド様の肩を抱き、アデライド様は素直に寄り添う。
うう、私もあんな風に慣れる時が来るのだろうか。
「「おめでとうございます!」」
「「お幸せにー!」」
そんな声が次々と聞こえてきて、なんだか結婚式みたいだな、と思ってしまった。
「結婚式みたいだね」
ぱっと見上げると、フィルは楽しそうに笑っている。
……フィルも同じこと思ってたんだ。
嬉しくて少し恥ずかしくて、誤魔化すみたいにフィルにえへへと微笑むと、なぜかフィルは「ぐっ」と唸って片手で口元を押さえ、ふいっと顔を逸らしてしまった。
……どうしたの?
アレクサンダー様が再び視線を民衆へ向けたのを合図に、気を取り直して四人でまた下へ向かって手を振る。
みんなが祝福してくれている。
空には綺麗な虹が架かっている。
フィルと、大切な人たちとずっと一緒に、これからもこの大好きな景色を見ていけたらいいな。
最後までご覧くださり、ありがとうございました!
初めて投稿した作品を無事完結させることができたのは、読んでくださっていた皆様のおかげです。
最後に図々しいお願いを……(笑)
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