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公表

二日後、フィルから手紙が来た。

お城の使いの人が持ってきてくれたのだ。


少しドキドキしながら封を開け、「ナディアへ」と書かれたフィルの綺麗な字を見るだけで、嬉しくなって頬が緩む。


手紙の冒頭には『話が決まったから知らせておくね』とあった。偉い人たちと話し合いをして、メノウや私のこと、アレクサンダー様の病気がどのようにして治ったかを国民に発表する内容が決まったらしい。


「ん?」


続きには、『まだやることがたくさんあって、そっちに行くのはもう少し先になりそう。早く会いたいな。ナディアに会えないと寂しいよ』と書かれていた。


「……」


ぶわっと顔に熱が集まってきて、思わず手紙で顔を隠す。


フィルは前にもこういうことを言っていたけれど、からかっているわけじゃなく本気で言っているのだとわかると余計に恥ずかしい。


赤くなった顔を手紙で隠しはしたけれど、そんな私の様子はバッチリ見られていたようで、そばにいるメイベルにまた微笑ましい笑顔を向けられてしまった。


……気を取り直して。


手紙によると、メノウは無事私の従魔としてそばにいることを許されることになったらしい。


よかった!


……あ、でも、庭園で話していたものとは国民に公表する内容が少し変わったみたい。


アレクサンダー様の病を治すためとはいえ、闇の大魔術師に頼ったというのはやっぱり周囲の貴族たちに色々言われたり、国民に不安を与える原因になる懸念があるということで、『知己であった初代女王の生まれ変わりである私に会いに来たメノウに、こちらから取引を提案した』ということになったらしい。


アレクサンダー様を完治させる治癒魔術の補助をすること、私の従魔となること、全ての呪いの魔術具の提出を条件に恩赦を与えるとされ、それにメノウが従ったということになったようだ。


過程は違うけれど、結果は同じだから全く嘘というわけでもないよね。


できれば王族の誰かの従魔になるのが望ましいという発言も出たけれど、それはメノウが絶対に拒否するだろうとフィルが却下したらしい。


……それはそうだろうなぁ。


私がフィルの婚約者になったことで、いずれは王族になるのだから私でも体裁は整うはずだ、と周囲を納得させたとのことだった。


……そうか、私、フィルと婚約したということは、いずれは王族になっちゃうんだね。

まさか自分が王子と婚約することになるなんて考えたこともなかったよ……。


フィルは私の了承さえ得られればすぐに婚約を調えられるようすでに周囲には根回し済みだったようで、私たちはすでに正式に婚約者ということになったらしい。

明日、アレクサンダー様やメノウのことと一緒に世間に公表する、と書いてある。


……フィルの用意周到さがちょっと怖い。私が断ってたらどうするつもりだったのだろうか。

きっとあの時私が自分の気持ちに気づけなくて断っていたとしても、結局フィルは私を逃がすつもりはなかったのかなと思ってしまう。


でも、それほど私のことを想ってくれているんだなと思うと嬉しくなるし、そんなフィルも好きかもしれない、なんて考えてまた一人で顔を赤くしてしまった。


ますます貴族教育が大変になるだろうけど、フィルにふさわしい令嬢になりたいから、頑張らないとね!



翌日、手紙にあった通り、メノウの件はアレクサンダー様の病の完治と立太子、アデライド様との婚約、そして私とフィルの婚約という四つの大きなニュースと共に広く国民に伝えられた。アレクサンダー様の立太子式や婚約式を執り行うことも。

盛大なお祭りになりそうだね。


一部ではメノウに対して否定的な意見もあったようだけれど、病弱な第一王子を完治させ、私という枷もできたということで、大多数の国民には闇の大魔術師は脅威ではなくなったと好意的に受け止められているようだ、と聞かされて、私は少し安心した。


それどころか、ある驚くべき事実を知って私は嬉しくなった。早くメノウに教えてあげたい。


あと、メノウのことよりもアレクサンダー様のニュースに関心がいっているのも良かったみたい。

喜ばしいお知らせと合わせて発表することでメノウの悪い印象が薄れたんだろうな。


しばらくは騒がれるだろうから私は屋敷を出ない方がいいと言われたので外へは行けなかったけれど、窓から街を見下ろすと、誰も彼もが嬉しそうに笑いながらこの大ニュースについて語り合っているようだった。


「アレクサンダー様、万歳!」とか「二人の王子の婚約だ、めでたい!」という声が聞こえてきて、私はとても嬉しくなった。私とフィルの婚約も、世間に受け入れてもらえているみたいだ。


孤児院にも先に手紙を出して知らせてはいるけれど、みんなびっくりしているだろうなぁ。


因みにこのニュースが知らされたのは、あの日から三日後のことなんだよね。

メノウが最後に言った言葉を意識していたのかはわからないけれど、フィルは本当に素早く話を通して動いてくれたみたい。


私はフィルがメノウの為に頑張ってくれたのだと考えると、思わず笑顔になってしまうのだった。



「ナディア、会いに来たぞ!」


その夜、さっそくメノウが私の部屋へやってきた。そんな予感がしていたので、今日はまだメイベルとアリーというメイドに一緒にいてもらっていた。


メイベルたちはメノウを確認すると、お茶を入れるため用意していたワゴンの方へスッと下がった。メイベルは一度メノウが目の前で消えるのを庭園で見ているし、二人にはメノウが現れるかも、と言っておいたので特に驚いた様子はない。


「メノウ、いらっしゃい! 来るかなって思ってた。ニュース聞いたんだね」

「うむ。私が言った期限ギリギリではあったが、まあまあの仕事ぶりだったのではないか」


メノウの尊大な言い種にふふっと笑いをこぼしながら椅子を勧めると、メノウはどかっとそこに座った。


「発表した内容はこの前言っていたことと少し変わっているようだったが、まあ世論操作の為には仕方ないと言える範囲であろうな。特に問題はない。これでいつでもナディアに会いに来られるのだから」


メノウは満足そうな様子で私の頭を撫でた。


「私も嬉しいよ! メノウって実は人気者だったんだってわかったし」

「……どういう意味だ?」


私の言葉に、メノウが怪訝な顔をした。

私はふふっと笑いながら、メノウに今日知ったある事実を教えてあげる。


「メイドたちに言われたの、闇の大魔術師を従魔にするなんて羨ましいって。メノウって一部の人にはすごく人気があるみたいだよ。人間では考えられない魔術の技術を持っていて、えーと、何だったかな。そう、ミステリアスで格好いいって! 悪い男ってところがまたいいんだって」

「……なんだそれは」


情報に敏いメノウでもそれは知らなかったらしい。とても嫌そうな顔をしている。

私はそれを見て、首を傾げた。


「嬉しくないの?」

「知りもしない有象無象に持たれる感情などどうでもいい。なぜそんな思考になるのか理解不能なだけだ」

「えー。でもそんなメノウの隠れファンたちがこれからは堂々とできるから嬉しいって言ってたよ」

「くだらん、顔を知りもしないのによくそのようなことが言えるものだ」


……顔を知ったら余計にファンが増えそうだと思うけどな。


メノウが私の他にも友達を作るにはまだもう少し時間がかかるのかもしれない。


「そういえば聞きたかったんだけど、一応メノウは私の従魔ってことなんだよね? メノウは私の様子や場所がわかるのに、私はメノウの様子もいる場所もわからないんだけど、どうして?」

「付き従う者が主の様子や場所を知らなければ、主に危険が迫っても助けることなどできないではないか。主は従魔の状態など知る必要はない。ただ呼べばいいのだから」


当たり前のようにメノウが言う。

確かにそうかもしれないけれど、メノウは一般的な従魔と違って動物じゃないのに、メノウは私のことがわかって私はわからないなんて何かずるい。


それに、呼ぶってどういうこと?


「私、どうやってメノウを呼べばいいの?」

「その意志を持って私を呼べばいい。契約で繋がっているから、私にはそれがわかる」

「そうなの? じゃあメノウに会いたくなったら呼べばいいんだね」

「いつでも呼べ」


にっとメノウが笑うので、私も「うん、ありがとう」と言って笑った。


メノウと隠さず友達でいられることになって、本当に嬉しい。


「お待たせ致しました。お茶をどうぞ」


メイベルが私に、アリーがメノウにそれぞれお茶を出してくれた。


「ありがとう、メイベル」

「……」


メノウは無言でお茶に手を伸ばした。

お茶を出してくれたアリーの方を見もしなかったけれど、「うまいな」と言って少し口角を上げたメノウを見て、アリーは真っ赤になっていた。


……この屋敷にも、メノウのファンが増えていきそうだね。


読んでくださりありがとうございます。

次回からメノウの過去話になります。

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