第八十四話 それぞれの
辺りを暗く包み込む黒い靄の《ダークスキャナー》
とても、それは精神すらも危うくする冷たさと、恐怖だった。
それが今、光の鱗粉と化していた。
「ああ。キレイじゃねェか。なァ、平子ちゃん」
「はい。美しいですわね。アナタ」
「……--まだ。俺ァ、お前の旦那で在るのかねェ? なァ、奥さん?」
「はい。アナタは私のたった一人の旦那様ですよ。どんなに愚かであろうと」
坦々と答える平子の機械染みた口調に。
「それに変わりはありませんわ」
「っふ、ぶはッ! っく、くくく……」
昔から変わっていないんだな、と保が噴き出した。
それに、平子が。
「? どうかしましたか? こんなときに咳込むなんて」
「いいやァ~~俺ァ、いい嫁をもったなァ~~ってな♥」
「まぁ。はい、そうですよ。感謝して下さい」
「っふ、はははは! 感謝してまっすよォ~~?? 可愛い俺の奥さん!」
そう笑うと、保は平子の腰に腕を回し。
身体の正面に抱き寄せた。
「でも。俺ァ、ごめんな。出口が好きなんだよ」
「ええ。はい、奪い返すまでです。あの泥棒猫を殺しても。アナタの心を、私に」
「本当に、俺なんかには勿体 無ェ~~女だわwwww お前って奴ァ」
「ええ。はい、アナタも私にとって至極、いい旦那様ですわよ」
何年ぶりかの言い合いに。
保と平子がーー夫婦で向かい合う。
たとえ、それが。
宿命だとしても。
夫婦最後の共同作業になろうとも。
「『我! 《鍵の番人》‼ あらゆる秩序を、森羅万象をも扱う者ッッ‼』」
そう保が切り出した。
ウインクする保に応えるかのように、平子も。
「『私は《門の番人》であり、鍵の番人と寄り添う者》」
ゲームセンターの制服だったものが、赤いドレスに姿を変えた。
そのなんとも言い難い。
目の前で起こる光景から。
出口も、愛も、目を細めて見ていた。
ただ。
他の人間たちは違った。
「や、止めろよ……止せってば! マサルに、マサルに! 触るなァああッッ‼」
勢いよくミウが飛びかかった。
それを。
「止しなさい! ミウッッ‼」
予想外の人物が止めた。
「!? 誰だ‼ お前はァああッッ‼」
「私は……雪見烈」
「!?」
そう言う烈から、勢いよくミウが身体を後ろに引いた。
顔面蒼白といった表情で。
「ゆ、キミ……れ、ツ??」
「ああ。そうだよ」
「母様の……言ってた……ユキミレツ、なのか?」
「ああ。そうだよ」
「僕の……--」
顔を横に振りながら、一歩、また一歩と。
後ろに下がっていくミウ。
「まァ。感動の再会といきたかったけどーミレーヌ……亡くなったよねーきっと」
腕を組み、俯き加減にそう烈が漏らした。
そして。
目元を、拭った。
「最後にーもう一回だけでもー会いたかったなぁ-~~」
「ちがう、そんなっっ! それじゃあ、僕は……僕はッッ?!」
「ああ。そうだよー」
「マサルとはーー??」
「いや。そっちじゃないでしょうー兄妹になるのはーユズルの方だよー」
「あ。っそ、そうなんだ!? よ、よかったぁ~~」
「まぁ。そうなるよねー~~♪」
バサバサーー……。
強風に「ひゃー~~!」とガーナが泣き声を漏らす。
そんなガーナを愛が抱き締めた。
「! メ、ゴォー~~♥ 好きぃ~~♥」
「ごめんな。俺たちのイザゴザに巻き込んじまって。許してくれな」
「うん。それは、お互いさまだし♥」
「ありがとね」
バサバサーー……。
「もう。終わりなのか」
バサバサーー……。
出口が煙草を咥えた。
そして、火を点けたものの。
あっという間に消えてしまう。
「さよなら。マサルーー」




