第八十二話 待ちに待った待ち人
「はァ? 見殺しだって?」
アデルの見殺しにするのかと言う叫びに。
出口がイラついたような口調で聞き返した。
「なんか。悪人にされてんのなwwww」
愛が苦笑しながら、出口の肩を手で叩いた。
バシバシ! と意外と強く。
「なんか頭くんなァ? なァ? 出口ー~~??」
愛も、少しアデルの言い方に癪が触れたようだった。
「ああ、でも。今、こいつらを相手にする余裕……姉さんあんの?」
強張っていた表情が、ほんの僅かだったが。
ほぐれた様子の出口に。
「っは! 誰に言ってんの? え? アタシにか??」
「そうそう、あんただよ。姉さん」
「そりゃあ……ーーはっきり言やァ無理ってもんだ」
「っぷ。正直だなァ~~姉さん」
「分かってて訊くなんざ、性格悪いってもんだよ。愚弟さん」
愛も、唇を突き出しながら、吐き捨てた。
ただ、表情は明るい。
「何を言っているの!? 貴方たちは‼」
アデルが叫びながら。
二人に向かい呪術をかけようと唱えるのだが。
舌が、言葉が。
「っく!」
上手く動かすことも、発することが出来ない。
それを愛は見逃すことはせず。
「戦場は常に平静さを! 体力の温存を! あとは!」
手を叩き。
魔法陣を二重に開き。
アデルへと向けた。
「自身が正しいと思ったことを実行出来る、鋼の心臓を!」
真っ直ぐに愛はアデルを射抜くように見た。
口元は笑っているようだった。
それが。
アデルには不愉快この上ないもので。
「っふ、っざけんなァああッッ‼」
アデルの声とは思えない声が、《遺跡》に響き渡った。
ビリビリ! と空気も震えた。
「んー~~♥ いい声♥」
アデルの顔の真ん前に魔法陣が突っ込んで来たのを見て。
「ここまでかッッ‼」
ゆっくりと目を閉じた。
「アデルーーッッ‼」
ガーナが悲痛にも、そう叫んだ。
アデルが居た場所には、丸い玉が転がっていた。
ひょい、と。
愛が拾い上げると。
「ほらよ! 明日には開放されるから安心しなよ」
「っわ、わわ゛わっっ! っと、ととと!」
愛がガーナに拾い投げた。
あまりの行為に、狼狽えながらガーナも。
上手くキャッチすることが出来たーーのだが。
「メゴ! デグチも! 一体、何をしようと言うんだ??」
「別にさ。見殺しにしようなんざ思ってないのに。アデルには悪いことしたなとは思うよ」
「いやいや。あれはアデルの言い方もアレだったじゃねェかよ」
手を振る出口に、
「大人気ない行為だ」
愛が、顔を横に振った。
「気色 悪ィなァ」
「なんとでもwwww」
バサーー……。
愛は長い髪を掻き上げた。
「早く。終わらせるためにも、仕方がないじゃないか」
目を細め、宙を見ていると。
ブロロローー……。
「「!?」」
どこからエンジン音が聞こえた。
それに反応出来るのは。
異世界から来た入江姉弟だけでもある。
カチカチ。
カチカチカチーー……。
そして。
ウィンカーの鳴る音に。
勢いよく振り返った。
「--《御霊特急》‼」
「来たか!」
愛と、出口が顔をほころばせた。
待ちに待った人間がやって来たのだ。
この緊急事態を、終いに出来る人間を乗せて。
バシュ!
「私の息子は?! 入江弟君‼」
顔を紅潮させてた烈が、小脇に紫陽花を抱きかかえながら。
その姿を現した。
「はァ……ここの全体の黒い靄、視えてません?」
髪を掻きながら烈に説明する出口。
「!? っそ、そんなッッ‼ もう、人間の姿じゃーー」
「とっくに人間止めちゃったぞ。あの馬鹿」
愛が、短くそう告げた。
「‼ ふざけるなッッ! ふざけんなッッ‼」
烈が腕を伸ばし、愛の身体を御霊特急に押し付けた。
「っだ! ぃたた。急に何すんのさ、お父さんってばwwww」
「番人が二人も居て、この様はなんなんだよ‼」
首に手をやり、強く締めていく。
「っぐ! ……乱暴だねェ。短気になったか?」
「煩い!」
「っふ。怖ァwwww」
「煩い! 煩い! 煩い! 煩いッッ‼」
半ば混乱しているような烈に、
「止めてくんない? 一応、俺の半身なんで」
出口は、烈の背中。
心臓の位置に矢を置き。
「さ。姉さんを開放してくれやwwww」
「分かった」
「ったく! 絆ってのは厄介だな! 全く‼」
愛は、
ばっしーーん‼
烈の頬を拳で殴りつけた。
そして、押し退け距離をとった。
「ご乱心も結構だよ」
愛はそう吐き捨てながら。
小脇に抱かれた状態の紫陽花を見た。
「とっととはーちゃんを起こして。お終いにしょうぜ」




