第七十四話 ポンコツの使い魔だから
ヴォン!
「この《遺跡》だろ?」
ミウの魔法陣で、ようやく。
《喰空腹の迷宮》に、
「戻って、来た……やっと」
マサルが声を震えさせた。
「キスとか、キスとか、なんか色々されて……やっと。戻って来たんだ」
「色々って何? 他に、なんかされちゃったの??」
「お前の偉大な親父に召喚されたことだろう」
「ああ。忘れてた」
「忘れちゃ駄目でしょう。ご令嬢」
「うっさいなぁ! ご令嬢~~??」
「「このッッ‼」」
睨み合うマーニーと、ミウの二人。
「いい加減に! しろよ‼」
ついに。
マサルも声を上げた。
「中に居る連中が、助けを待ってんだぞ!」
「……でも。かなり、時間経ってんじゃないのぉ?」
「!?」
「生きているかなぁ~~?」
意地悪い口調で、ミウがマサルを煽る。
そんな彼女を、マーニーが睨んだ。
(何か、企んでない? この女)
「でも~~生死が分かる方法があるんだよねぇ~~」
マーニーの口が、大きく開かれた。
「!? マジで?? ミウ?!」
「うん! 僕がマサルに嘘を言うわけないじゃないかぁ」
「--おい。なんか、企んでんじゃないだろうな? ポンコツのくせに!」
ミウの唇が突き出ていく。
「知りたくないならさ~~このまま行ってもいいんだけどね~~」
頭に腕をやり、くるんと回った。
「焦らさないで、教えろよ! ポンコツ!」
「いいよ? じゃ、ね?」
「へ?」
ミウがマサルの肩に手を置いた。
顔が近い。
「! おい、ミウ!」
マーニーが、ミウからマサルを取り上げた。
マサルは、カタカタと震えていた。
「っこ、怖いぃ~~! まじ、あいつ、なんなの??」
「発情期なんだろう。面倒な女だな」
「発情期があるのは正常なの! 僕はマサルが大好きなんだから!」
ぞわ。
ぞわわわ!
「ないのは異常だよ?? あ~~あ、可哀想なマーニー~~♥」
「!? この! 言わしておけばッッ!」
険しい表情で杖を身構えるマーニーに、
「っちょ! 待てってば! マーニー! マーニー!」
「止めないで! あの女、ぶっ殺す!」
(なんだって。令嬢たちは、こんなに口が悪いんだよwwww)
「落ち着けってば! 俺はマーニーの方が、ミウなんかよか好きだから!」
「! ……マサル、え?」
「ポンコツよかな」
「……--マサルぅ?? 聞こえてますけどォ~~??」
低いミウの声。
「僕なんかよりも、その女がいいてのかい?」
「ああ。おしとやかだしな!」
「! っぐ!」
ミウ自身、おとしやかではないことは自覚している。
その分。
何も、言い返すことが出来ず、ぐぅの音も出せない。
「おしとやかだけじゃ、出来ないことだってあるんだよ! マサル!」
「何がだよ!」
ミウがマサルの腕を掴み、勢いよく引っ張った。
「っと! おいミーー……んぅ!」
そして。
そのまま口づけをした。
滑ったものが口の中に入る。
「む゛ぅうう゛!」
マーニーの髪の毛が逆立った。
慌てて、
「この! マサルから! 離れろ‼」
引き離した。
「マサル? 大丈夫??」
「舌、ベロ……」
ぺたんと、口を押えた。
「最低……」
「ふふん♥ 使い魔なんだから、これぐらい主様に差し出せなきゃ♥」
杖を宙に差し、ミウは目を動かしていた。
その間。
「ぅうう」
「マサル。僕も、キスしてもいいか、な?」
「! ……お前もかよッ」
「お前を、あの女からーー守りたいんだ。お互いの魂を結びつけることによって。あの女との契約を、弱くすることが出来るんだ!」
「魂って。それって、なんか……違和感しかないんだけど」
「僕なんかじゃ、嫌?」
「嫌ってか」
マサルがミウを見た。
彼女も、どこか必死な様子で、調べていた。
恐らくは、ガーナたちをだ。
「悪ィけどさ。俺ーー」
マサルはマーニーを抱き寄せ、
「あのポンコツの、使い魔だからさ」
耳元で囁いた。
「……マサル。お前」
マーニーの目には、顔を真っ赤に染めるマサルの顔があった。




