第七十三話 愛が愛した世界の断片
「それにしても」
出口が息を、小さく漏らした。
「ああ! 遅ェんじゃねェのかァ~~」
愛も同様に。
「やっぱり、あの野郎を送り出すんじゃなくて。出口、お前が行きゃあよっかたんじゃねェのかァ??」
少しばかし。
ご立腹な様子で、
「そうすりゃあ! よかったんだよ!」
吐き捨てた。
「姉さん。いまさら、その話しはなしだろう?」
「いまさらも、何も」
入江姉弟の言い合いに。
「煩いわ。あべこべ!」
アデルがキツイ口調で制止する。
「おれの旦那は、必ずーー戻ってくるわ」
少しほくそくむアデル。
はい!
「何? ガーナ」
挙手したガーナに、アデルが声をかけた。
ガーナの表情は酷く揺れている。
それは。
アデルが撒いたーー《光苔》により照らされた。
その苔の成長は著しく。
ここーー《喰空腹の迷路》内部。
四人は敵に囲まれている状況だ。
その中。
入江姉弟が騒ぎ喚いているわけ。
「あのさ? あのね?? なんで、あの人たち言い合ってんだ?」
「さぁ」
「ここから。逃げないといけないじゃない?」
「ええ。そうね」
「! でしょう?!」
ガーナは目を輝かせた。
「おい。ガーナちゃん、こっから出るのはよさないと」
出口の顔を手で押しのけて、愛がガーナに言う。
少し、はにかみながら。
「生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ」
「……♥ メゴぉ♥」
「ね?」
愛は顔を傾げながら、ガーナを見下ろした。
手はガーナの肩にやりながら。
「だから。あのオタンコナスを。ここで、待たないと」
愛の額に、汗が滲んでいた。
ここで悠長に話せるのは。
愛の魔法陣のおかげだった。
非戦闘員の愛。
体力はーーない。
気力も、持ち合わせていない。
(だるい。面倒くさい)
胸中。
恨みつらみだけが、木霊していた。
『愛!』
瞑った瞼の裏に浮かぶ。
彼の笑顔を思い出した。
たったそれだけで。
胸が熱く、恋い焦がれる。
「アタシは! こんな! 分かんない場所でェ!」
さらに力を、解放していく。
「死ねないんだァ!」
「おい。燃料パンクするぞ。姉さん」
さすがに出口が声をかけた。
「うっさい! 愚弟が!」
「まったく。聞き分けの姉だね」
「そう言うお前も! どっこいどっこいなんじゃねェのォ?!」
ガーナと、アデルの罠は解いていた。
それから。
壁の隙間に、四人は籠城している状態だ。
しかし、あくまでも。
そこは壁であって。
身を隠せる場所ではない。
目の前には。
強靭でいて、筋肉美しい巨人たちが、集まっている。
「おい! ガーナ!」
「♥ はい♥」
愛がガーナに声をかけた。
それに、ガーナも上擦った声を漏らす。
「宝の在り処ってのはどこだ‼」




