第六十三話 連れ去り事案発生
「あああ、ぁ、っと??」
マーニーが慌てたような声を吐き出した。
「煩いぞ、マーニー。静かにしないかい」
冷淡にメイレーが短くいう。
彼女は崖の上を、見上げていた。
(さてさて。どの魔術で上がろうかな?)
腕を組み、口元をつり上げて、どこか楽しそうに嗤い。
尖ったヒールで木を強く、小刻みに踏みしめる。
「おおお、お姉さまぁ~~??」
「煩いよ。マーニー」
「マママ、マサル、が」
マサルという言葉に、
「マサルが、どうしたって?」
メイレーが反応した。
身体を翻し、マサルを見た。
手を握っているマーニーが、続けた。
「あの、あのですよ?? 手が黒い、なんでしょう? 靄というのでしょうか??」
靄という表現の通り、マサルの手が靄になっていっていた。
「ああ。靄、だな」
その光景を目に、忌々しいというような強い口調で。
マーニーに、メイレーが言い返した。
「? お姉さま。こちらをどこかでご覧になられたことが、おありなんですか?」
首を傾げながら。
薄れていくマサルの手先をマーニーは見入っていた。
(段々。手の重さも、形も……なくなってきた)
同時に。
ふと、思ってしまった。
この人は、人間だろうか? と。
「見たよ。いや、聞いたよってのか正しいのかな?」
「? どういうことですか?」
「手前が赤ん坊のときの話しさ。ある日、歴史学者で探検家って男女二人がやって来た。んで、その片割れの女がーー」
セリフ滑らかにいうメイレーの表情が一変した。
マサルの身体が、見る見ると。
黒い靄に、シフトチェンジしていっていたからだ。
「あの女がいった通りだったのか!」
メイレーが険しい顔つきに変わった。
姉の変貌に、妹であるマーニーも怯えてしまう。
なにかにすがりたく、マサルの身体を強く掴んだ。
「さ~~てとォ~~?! どう、甚振ってやろォかなァ♡」
「おお、お姉さまぁ~~??」
メイレーを呼ぶマーニーの声に。
「冗談だよ。心配すんなよ、手前も!」
「はい~~」
「しっかし。厄介なもんなんだぜ? こいつの正体知ってしまったらさ」
ごきゅ! マーニーの喉が鳴った。
「た、倒さねばならないんですか? マサルを」
「最悪な。でも、この程度ならーーイケるっつゥ~~か! やんなきゃ、私の名が廃るってもんじゃないかァ?!」
大きく吠えたメイレーに。
「お姉さま。楽しそうですね……」
マーニーが引きつった 笑顔を向けた。
「愉しいぜェ~~♡ 快っっ感♡」
優悦とした表情に、
「では。ちゃっちゃっと、やっちゃって下さいませんか?」
マーニーが、そうぼやいた。
だが。
とき同時に。
「?! 誰だァ?? 横取りしょうっての?? はぁ!?」
マーニーとマサルの背中に魔法陣が浮かんだ。
それにメイレーが牙をむく。
「え?」
あっという間のことだった。
「っふ、っざ、けんじゃねェーー~~ッッ‼」
メイレーが杖を構える前に。
その魔方陣は。
マサル共々、マーニーを道ずれにするかのように消滅した。
残されたメイレーは。
押し殺した声で、叫んでいた。
「----ッッ‼」




