第六十一話 まさかの姉妹
まったく思い出せないまま。
時間だけが過ぎていく。
「あ、っと……、だからなんだって、俺はこんな目にあってんだよ」
木によっかかりながら。
マサルは頭を抱え込んだ。
「確かに、俺はあいつらと……一緒に《遺跡》に来たんだ」
◆
「さ~~お宝探すぞ~~♥ んンん~~♥」
大きく背伸びをするガーナ。
「ここが《喰空腹の迷宮》」
「巨大なのは分かるよ? でも、本当にお宝があるのかね」
入江姉弟が、そう怪訝そうに漏らした。
「何だよ! 何だよ! あんたらはあたしの情報を疑ってんの?!」
ガーナが両腕を、大きく振った。
「「うん。まぁ」」
同調する言葉に。
「ぅ、わ~~ん‼」
◆
「泣いた、泣いた。それは覚えてんだよ!」
「そこまで。覚えてればいいじゃないのか? マサルゥ??」
「!?」
ギシ!
木が軋む音にぎょっとしてマサルが見上げた。
「何だよ。私を呼んだのは手前じゃねェかよ」
そこには。
「……メイレー……」
メイレー=ボンタコタレス嬢が立っていた。
「っぷ! 面白れー顔~~」
「‼ 何だよ! 俺は呼んでなんかいないぞ‼」
「そうか? なら、私は帰るぞ。じゃあな」
「あ! っちょ、おい!」
「お姉様。虐めないで差し上げて」
「ふん!」
「……お前は、確か。風呂で会ったよな? 猫探しのときに」
「ふぎゃ! ぃ、やぁ゛~~アア‼」
顔を覆うも、耳まで真っ赤のマーニー=ボンタコタレス嬢。
「おい。ここで暴れるんじゃない」
涙目のマーニーの頭を、メイレーが優しく撫ぜた。
「なぁ。マーニー、手前の直感を聞かせろよ」
「はい」
「っちょ! だから、俺の話しも聞けよ!」
「「静かに」」
「っぐ!」
女性二人に睨まれたマサルは、唇を噛み締めた。
諦めて谷を見上げる他ない。
「出口サン……」
小さく息を漏らすマサル。
そして。
うとうと、と眠ってしまう。
◆
「逃げろ! ここはーー囮だ!」
ガーナが大声で叫んだ。
その背後から巨大な影が飛び上がって来た。
一体、二体ーー三体以上に。
数えられない多さに。
全員が戦闘態勢に入った。
ガーナは杖を。
アデルは符を。
出口は弓を。
愛は腕を組んでいた。
「アタシは非戦闘員だしっ‼」
偉そうにそう叫んでいた。
「「「戦えよ‼‼」」」
「えー~~爪折れちゃうじゃないか~~」
「「「知るかッッ‼‼」」」
「はぁ~~い」
渋々と愛が足で地面を踏みつけた。
ヴォン! 魔法陣が浮き出した。
「非戦闘員なんだから、食い止めろよな」
引きつった笑顔を向けた。
当のマサルは狼狽えるだけしか出来なかった。
わたわたーーと。
魔法は使えない。
剣も未経験。
異世界での生活で使わずに。
今まで暮らしていた。
出口との特訓も、素手で行っていたしでだ。
「俺はどうしたらいいんだよ!」
◆
「うなされてますわ。お姉さま、彼が」
「ああ。よくもこんな状況で寝られるもんだな。大物だな」
「彼は、そういう生き物なんでしょうね」
マーニーはマサルの寝顔を覗く。
(忌々しいのに……こんなに、惹かれる)
そして。
頬に触れようとした瞬間。
チリーー……ッッ!
「!? え??」
マサルの身体から、黒い靄が浮き出て、指もとの《蒼き英雄の咆哮》が鈍く光る。




