夢の学園生活
年が離れたキャリアウーマンで腐女子な姉に、入学金授業料その他諸々金出すから行ってこいと無理矢理叩き込まれた全寮制男子校。イケメン金持ちのお坊ちゃんが集うこの学校は所謂王道学園だそうで、そこで王道な生徒の王道なBL話を見て聞いて連絡してこいと命令された。
ホモが普通の学校とか嫌だ!
俺だって可愛い女の子と一緒に青春したい!
ていう主張は無視された。
てか何で弟がそんなとこ行くの推奨すんの!
襲われでもしたらどうしてくれる!
なんて叫びは『あんた顔平凡だから大丈夫』と叩き伏せられた。
と、いう事で俺は全く欠片も興味も無いし見たくもない他人の恋愛。……見目麗しい男同士の恋愛を見て報告する為に来た訳だけれど。何か……何かおかしい。
確かに姉の言っていたように生徒と教師の殆どは美形だ。極稀にいないでもないけれどそれ以外は顔で選ばれたのかと言いたくなる程の美形率。生徒会も、抱きたい抱かれたいというものでこそないらしいがランキングのようなもので決まるという話。んで親衛隊もよく分かんないけれど存在するという。そして男同士の恋愛。カップルなんかは未だ見た事無いけどそういった恋バナは教室でもよく耳にするし割とオープンだ。けど。
腐女子な姉の理想とする王道一直線であろうこの学園。そんなここでは美形が持て囃され、そうではない奴は隅で細々と生活する。平凡な人間は相手にもされなければ特別に疎まれる訳でもない。適度に空気な感じで学生生活を送る。そうして俺もそう過ごす。筈、なのに。
入学してから一向、何故か殆どの人から避けられまくって遠巻きに見られています。
「何でさ!俺何かしたっけ!?」
いいや、何もしてない!寧ろ目立たないよう地味に大人しく過ごしてたのに!!と、放課後、クラス内で唯一普通に接してくれる友人に泣きつく。うん、こいつも例に漏れずイケメンだ~……。ははははは。
嫌々とはいえそれなりに楽しく過ごすつもりで入ったというのに入学初っぱなからぼっち。そんな中々にショックな出来事でいっそ引き籠ろうかと考えていた時、声を掛けてくれたこいつはもう神に思えた。落ち込む俺を大丈夫だと励まして、その内何とかなると慰められて元気付いて何とか無遅刻無欠席継続中。いつかはどうにかなると願って。でもやっぱり周囲の態度は変わらず。いくらこいつがいるからって、流石にもうツラい。キツい。
机に伏して泣き言を漏らす俺の前に座った友人は、そんな俺の心境などどこ吹く風とばかりに暢気に話し掛けてきた。
「ん~。あのさ、お前ってさーあ?見た目も中身もふっつーだよな」
「そうだよ……っ」
悪いか!と憤慨して睨めば笑いながら宥められる。
「この学校さあ、やったら顔いいの多いと思わね?」
「あ?まぁそうだな、ってんなこた知ってるよ!」
嫌みか、凡庸な顔でしかない俺への嫌みか。
僻んで睨んで涙眼になる。机を叩いて口を尖らせ刺々しく返した。それでも友人は肘ついた手に顎を乗せのんびりと話を続ける。
「んで、ピンキリあれど金持ちのお坊ちゃんが多数を占めてる。と」
「……うん」
うん。だから何だ。やっぱ嫌みか。庶民な俺への嫌みか。そうか。ちくしょう!てかんな事話して何が言いたいんだお前!
「外じゃ美形も金持ちもすごいかもしんないけどぉ、ここじゃ普通。むしろ外では普通なお前の方がここじゃ珍しいわけ」
「え、なに。まさか珍獣的扱いなの俺」
「いやいや。あ~でもそっちの方がある意味マシだったかな?」
マシって何だちょっと。
思わぬ話にギョッとして問い詰めようとした丁度その時。ガラリと音を立て教室の扉が開かれた。
音に釣られて見た先には入学式で壇上に立っていた人達。姉曰く皆の人気者頂点な生徒会役員が勢揃いしていた。
……生徒会!?や、やっぱり美形だ……じゃなくて。何だ?誰かに用か?
見た目のきらびやかさに目を奪われたが直ぐに正気に戻る。ほぼぼっちな癖によく騒いだものだが一応教室には未だ何人か人がいて。その中の誰かに用なのかなー。変に目を付けられたりしないようしなきゃなー。ちょっとでも関わると親衛隊が制裁っつってイジメてくるんだろ俺知ってるー。ヤダー可哀想だけど捕まる人超ドンマイ。なんて脳内で呟き息を潜める。前の友人が小声でアチャー、と漏らしたのを聞きながら呼吸すら止めて存在を消そうとしていると、よく通る声が教室に響いた。
「おい、そこの平凡!」
思わず振り返ってみると、生徒会の、確か会長だった男がこちらを見ていた。なんか偉そうだ。いや偉いのか。
……って声掛けられたの俺!?
いや、今この場で平凡なのは確かに俺しかいないけど。何で俺が声掛けられてんの!?
「「つっかまえた~」」
「いっ……!?」
意味が分からないが無視するのも恐ろしく、いったい何のご用なのか、と口にしようとしたのだが。双子な会計たちに両腕を捕まれることで喉の奥に引っ込んだ。ちょ、力強いなおい。
「ここじゃなんですから生徒会室で話しましょうか」
副会長が笑顔でそう言う。何か背筋がうすら寒い。嫌です。貴方も怖いけどそれより親衛隊恐いです。制裁嫌です。行きたくないです。
声に出ない拒否をブンブン振る首に込めて足を踏ん張るが、引っ張る手の力の方が強い。
なになになに。
やだやだやだ。
こわいこわいこわいぃ!
「すみませ~ん、離してやってくれませんかぁ?」
恐怖で声が出ないまま涙目で抵抗していた俺の肩に手が掛かりぐいっと引っ張られる。また何か来たのかと一瞬身構えたがそいつはさっきまで話をしていた友人だった。
うぉー!持つべきものはやっぱり友達ー!ありがとう!助けてくれ!
期待を込めて見上げると、無理矢理離され不機嫌になった生徒会の面々と対峙した友人はへらりと笑った。
「早く帰んないと親衛隊きちゃいますよ~」
ちょ!親衛隊!?くんの!?ヤッバい!ただでさえ無視だなんてイジメっぽい扱い受けてんのにこんなとこ見られたらぽいなんて言葉ふっとぶわ!
「……来る前に、つれて、いく」
冷や汗をブワッと掻いた俺に、黙りっぱなしだった書記が手を伸ばしてきた。教室にいる他の人達も俺らの方を見ているのが分かる。周りの視線が痛い!気付いてお願い!
「失礼します。親衛隊の者です」
ひゃっほーう!タイミングちょーいいー!泣くぞゴラー!
音を立てずに静かに生徒会役員達がいるのと反対のドアを開いて入ってきたのは姉知識によると所謂チワワ系な生徒が五人。
「チッ、もう来たか……」
ギャー!書記から離されたのは助かったけど何かちっさいのに取り囲まれた!連れていかれるのか!?制裁?イジメ?やだマジ恐い!
入って直ぐ、四人がサッと俺の周りを囲み生徒会から遠ざけられる。そして五人の中で一番可愛い子が生徒会の前に立った。
「それではこの方はこちらで保護させていただきます。生徒会の方々はどうぞお仕事の方へお戻りください」
イヤー!連れてかれる!殺される……って、あれ?……保護?連行とかじゃなく?
ギャーギャーと文句を言い始めた生徒会相手に丁寧に対応している背中をポカンと見詰める。周りを囲んでいる子達は心配そうな顔で大丈夫かと話しかけ生徒会の人達が近付かないよう牽制している。俺に対して負の感情みたいなものは感じない。……あれ?
「え、え?何で?俺、庇われてる?」
「うん。だってそれお前の親衛隊だしぃ?」
「は?……何だって?」
「お前の親衛隊だから、それ」
近寄ってきた友人がシレッと何か言ったのが理解できずに聞き返す。空耳だろうと思ったがどうやらちゃんと聞こえた通りの事を言っていたらしい。周りを囲んでいる子達もうんうん頷いた。
うん。成る程。
親衛隊。俺の。
……いやいやいや?何で?それは美形人間につくものであって、俺のような凡人には縁も所縁も何もない筈だろ!?
「さっきの話の続きな?」
思わずホワッツ!?なんて叫んでしまった俺に友人が内緒話をするよう少し声を潜めて話し出す。何かすげぇ楽しそうだな、と思いながら耳を傾けると思った通り楽しそうな声が届いた。
「子どもん頃からずーっとここにいるヤツとか金持ちな生活しか知らないよーなヤツらは普通ってやつに憧れを持ってんだよ」
「……ほぉん?」
それはそれは、と庶民代表として全力で妬みの呪詛ぶつけたろうかとおもったが耐える。そして、だから何だと首を傾げた俺に、つまり、と勿体振って一旦言葉を切った友人はニヤリと笑った。
「その憧れな普通の生活を送ってきてて、更に普通さを絵に描いたようなお前は、ここのヤツらにゃ魅力的な存在ってわけ」
………はぁぁぁぁぁぁあ!?
何だそりゃ!あり得ねぇだろ!と教室を見渡せばいつもの通りそらされる目。けれど、よくよく見てみればその顔は赤く染まってい、て……?
えぇぇぇぇぇえ?
驚きまくっている間に話をつけたらしく気が付けば生徒会の人達はいなくなってた。彼らと対峙していた子がこちらを向き、周りの子達がその子の後ろへサッと移動する。今度は何だと戸惑う俺の前に立ったその子は、澄んだ目で俺を見上げてきた。
「はじめまして。僕が貴方の親衛隊隊長を務めさせていただいております」
「うぇ!?あ、は、はじめまし、てっ」
綺麗な姿勢でお辞儀をした彼に戸惑いながら頭を下げる。え、マジでこの親衛隊って俺のなの?どっちかって言うとこの子に付けられるもんなんじゃないの?
ギクシャクとした動きで顔を上げると、ゆっくり頭を起こしたその子は哀しげに目を細め口を開いた。
「参上するのが遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。できればここの生活に慣れられてからお会いしようと思っていたのですが……」
「い、いや、とんでもないでございますですっよ……っ!?」
「ぶっは……!おっまえ何その日本語」
うるせぇ!混乱マックス状態なんだよ俺は!
友人にからかわれる程オロオロする俺を笑ったりせず、隊長は穏やかに苦笑する。余計恥ずかしさで逃げたい気持ちになったが、説明をしたいという隊長の言葉で元の席に着いた。
友人の話は本当で、他のクラスにいる数少ない平凡生徒にも同じように親衛隊がついておかしなことが起こらないよう、普通な生活を送れるよう見守っているらしい。好奇心でちょっかいだそうとする奴らからとかさっきの人気者の突撃だとかを未然に防いだり盾になったり。今までも俺の気付かないところで注意されていて、このクラスは特にミーハーなのが多いからキツメに監視があったのだとか。だからそういう気持ちが落ち着くまでは関わり過ぎないように、というのをクラスメイトがやり過ぎてぼっち状態にされたんだという。
何だそりゃ……。ガックリと頭を垂れると、気を落としているよう取られたのか申し訳無さそうに声を掛けられた。
「突然この学園のおかしな慣習に巻き込んでしまって申し訳ございません」
「……うぅん、あんた達のせいじゃないし。……でも俺、どうなっちゃうんだろ…」
今後の展開が全く読めず、今度こそ落ち込んで項垂れる。そんな俺の前で、隊長が一歩出て背筋をスッと伸ばした気配を感じる。
「ご安心ください。貴方のことは僕がお守りいたします」
「は」
竹を割るようにスパッと言い放たれた台詞に顔を上げると、正面からキリリと引き締められた顔を向けられていた。真っ直ぐに向けられる目には淀みない実直さが込められていて凄く綺麗で……。
「……はい」
いや、別にドキッとかしてない。顔は確かにその辺の女の子より断然可愛いけど俺よりよっぽど男らし……ってだからそうじゃない!
赤くなってるだろう顔を隠し、オタオタしていたら友人に小突かれた。いてぇよ、何だちくしょう!
口の端を上げいやらしくニヤニヤする友人に噛み付いて、おかしげに微笑む隊長にまた赤面して、兎に角その日はドタバタとして終わった。
その後はちょっとずつクラスメイトとも話せるようになってきて、マジで熱烈な質問攻めとかにあってドン引いたり。ちょくちょく役員や美形に絡まれそうになるのを親衛隊に助けられたり。隊のお茶に誘われて親衛隊と親交を深めていったり。少しずつ、変だけどそこそこ楽しい学園生活を過ごせるようになっていった。
その過程で。何故か毎回隊長にドキドキさせられるのだがいったい俺はどうしてしまったのか。というかこの学園生活について姉にはどう報告すれば良いのか。頭を悩ます日々を送る事になるのだった。
『夢の学園生活』
「あんたが望んだ通りの青春、送れそうじゃない」
「確かに可愛い子と一緒だけど何か違うから!」




