ちょっとした日常の変化。
これは、とある小さな島ではじまる小さな思い出ばなし
その島の生活でちょっとした出来事があった。
地元企業の気まぐれで社員寮が建てられた、褐色のアジア外国人が数名入居したのだ。
島の人たちの中には、やや怪訝な表情を浮かべる者もいたのだが、入居者雰囲気の良さがあってか特に心配する必要は無いと思った。
潮騒の音が静かに聞こえるある春の出来事。東京の大学を卒業後、Uターンで実家に戻った私にはよく見かけるアジア系の新入社員の姿に驚く訳もなく、そう感じていた。
入居者の人数はその時点では定かでは無いが、皆どこか不思議な気配が少しあり、幸せな表現で穏和な空気感が伝わっている。
この島に新たな風が吹き込む。私はそう予感がした。
引っ越しの荷物に囲まれた部屋で、私は本を枕元に置き天井を見つめる。蛍光灯の灯りの中、落ち着いた自室でそっと瞼を閉じ、数年間の東京生活を離れた実感を満喫していた。
下の階のリビングから妹のみどりの呼ぶ声。
「お姉ちゃん、肉じゃができた。降りてきて。」
妹のみどりは大学を卒業したばかり。兄弟姉妹同居が条件と言うことで私たちはこの島に帰ってきたのだ。
「今行く、ちょっと待ってて。」
私はリラックスできる部屋着に着替えてキッチンスペースのあるリビングへと移動する。
「お父さんとお母さんはどう?位置情報はあった?」
「ううん、友達にも頼んでいるけど、まだ。何せこの世界とは全然勝手が違うから…。目星が付くにはもっと時間がかかりそう。」
「異世界ってゲームの話みたいで不思議だね。何でまた、そんな場所へお父さんとお母さんいっているんだろ。」
テーブルの上に一通の手紙が置いてある。
『ちょっと、二人で魔物を狩りに行ってきます。楽しみに待っててね。母より』
ため息混じりにみどりがゆびさきで書き置きをつまみ、呆れた顔でソファーに座る。
「なんか、実家に帰ったとたんこれだもの。世界旅行から帰ったと思えば、今度は違う世界とか。ウチら家族は落ち着く間がないね。」
「全く。お姉ちゃんが気づかなかったら、数ヶ月先まで待ちぼうけのままだったね。」
私たちは食事をしながら、どこか慣れちゃった状況に置かれた二人よろしくお茶を飲み顔を見合わせまたため息をついた。
まだ冬の寒さを感じる小春日和。庭から見えるソメイヨシノが咲いていた。




