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(回想語り。「」)

 

 先輩から降る言葉の雨をまだちゃんと理解できていたのはそのくらいまでで、既にこちらは溺れかけているのに、なんて思っていた。

 先輩の声が優しくゆっくりと、微に入り細に入りこちらを言葉にしていく。それはまるでこちらの全てが先輩によって語り尽くされているような不思議な感覚で、酩酊とも陶酔ともつかない痺れと疼きに頭の先から足の爪の端までが漬け込また感覚だった。


 いや、そのときのことを思い返した今だからこそそう思えるだけかもしれない。


 そのときはただ溺れていて、頭も身体も心も魂も先輩から降る言葉の雨に包まれて、必死になっていたような気さえする。

 水たまりに落ちた蟻のように。



 それでも雨は止むことなく、こちらの全てが詳らかに語り尽くされて、先輩の言葉に置き換えられて行くような、先輩の言葉で自分が作り直されているような錯覚に、自分が取り返しがつかなくなる恐怖とそれを遥かに上回る歓喜に満ち溢れているような。


 そんな状態からせめて一息だけでも息継ぎをしたいと、いっときだけでも雨を止めたいと思った。

 それくらいしか落ち着いて思い出せるところなんてなくて、油断すると今でも深い水底に引きずり戻されるような気さえする。


 そんな必死の行動が、かろうじて先輩の言葉を一瞬だけ、ほんの一言分だけ止めるに至り、流し込まれて溢れかえっている言葉の一部を先輩の中へと届けるように、末期の息のように落としたのだと、うっすらと覚えている。




 それから後のことは、あまり記憶がない。




 きっと大雨による鉄砲水が、記憶も意識も跡形も残さず飲み込んでしまったのだろう。



「キミから言われることが、こんなにも嬉しいなんて。あぁもう、どうしよう。ごめん、ありがとう。もう私おかしくなりそう。あは、私もう、抑えられない」



 そんな言葉を聞いたような気もする。

 幻覚かも。

 意識も身体も、豪雨に溶けたから。






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