(「」地の文「」)
事務局にきたのは久しぶりで、たぶん春先に受講毎の単位確認で教務部を訪問して以来だろう。
そんな短い期間では何か変化があるはずもなく、また居並ぶ職員の様子も大差なかった。事務作業等に追われて無になっているような顔がいくつもモニターの光に照らされている。
先輩が呼びかけると、癖の強いカールした茶色い短髪が席を立った。こちらに近づいてくる。
無表情の濃い化粧が皺の多い愛想笑いへと変貌する。どちらも素の表情はわからないが、どうやら先輩とは馴染みのようで、
「あら珍しい。一人でないのね。またセンセのお使い? そっちの子の案内?」
と笑い声を上げた。ひび割れた隙間から漏れるような甲高い笑い声だ。
「まぁだ上とやりあってんのよ。労基に駆け込むなんて騒いで。そんなんされたら細々と突っ込まれて色々面倒じゃない。蛇に噛まれたってのもどこまで本当なんだか。わざわざあんなの噛みつきゃしないわよね。蛇だって。それにまぁ、学生たちもそんなに騒いでないじゃない。野良犬だの野良猫だの。昔はそのへんにいくらでもいたのよ。たぬきとかテンとかイタチとかも。あとあれ、なんて言ったかしら。はしびん? はくばん? まぁどれがどれやらよくわからないんだけどね。だいたいどれもキャットフード食べるし似たようなもんでしょ」
ハクビシンとイタチとテンとたぬきが脳裏に並ぶ。
結構違った。
ひび割れから漏れた笑い声を挟んで、その職員は嘲るように言葉を重ねる。
「ペットだか野良だか、まぁどっちでも可愛い子なら持ち帰られていなくなるでしょ。そのまま飼われるかなんて知らないけど。他所に捨ててくれりゃいいのにね。駆除されたのがその辺に残されても嫌じゃない? 生きてりゃ可愛げもあるけど。そうなったらただのゴミだし。警備や清掃のひとが手早く片付けてくれりゃいいけど、仕事遅いからねあのひとらは」
先輩と同じように喋り続けているその声が、先輩とは違って耳に障る。それは声質の違いもあるだろうが、声と言葉に嘲りと蔑みが滲んでいるせいなのかもしれない。
ただ不快感が募る声に、耳を塞ぎたくなった。




