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(「」「他者の合いの手」)

 

 先輩が混乱から立ち直りまともな言葉を喋り出したときには、既に通されて下準備も終わった後だった。

 どんな風にするかと店員に問われたため、顔がはっきり見えるようにベリーショートが良いと答えてある。

 ちゃんと先輩も了承済みだ。混乱していたから理解はしていなかったかもしれないが。




「待っ、いや確かに可能な範囲で責を負うとは言ったけれども落ち着こう、落ち着けばたぶん、他の要望が思いつくんじゃないかと思うのだが」




 先輩の要望は無視だ。

 予防接種を嫌がる室内犬と同じくらい声を上げる先輩の言葉は、ただ発しているだけで意味はないと店員に伝えてある。それで流してしまえる店員もよく喋る客に慣れているのか、適当に聞き流すのに慣れているようだった。



「へぇー」「そーなんですかー」「うんうん」「えー!」「あ、ちょっとここやる間、口閉じててくださいねー」



 降ってくる先輩の言葉をハサミで切って捨てるプロの技術に関心する。

 しかし先輩はそうでもないらしく、少しの間をおくと再び言葉を溢れさせた。




「話す際に相手の顔を見るべきという規範はわかる。

 キミに話しかける際にもちょっと、いやかなりの頻度で視線を外していたことも認めよう。

 でもそれはキミに限ってではなくて私が話しかけると何故か相手がどんどん嫌そうな顔になったり顔を背けてしまう経験があまりにも多いから、私にはその規範に該当していないんじゃないかと思うんだ」


「へぇー」




 店員の雑な相槌とハサミの音。




「表情が乏しくて怖いと言われたこともあるし、目つきが怖いと言われたこともあるし、背が高くて怖いと言われたこともある。これでも一応善処はしたし努力もしたんだ。

 でも人間には限界というものがあって努力すれば必ず実を結ぶとは限らない。そうした経緯を経て逸らし続けて隠すようになって習慣になって当たり前になってもう今更こんな視界が開けたらどこを見ればいいのかさえわからなくなっているのだがどうすればいいのか」


「そーなんですかー」




 少し離れた席に腰を下ろして、備え付けのラックから取ったファッション誌を眺めつつ先輩の声を聞き流す。




「目を合わせて会話しているだけで息が詰まるとか窒息しそうとか言われたことなんて、女子校時代はしょっちゅうだった。女の子が抱くイメージを押しつけられることが如何に恐ろしいかわかるか?」


「うんうん」




 あぁ、ウルフカットやリーゼントというのも選択肢に入れてもよかったかもしれない。




「一切悪気のない顔で私から可愛らしさという言葉を削ぎ落としていくんだ。かわいい小物はすぐに盗まれるし、替えのズボンを用意してスカートを破こうとされるし、恋人と別れるための理由にされるし、勝手に演劇部に入部させられて王子役に推されるしそのせいで先輩たちからは睨まれた」


「えー!」




 あ、これ先月号だった。今月号は……ないな。誰か読んでいるのか。こっちの雑誌でもいいか。




「しかも要求する基準が無茶苦茶なんだぞ。

 生理用品を持っていたらイメージと違うと泣かれて、トイレに行くことさえ学校内では無理になった。挙げ句の果てには、くしゃみしただけでイメージと違う、代わりにするとくしゃみの奪い合いまで起きるノリが日常化して、メガネをかけただけであり派となし派で口論して、髪が伸びて顔が隠せるようになるのをどれだけ心待ちにしたか。そのくせ顔を隠すようになったら一斉に手のひら」


「あ、ちょっと口閉じてねー。危ないからねー。恋人さんと話すのはちょっと我慢してねー」




 そんな会話とも言えない声が聞こえなかったフリをするように、手に取ったファッション誌に視線を落とした。




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