(通常の場合)
信号に足が止められると慣性で不快感が口から溢れ出て、先輩へと向かった。
逸らされている、伸びた髪とメガネで隠れた視線を、両手で押さえつけるようにしてこちらへと向けさせて、友人に遠慮をするなと、怒鳴りつけていた。
いまになって考えてみれば、ちゃんと先輩へと話しかけたのはそれが初めてかもしれない。
友人だったのかという疑問と、友人だと言われたことの喜びと、友人でしかないのかという疑問。そんなものが内混ぜになった感情は全く整っておらず、言葉にできるような形にもなっていない。
仮に地の文があったならば、それを先輩が読み取れていたならば、果たしてそれでも伝わるのかさえ定かではないものだ。
それを知らぬままに切り捨てようとしている先輩に、身勝手な怒りを抱いていた。怒りという方向性が加わったことで、先輩の友人であることを否定しない言葉が、叩きつけるようにして吐き出されるのをうっすらと自覚する。
道端で相手の顔を両手で挟み込んで説教をするような姿は、他人からみれば充分に変人だと言えるだろう。
でも、そんな他人からの評よりも先輩からの評が悔しかった。
そして先輩自身がそんなあり方を受け入れて諦めていることをどうしようもないほどに不快に思い、先輩がなんでもお詫びをすると言うならと、わがままを押し通すことにした。
「え? あれ? え? どういう? あれ? 友人、で、いい? あれ?」
両頬に受けた衝撃と説教で錯乱した先輩からは、言葉の雨もまばらにしか降ってこない。反論も抵抗もないのをいいことに、再び先輩の手を取って目についたそこへと入った。




