66話 空の旅
明海九年 2月16日 正午 満沢飛行場
前日、一日掛けて船でここまで移動して、そして輸送機に乗ることになった。
アイナの操る飛行機に乗るのは初めてだが、まあ他にも人はいるらしいので、そこまで心配はない。
因みに、軍にはやはり一人では何も出来ないということで申請し、高須賀に戻ることが許され、それに輸送機で行くことの許可も取れた。
乗るのは新型の輸送機、夏空である。
こういったところは、アイナがただでさえ選り抜きである飛行機乗りの中でも、最先端の飛行機をこの年で乗れるというのはアイナが選り抜きの中の選り抜きであることを示すのだろう。
閑話休題。
「今日は突然乗ることになりまして……」
「いえいえ、本業の軍人さんに乗って頂くなんて……」
アイナの要望で、自分を副操縦席に座り、副操縦士だった女学生は整備士の資格も持っていたため、今回は機内整備士に回ってもらっている。
「ンー……」
「これで拗ねられても困るんだけど……」
どうやら今の挨拶でアイナが嫉妬して拗ねたらしい。
「別ニ拗ねてなんかマセンヨ……」
とはいうが、それにしては掴まれている腕が結構痛いのは何故なのだろうか。
「取り敢えず、今回は宜しくお願いします」
「いえいえこちらこそ……」
「ムー……」
と、いうわけで、搭乗。
夏風 機内 操縦室
自分は向かって右側の壁に軍服である、自分の外套を掛け、アイナは向かって左側の壁に全ての軍属に支給される外套を掛け、その後に操縦席に座った。
「ソレデハ、離陸シマス。安全帯をシッカリ付けて下さいネ」
「ああ……」
そして、離陸。
「操縦補助器ニ切り替えマシタ。これで暫くは楽に出来マス」
「そうか……最新機にはそれがあるのか……」
離陸後暫くして、操縦補助器に切り替え、アイナは姿勢を楽にした。
「ドウデスカ?飛行機ハ」
「思っていたより、罪悪感は無いような気がするな……下で気にしていたよりは。それより……」
アイナの方に目をやる。
「……?」
アイナは女学校の冬服を着ているが、今、腕を伸ばして、さらに制服にスカーフがあることで、以前より更に成長したらしい胸が強調され、目のやり場に困る。
まあ、見なければいいのだが、それでも目線が行ってしまうというのが男の性だ。
「……アイナは、今までどんなところを飛んで来たんだ?」
「色々な所を飛んで来まシタ。例えばデスネ……」
そこそこに気まずい操縦席ではあるが、操縦補助器による飛行区間が終わるまでの間、どうにか話を繋いだ。
高須賀海軍飛行場
「着陸完了デス。アリガトウゴザイマシタ」
「「「ありがとうございました」」」
副操縦士とは言え、殆ど何もしていなかったような気もする。
が、それは兎も角、今はここで再び、飛行機乗りとしての腕を取り戻すことが重要だ。
アイナたちと別れ、軍施設に行き、再び戦闘機乗りとして活動したいという旨を伝え、申請しようとすると、とある案件でそれは今出来ないという答えが返って来た。
そして今は、鈍った腕を振るわせるため、黍風を用いて操縦再訓練しておけとのお達しが下された。
確かに、自分は今まで前線を離れ、また飛行機にも暫く乗っていなかった為、操縦再訓練のお達しが来るのは想定内だが、暫くは戦闘機乗りとしての仕事はこないと言っていたのは一体何なのだろうか。
もしかしたら浜綴航空技術研究所からの新たな飛行試験でも頼ませられるのかもしれない。
まあ、流石に前線を暫く離れていた自分に声が掛かるとは考えられないか。
2月22日 浜綴航空技術研究所本部
「本部」と書かれているのは、自分が暫く戦場に出ている間に、新たに支部が西海島と本州東北部の二か所に出来たためであるらしい。
本部という二文字が加えられているが、高須賀にあることは変わらず、また体制も大きく変化したことは無いらしい。
そして何故自分がここにいるかと言うと……。
「よう、相坂、久しぶりだな」
倉田栄治という目の前の男の所為らしい。
「今更なんだ、自分はそこそこ腕が鈍っていて、飛行試験員としては使い物になるかは怪しいものだと思っていたが」
「辛辣なのか悲観的なのか分かりにくい言い方は止めてくれよ。まあ、その言い方や態度を見ると、乗り越えることが出来たみたいだな」
「乗り越えた……か。多分それは違うな。今はまだ、決めかねているからだと思う」
「取り敢えず、前に進むことはできるようになったみたいだな」
「……聞いておくが、今日生機少尉はいないんだよな?」
「ああ、いないな。彼は別件で呼び出しが掛かっている」
「別件……」
「取り敢えず今は関係ないし、今日会うことは無いと思うな。たまたまここに呼び出しがかかっていたり、後々同じ作戦に配置されるかは分からないが」
「取り敢えず今日、会わないというだけで良い。まだ顔を合わせたとして、どう対応したらいいか分からない……」
「そうか……。本題に入って良いか?」
「ああ、済まないな」
「構わんよ。で、本題って言うのが、さっき相坂が言っていた、新型機の試験だ」
「本当に自分がするのか……」
「黍風のそれより操縦がしやすくなっているはずだし、飛行自体は問題ないはずだ」
「とは言え、負傷上がりの奴のする仕事か?」
「……実はこの試験には裏にいろんな話が絡んでいてな……それはまた、後で話す」
「分かった。だが、本当に後で話してくれるんだよな?」
「それは保証する。完全に悪い話という訳ではないからな」
「じゃあ少しは悪い話があるのか?」
「隠さず言うと、そうなるな、相坂には悪いけど」
「部隊を壊滅させた隊の隊長の懲罰と考えたら、懲罰が少ないような話だ。良い話が少しでもあるだけ救いだよ」
「そう言ってもらえるとこちらとしても助かる」
「で、自分が乗る新型機と言うのは?」
「名前はもう決まっていてな、『突風』と言う名前で決まった」
「性能は?」
「純粋に黍風からの拡張……だな。軽量高耐久の超超ジュラルミンを使っていたり、前々から開発していた、操縦補助器を搭載すること以外はそんなに変わっていないな。……多少機体が大きくなっていて、今まで黍風や黍風以前の軍用機に乗っていた操縦士たちの間から、『大きすぎる』と不満が上がっているみたいだけど」
「そういうのは、新しいのが出たら一定数反発する輩がいるもんだろ。気にすることじゃないな。それに乗るのは?」
「詳細な機体の説明を明日の午前にして、午後から実際に乗ってもらって試験をしてもらうことになる」
「分かった」
自分はいつの間にか、少しずつ立ち直っている気がすると、そう感じていた。
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