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凪の中の突風  作者: NBCG
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63話 因縁と再戦

明海九年 1月22日 大津久海 航行艦隊 空母飛鶴 飛行甲板


上陸支援作戦が本格的に開始されて、一週間弱が経った。


蓮都から少し遠く、大陸の北から南下する作戦は、敵の心理面にも作用したようであり、蓮都の南から北上する陸軍も、例の“新型機”の居る領域を除いて、概ね敵を消耗させることには成功している。


もっとも、こちらの消耗もそろそろ限界になっている部分もあるが。


しかしそこは、煤羅射側が一応複数国で宣戦布告していることを理由に挙げ、しかし面と向かって支援しているとはせずとも、飛行機同盟の浜綴以外の三国からの物資支援などが行われている。


そして、もうすぐ蓮都に進攻することになるだろう。


終戦は近いと予想する軍上層部は、この先のことについて、憂いてはいない。


「さて、今日も敵を倒しに行きますか!」


少し寒さに慣れたのか、小川がそんなことを言っている。


だが、敵の実力知っているからこそ、ここで「気を引き締めろ」と言うものも居ない。


実際、自分も奢るつもりはないが、だが、心配もしていない。


今日の作戦が終われば、遂に本格的に蓮都進攻である。


「ああ、出るぞ」


自分はそれだけ言い、自らの愛機に向かい、出撃の準備を行いにいくのであった。


同日 バストーシナヤ・ジミリア陸軍飛行場基地


「ロザノフ、本当に大丈夫なのか?」


ロザノフの僚機をしている一人が、ロザノフに尋ねた。


「何のことだ?」


「何のことって……そりゃ、今回は陸の機よりも強いっていう、海の機と“実地試験”をする訳だろ?そりゃあ、今まで一度も落ちては無いが、それでもそれは、あんたがそれなりに強いってのがあってだろ?」


「だったらなんだってんだ?」


「俺たちはそこまで強くないし、不安もあるってことだ」


「ま、気にすることは分かるが、まあ、大丈夫だろう」


「何がだ?陸の機は二機の時と四機のときがあって、確かに一回だけ四機と戦って、撃退したことはあるが、それでもギリギリだった。あの機が日に日に改良されているとは言ったって、陸の機より強いのが、“絶対”四機で現れるんだろう?全然大丈夫じゃないだろうが!」


「まず……飛行機乗りとしての強さだが……」


「なんだ?」


「奴らは自分たちより強い奴らと戦ったことが無い」


「だったらなんだ?」


「奴らは奴ら自身の強さの奴らとしか戦ったことが無いってことだ。それも、演習でのみ、だ」


「……?」


「ここまで言っても分からないか?つまりだな、今のアイツらはこっちで言う、“敵と戦ったことのない”奴らと同じだってことだ。特に海の機はな」


「なんで陸の機はそうじゃない?」


「俺たちと戦ったことがあるからだ。最初期は機体の性能が低かったから、俺たちの機体の向上と、飛行技術の向上に付いてこられた……というのもあるのだろうが、海の機の連中は、恐らくそうじゃない」


「つまり……」


「相手の練度の無さと、今の機、Pp-3の強さを最大限に活かせば、勝機は十二分にもあるだろう」


「ふむ……」


「分かったか?」


「ああ。不安はあるがな」


「そうこう考えている内に、敵は来る。迎え撃ちに行くぞ」


「はぁ……分かったよ。それにしても海か……落ちるのは嫌だな」


「なら気を付けて、全力で戦うまでだ」


そして彼らも、戦場に飛び立つのであった。


大津久海某所 上空 風切隊


「さて、今度は敵の本陣前……敵戦闘機、対空兵器の大量投入が予想される。だが、やることは変わらない。即時に敵を掃討し、帰還するぞ。まずは敵の戦闘機が確認されるまで、対空兵器の破壊を行う」


「「「了解」」」


「ん……?不明機を確認……敵も本当に、力を入れているようだ」


「敵機機数、3。あの形状は……」


「“新型機”……か……皆、気を付けろ。今までの飛行機とは比べ物にならない程に強いらしい。交戦を許可!最優先で殲滅せよ。現在天貫隊は我々より北部で作戦遂行中であり、すぐさまの支援は求めることが出来ない。我々のみで対処する」


そして、彼らの戦いが始まった。


両部隊がすれ違う。


「こちら杉、主翼に被弾!」


「あれで当てるか……大丈夫か?」


「多少機体の動きが変だが、戦闘には問題ない」


「了解した」


「敵もやるな」


「恐らく精鋭部隊だろうからな。こちらも全力で迎え撃つ!」


そして双方散開し、自由戦闘に移る。


「こちら生機、弾丸を命中させたが撃墜には至らず!」


「こちら相坂、被弾した。戦闘には問題無し。……強いな」


同空域 試験飛行隊


「今までの敵と比べて、機体性能が良い分、気を抜いてはいられないな!」


そう言うロザノフの口には、笑顔が浮かんでいる。


ガンッガンッ!


「被弾したか……今まで被弾を食らったのは、あの機でだけだったが……本当に、良い機体だな、敵の機体は!」


そう軽口を叩く間にも、機関砲を放ち続け、敵機に命中させる。


「流石“海の機”!そう簡単には落させてはくれんな」


そして戦いは続く。


同空域 風切隊


「小川、被弾!」


「大丈夫か?」


「ああ、何とかな。反撃する!この野郎共!」


小川の機が、敵機を捕捉し、撃つ。


しかしやはり、撃墜までには至っていない。


「手応えはあったが、まだか!?」


いつも飄々としている小川が、珍しく口を荒げている。


それほどまでに、風切隊は精神的に追い詰められていると言える。


試験飛行隊


「またアイツが被弾したな……そろそろ撤退も視野に入れたいが……せめて一機くらいは落したいな……」


ロザノフは戦場と成った空を見渡す。


「あの機……落とせるか……?」


ロザノフは機体を敵機に捕捉されないように操りながら考える。


「……」


そして何も言わぬまま、機体を敵機に向け、引き金に指を掛け、勝負に出た。


機体に響く、機関砲が発砲した、大きな炸裂音。


「イケた!一機撃墜!“海の機”をやったぞ!」


風切隊


「小川の機が被弾、炎上した!」


「小川、大丈夫か!?」


「小川機、一切応答がありません!」


「……クソがぁ!!!」


「隊長!前に出過ぎです!」


「なっ……!?」


思わず敵機に向かい、速度を上げたか、別の敵機に後方を許してしまう。


それに気づくと同時に、衝撃。


そして来る驚愕と痛み。


「腕が……」


幸い、即死ということは無かったが、敵機の機関砲は機体を、そして左腕をも貫いた。


「隊長!大丈夫か!?」


「ああ、なんとか……痛いが……まだ……」


自分は痛みに耐えながらも、意識を保つことはできる。


速度自体は機関梃だけではなく、翼の原則器で何とかならないでもない。


操縦桿は、難しくはあるが、右腕のみで扱う。


左手で掴むことはまだ出来るらしいので、機関梃に付けられた引き金を引くことはできる。


まだ、戦闘は可能だ。


どうにか、敵機が撤退するまではこちらが退く訳にはいかない。


「……!」


敵機を捕捉し、引き金を引く。


左腕が痛む。


引き金を引いた手の反動で。


機銃が打つ振動で。


しかしこれを堪えなければ、こちらが負ける。


負けは、隊員の、そして自分の死を意味する。


「一機やった……!」


自分が撃った機が、煙を上げて降下していく。


「こちら……生……機……」


「どうした生機!」


「機体に……被弾……脚が……」


無線からでさえ、生機の意識が朦朧としているのが分かる。


「こちら杉、生機を援護する」


「杉、頼む……。自分は、少し難しい」


「了解」


しかし今、敵機を狙いながら、友軍機の援護を行うための集中力が保てない。


痛みに堪え乍らも返す無線に、杉はいつも通り、単調に返事をする。


それに少しだけ、安心感を得ながらも、戦闘を続ける。


試験飛行隊


「一機が離脱したか……」


ロザノフは思う。


こちらは一機撃墜し、相手も一機撃墜した。


だが、こちらが落とした機は、安定性を明らかに欠いて、回転しながら落ちていった。


あれで生きて帰ることは恐らくできないであろう。


そしてこちらの部隊で落ちたのは、燃料タンクが炎上したためであり、すぐさまタンクを開放すれば、炎上自体は治まり、あとは滑空して帰ることも不可能ではないだろう。


このまま戦っても大丈夫なのか。


そのような疑問が頭に浮かぶが、彼は、とある敵機をその目に映したとき、決断をする。


映る目には、先ほど残った僚機が撃ったであろう機体が、ふらふらと蛇行するかのように不安定な機動を取っている。

出た疑問に対し、これ以上の考えは不要だろう。


ロザノフは口元に笑みを浮かべながらそう思い、戦闘を継続するのであった。


風切隊


「……」


最早、捕捉を宣言する言葉など出ない。


「相坂、一機……撃墜」


もう一機、煙を出して先ほどの機と同様に降下して行った。


最後の一機に目をやると、その機は生機と杉の方に向かっているのが見える。


「杉、生機!避けろ!」


痛みさえ忘れ、叫ぶ。


しかし、その願いも叶わず、一機が爆発し、火を噴いて落ちた。


「ク……ソ……がああああああぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!」


その声は、虚しく空に吸い込まれた。

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