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凪の中の突風  作者: NBCG
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61話 脅威、覚醒

明海八年 12月26日 極東煤羅射某所


「ロザノフ、機体、Pp-3の調子はどうだ?」


「まあまあだ。悪くはないが」


「良くないところを言ってもらわないと、改善のしようがないんだけどな」


「何が悪いとかじゃない。ただ、全ての性能が敵の飛行機の性能に比べ、物足りないと思ってしまうんだ」


「とは言えサハリンでは、敵の飛行機に対して、引き分けたんでしょう?しかも今の機は、その時の機よりもある程度は良くなっているはずだ」


「良くなっているのは敵も同じだろう?そこに妥協されるべき余地はないと思うが」


「まあ、確かに……」


「それに、俺が戦ったのは、最新鋭って言っても、少し性能の劣る、陸からの機だ。恐らく機体の寿命自体は潮風などで低いのだろうが、基本の性能が陸からの機よりも高いと言われている、海から来る機には、現状でも不安があるぞ」


「それを言われると、何も言えんが……」


「だから、全ての性能を、さらに高く、より強くしてもらわないといけない」


「特にどれをとかは……」


「そんなものはない。全部だ」


「はぁ……分かった。取り敢えず、今日の試験はこれまでだ。明日からは二人を追加して、三機一部隊編成で飛んでもらう」


「分かった。だが……」


「なんだ?」


「これの量産機を生産する時には、今の機よりも強い機体にしてくれ」


「……了解」


「じゃあな」


そしてその場からロザノフが去っていった。


「……。クソがっ……!研究のことなんか、何も知らないくせに!」


話を聞いていた調整士兼試験員が、雑巾を叩きつけるように、地面に投げつけた。


翌27日 同地区上空


三機一部隊としての編成で、Pp-3の試験機を飛ばす。


「まあまあだな……」


ロザノフは独り言を溢す。


その力は、未だ微妙なものである。


未だ敵の飛行機に対して、少しでも優位な能力があれば良いのだが、自らにはそれが一つも感じられない。


「チッ……」


二機の僚機の機動に、舌打ちが出るほど不満が募る。


これでも、試験機に抜粋されるほどの技量を持ったパイロットではあるし、この国の飛行機乗りとしては一流だろう。


だが、それが実戦で役に立つかどうかはまた別の問題である。


今のところ、実戦を経験し、生き残ったのは彼、ロザノフ一人だけである。


彼がPp-2同士で何度か試験を行い、互いに背後を取りに行き、結果、平均として、最も成績の良かった飛行機乗りが彼の僚機に載っている。


しかし、その二人は、ただ成績が良かっただけである。


選抜された飛行機乗りの中で。


二人はロザノフの背後を取れなかった。


彼らは「最もロザノフに“背後を取られるまでの時間が長かった”だけ」であった。


ロザノフはおろか、彼ら自身でさえ、戦場に出て、生きて帰ることが出来るとは思っていないのである。


空で彼らがそのようなことを考察しながら飛び、いつの間にか、試験編隊飛行が終わっていた。


格納庫


「……」


飛行機を降りた後、ロザノフは何も言わず、ただただ考えていた。


同月30日 同所


「なあ」


ロザノフが書類をまとめていた設計局員に声を掛けた。


「なんだ?」


その声に、ぶっきらぼうな返事を返す設計局員。


「この先の試験の中で、実地試験を行う予定はあるか?」


「実地試験?戦場で、か?」


「ああ」


「無い無い。もう既にお前がやっただろ?それで十分だと判断した」


「本当に充分なのか?」


「何が言いたい?」


「前に試験を行ったのは、敵が弱く、それも試験を行ったのは空での唯一の生き残りである、俺だけだ」


「だったらなんだと言うんだ?」


「これではこの機体では、敵を葬ることが出来るとは思えない」


「そうか?私はそうは思わないが」


「確かに俺は二度だけ敵と戦っただけで、“戦いを知っている”……なんて言えないのだろう。だが……」


「だが……なんだ?」


「それでも、一度も戦場でこの機体での、例え俺が居たとしても、新人が居て、有用性が確かなものでないと、さらに俺たちは祖国に泥を塗ることになる」


「私には、いや、“私たち”には関係の無いことだ」


「本当に?」


「……どういうことだ?」


「そもそもこの飛行機、今までどれほど有効に扱われてきたんだ?」


「それは……」


「如何に先進的な兵器だったとしても、その兵器を生み出す能力よりも、その兵器の有用性が低ければ、皇帝陛下も資金を出し渋るのではないか?」


「何が言いたい?」


「Pp-1も、Pp-2も、今のところ、有用であるとは、軍ではそう認知されていない。いや、“敵の”飛行機については、認知はされているな」


「……」


「だが我が国のそれについては、全く戦力として信用に足るとは言えない」


「それで我々に……どうしろと?」


「そこでさっき言った、“実地試験”だ」


「どういうことだ?」


「何、簡単なことだ。前線でしっかりと試験したうえで、その戦力が確かであると分かったときに生産すれば、我が国の飛行機は、信用に足る兵器として運用され、俺たちも名誉が与えられ、それを作るお前らも、皇帝陛下からの名誉が与えられるのではないか?普通に考えて、だが」


「……」


「どうだ?悪くは無いはずだ」


「負けたら?」


「貴様はもっと良い飛行機を作ればいいだけの話だろ?」


「お前がわざと負けるようなことをしたら……?」


「流石に、空で負けるようなことがあれば、それは基本的に即死だろうが。流石に俺も、死にたくはない」


「……」


「ま、別に俺が満足するような機体を作ったとしたなら、別に実地試験をしなくても良いとは思うがな、“俺は”」


「分かった。上と掛け合ってみる。だが、上が不必要だと感じれば、この話はなしだからな」


「ああ、頼むよ」


同月31日 バストーシナヤ・ジミリア陸軍飛行場基地 上空 試験飛行隊


どうにか先の内容を交渉にて押し通すことができたロザノフは、その試験を行うために、現在最大の防衛線と言われている基地の飛行場からPp-3の試験機で飛び立った。


「ピッチ、ロール、ヨー、機関砲、全て動くな……敵に対抗出来得るかは……戦ってから分かることか……」


そして暫く、敵が表れる地域まで直進する。


「前方に敵機だ」


不思議と、冷静でいられる。


「敵機機数、2機。機数と敵の進行方向から、敵は、陸からの飛行機であると思われる」


敵は比較的弱い。


しかしそれは、海から来る飛行機と“比べて”の話だ。


こちらの今までの、Pp-1やPp-2が敵う相手ではない。


しかしそれでも、ここで冷静に相手を判断し、相手がどう動くかの予想を立てられるのかは、このPp-3という、今までの我々の飛行機と比べ、格段に性能が向上した機に乗っているからなのか、それとも、二回の空での戦いを経て、慣れたからなのか、それは分からない。


僚機の二機を見ると、緊張はしているようではある。


「相手は二機だ!交戦するぞ!」


「「了解!」」


このPp-3の元となる機体を鹵獲した時には、その機体には通信機と見られる装置があったが、その通信機の解析が終わらない為、今はエンジンの音で五月蠅い空の中、叫んで命令を飛ばしている。


いつかは通信機がまともに使えるようになるらしいが、今はまだそれがいつかは目途が付いてはいないらしい。


閑話休題。


そして、戦いは始まった。


同空域 大浜綴帝国陸軍飛行戦隊 第三戦隊 第六戦闘中隊


「前方に未確認機。機数、三。型は……見たことない機だ」


「確か……佐波鈴で敵の新型と見られる機体との交戦した記録があるらしい。それは栃風と一対一で互いに機体の安定性を失わせて撤退したらしい」


「それだと……若干こちらが不利ですか?」


「確かにな。だが、こちらにはいくつもの敵機を屠って来たという実績がある。その通りに敵機を落とすだけだ。行くぞ!」


「了解!」


そしてこちらも、戦闘を開始した。


同空域 試験飛行隊


三機と二機、以前の戦いで、一対一で張り合える潜在的な実力があることを証明した。


この差は、それを踏まえると、実はこちらに優位かも知れないということでもある。


しかし、油断は禁物である。


自分は兎も角、僚機二機はロザノフから見て不十分である。


敵機は恐らく、Pp-1やPp-2をいくつも落として実力は高いのだろう。


それは、敵機の機体の向上が殆どされていないと考え、こちらは試験機である為能力が飛躍的に向上していると考えても、無視できない要素である。


敵機の二機はこちらの編隊を挟むように散開した。


そしてこちらは、相手とは違い、纏まって編隊のまま、散開した片方の飛行機を追う。


付いていけている。


それはロザノフだけではなく、僚機の二人も、である。


「撃て!」


そう叫び、自らも撃つロザノフ。


その後すぐに、敵機は反対方向へ離脱する。


「クソッ!」


僚機の2人のうちの一人が漏らす。


そして僚機二機はその機を追うが、ロザノフだけはそのまま旋回を続けていた。


僚機は追うが、どうやらその機を仕留められないようではあったが、その僚機二機に狙いを定めたか如く、もう一機が僚機二機の背後に迫っていく。


しかしその機の背後にロザノフの機は位置した。


「落ちろ!」


ロザノフは引き金を引いた。


「……!よっしゃ!一機撃墜!」


これが、後に語り継がれる、煤羅射帝国の軍による、初の撃墜記録である。


同空域 第三戦隊 第六戦闘中隊


「アイツがやられた!?」


初の敵飛行機による友軍機の撃墜に、陸軍の飛行機乗りは、驚きの声を上げてしまった。


「クソが……やってやる!」


このままでは、追い詰められて、その内に僚機を落としたあの機体にこちらも落とされてしまうと判断する。


直ぐに陸軍の飛行機乗りは操縦桿を巧みに倒し、追っていた二機を振り切った。


そして、また別の角度から自らの機を狙っていた一機の背後を取った。


「……」


無言で機銃の引き金を引く。


「ッチ」


舌打ち。


何発かは命中したが、撃墜には至らない。


「……」


再び無言になり、操縦に集中する。


先の二機が背後に再び回るが、それを回避する。


彼らに悟られない様に、ゆっくりと引き返し、友軍との連絡が取れるほどの距離まで戻る。


「緊急連絡!緊急連絡!こちら第三戦隊、第六戦闘中隊!友軍はいるか!?」


連絡を入れるが、今はまだ友軍が居る場所に戻ることが出来ていないらしい。


「クソッ……」


返信を返さない無線に、イラつきを見せる。


ほぼ性能が同じな三機に、一機のみで逃げることが出来ているのは、ひとえに彼の技量の高さを示しているのだろう。


同空域 試験飛行隊


「機体が……また……!」


機体が陽弾を受け、佐波鈴の戦いの時と同様、機体の安定性を欠いてしまっていた。


彼も彼なりに機体を制しているが、試験機でこれ以上の無理を強いれば、ほどなく空中分解も避けられない。


しかし未熟な僚機二機に任せ戦線を離脱すれば、あの一機にやられてしまうかもしれない。


せめてあの敵が反撃できない様にしてから、戦線を離脱するべきである。


「……?……あいつは何を……?」


ふと、敵の挙動に違和感を覚える。


先ほどまでは敵はこちらを狙ってきた。


そして今までこちらから敵に向けて放った弾丸は、一切当たってなどいない。


それなのに、敵は逃げている……?


ロザノフ自身が煤羅射で最高の操縦の技量を持っているとはいっても、目の前の敵には勝てるかどうかは分からない。


勝てるとしても、それは運によるものが高いだろう。


軍の中で、敵を討てる確率が現実的なものであるというだけで、被弾し、機体の安定性を失った今では、敵の方が確実に強い。


僚機二機については言うまでもない。


だが敵は今、逃げている。


もしや……と彼、ロザノフは考える。


そして、それを明確に頭に浮かべる前に、叫び声が出ていた。


「逃げろ!」


同空域 第三戦隊 第六戦闘中隊


「緊急連絡!緊急連絡!こちら第三戦隊、第六戦闘中隊!友軍がいたら返事をしてくれ!」


「こちら第三戦隊、第三戦闘中隊。どうした?」


「敵新型が来襲!僚機が落とされた!至急、救援を求む!」


「了解した!この場は我々に任せろ!お前は戦線を離脱し、報告をしに行け」


「了解。戦線を離脱する。敵機は脅威だ。気を付けろ」


「助言を感謝する。交戦を開始する」


こうして、彼ら第三戦闘中隊は煤羅射の新型機の編隊と交戦しようとしたが、新型機の編隊は離脱し、それ以上の戦闘は起こらなかった。


この情報は大浜綴帝国軍内を駆け巡り、軍全体はおろか、政府にさえ大きな衝撃を与えたのであった。

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