5話 二艦隊の援軍
明海元年 9月13日 未明
浜綴海
群鶴基地所属艦隊 旗艦 藤型戦艦三番艦六花
「見えました!友軍艦と唐国海軍の艦の多くから火が出ているのが確認できます」
「戦闘用意!暗いが、友軍と敵軍を間違えるなよ!」
「了解!砲撃準備!敵艦位置計算をし、敵艦を捕捉せよ!」
瀬良内海―浜綴海 西海本島と浜綴本島を繋ぐ西門海峡
浦呉基地所属艦隊 旗艦 藤型戦艦四番艦桜ヶ島
「あれは……、位置からして群鶴の艦隊か?」
「暗いのに良く見えるな」
「よく見ると海から煙が上がっている。恐らく煙突の煙だろうな。見えにくいが月明りを意識すると見えるぞ」
「……ああ、少しだけ煙が見えるような気がする」
「艦長!どうしますか?」
「どうするも何も、彼らに続くぞ。戦果は挙げたい」
「ですね。取り舵10度!船速そのまま!」
瀬良内海 浦呉海軍基地近海
航行艦隊 旗艦 香椎型戦艦一番艦香椎
「やっとここまできたか」
「海軍の中でも我が艦隊が最も新しく、最も足が速いが、それでも夜が明けるまでは着きそうにはないな」
「そもそも演習の三分の二の距離が既に終わっていましたからね。それに新鋭かつ秘密兵器の飛行機を運用する船を有する艦隊……。よしんば見せたくはない、しかし敵の二艦隊に対し、こちらの三艦隊では対応は五分と五分な上、戦力の逐次投入となってしまい、総合戦力の低下を懸念されてのことでしょう。使わないならそれでいい。演習にもなる。我々は予備部隊みたいなものだ」
「最新鋭の艦隊だというのに、その扱いだと気持ちが萎えてしまいそうですね」
「仕方ないさ。最新鋭の艦隊がもし沈められでもしたら、海軍全体、その中でも特に航空戦力化を勧めてきた技術部たちの士気にまで関わる。それに、間に合わないかもしれないのはどう足掻いたって本当に仕方のないことだしな」
「それもそうですね……。しかし、こんな大航海にも関わらず、一度の補給もしなくていいとは、すごいとしか言いようがないですね」
「機関の軽量化と低燃費化のおかげだな。今までの艦隊だと一度浦呉に寄って、補給しないとならんからな」
「確か千鶴型と香椎型は準姉妹艦なんでしたっけ?」
「そうだ。機関については全く同じ、外から見た艦形は全く違うが、内部構造の一部は共用のものも存在するくらいだからな。飛行機、気球関係以外は何らかの共通部分は存在するぞ。因みに機関が同じだから、出せる速度は重量差で少し違うが、出せる馬力自体は同じだぞ」
「砲も共用なんですか?」
「こちらの30.5㎝連装砲を向こうに載せることはできないが、向こうの12.7㎝単装砲はこちらに載るような設計だったはずだ」
「凄いですね……。そろそろ浦呉や群鶴の艦隊は着いている頃でしょうか?」
「そうだな。さて、我々は必要となるのかどうやら……」
浜綴海 瀬保海軍基地近海
唐海軍 旗艦 趂遠
「島猿が……夜まで足止めされていたのが仇となったな。夜になったら座礁する可能性でこれ以上進めずに上陸に足踏みさせる。まんまとヤツらの策に嵌められたらしい」
「しかし、まだ敵の援軍がここにきていないことに、運がついていますね」
「そろそろ日が昇るな。上陸するぞ。まだ逃した敵の砲艦がいるはずだ。気を付けろ!」
「もちろんです。……あれは」
「敵の軍船か?」
「そのようです。逃げていた砲艦……じゃない!?敵の援軍の戦艦!!闇夜に隠れてこんなに近くまで来ていたとは……」
「迎え撃て!艦隊の半分が行動不能にならない限り上陸は決行される。撃ちながら敵の軍港に向かって進め!」
「了解」
群鶴基地所属艦隊 旗艦 六花
「これは酷いな」
「東海艦隊と南海艦隊を防いだんです。十分でしょう」
「それもそうか。見える友軍は二艦だけ。戦艦箱立はどうやら……」
「そう悲しんでも仕方ない。瀬保海軍基地を絶対に守らなければならない」
「すでに射程に収めています」
「砲撃準備は整っているな?」
「はい」
「では、全力砲撃開始!」
「撃て!」
唐海軍 旗艦 趂遠
「撃ち合いが始まったか」
「新しさしか取り得のない敵の軍船では、我らの多大な艦隊の前には塵も同然。援軍とはいえ、死にかけの弱小砲艦二隻とたった四隻に、我らが負けるはずないですね」
「ま、十二隻と六隻では、まだまだ我らが有利だな。逆光が気に掛かるが」
「て、敵の援軍の後方に、さらなる敵の援軍が!」
「何隻だ?四隻か?」
「そのようです。数的には不利ではないですが、圧倒的な有利ではなくなりました」
「いいさ。上陸して、橋頭保を確保できれば問題無い」
「そうですか……分かりました。戦闘を続けさせます」
「それでいい」
「司令、提甲が敵の砲撃の回避行動をとるために座礁してしまったようです」
「はっ!弱小国相手に回避行動などとっているから、罰が当たったのだ!」
「敵砲弾、後部に至近弾!」
「支障はないか!?」
「人的損害はなし!」
「機関が少し、やられてしまったようです」
「どれくらいの損傷だ?」
「全速は出せません!11ノットくらいまでならなんとか」
「前方にも至近弾が!!」
「怯むなと言っているだろう!!前方の至近弾なら特に問題はないぞ!!出せる全ての力を尽くせ!この馬鹿垂れ共が!」
「尖勇が被弾して爆発した!船体が傾いている、尖勇が沈むぞ!」
「他の船に気を取られるな!こちらの船があと四隻沈めば作戦は失敗になるんだぞ!」
「敵砲弾至近弾!夾叉です!回避行動を……」
「馬鹿垂れがぁ!!!島猿に背を向けるとはこの腰抜け共!」
「しかし司令……」
「しかしもへったくれもあるか!!!私の指揮する艦隊だ!失敗は絶対に許さんぞ!!」
「こちらの砲弾、敵軍船に一発命中!」
「やればできるじゃないか!できるなら敵をなぎ倒し続けろ!」
「は、はい、分かりました!おら撃て!撃つんだ!給弾が遅いぞ!!」
「すいません!急げ急げ!!早くしないと上官から撃たれるぞ!撃たれたくなければ急ぐんだ!」
群鶴基地所属艦隊 旗艦 六花
「どうやら先の砲艦久米の被弾により、瀬保基地所属艦隊の内の邀撃に当たっている全ての艦が行動不能になった模様です」
「拙いな……恐らく、この海戦、敵を追い出せはするだろうが、瀬保の艦隊の再編が怪しまれる」
「群鶴基地所属艦隊の目立った損害は未だありませんが、これ以上敵艦隊に近づくと、被害が出る恐れが」
「瀬保基地の防衛が最優先だ。敵の数に恐れるな」
「失礼しました」
「上陸されたら厄介だぞ。帝国となって一年と経たない内に、隣国に領土の一部を取られたとなっては、他の国にさえ軽視されかねんし、これ以外の国、雄州列強からも攻められかねないぞ」
「そこまで考えが及んでいませんでした」
「良いさ。しかし我らの後ろには浦呉の艦隊と航行艦隊が存在するのだ。恐れることは無い」
「はっ」
そして砲撃戦は続き、それぞれが気づけば時は昼までに掛かっていた。
唐海軍 旗艦 趂遠
「チッ……早くに済ませれば既に帰路に着いている所を……浜綴め……それに我らの水兵も弛んでいるのではないか?艦長」
「いえ……ただ島猿共が狡賢く夜まで長引かせたのがそもそもの原因だと……」
「我が海軍はその狡賢さに勝ってこそだ!我々は島猿の悪知恵にさえ劣るというのか?」
「いえ……そこまでとは……」
「兎に角、我が海軍の現在の損害は半数を超えた。敵の援軍も、八隻の内二隻しか行動不能にできていない。ここで引くのは我が軍人の名誉に関わることだが、このままでは敵基地の防衛隊すら突破できない。帰還するぞ」
「……」
「この件でもし私に降格処分が下ったのなら、分かっているだろうな?」
「失礼しました……」
「全く。誉れある東海艦隊が聞いて呆れる戦果だな」
「……回頭用意。引き返すぞ」
「……了解しました」
群鶴基地所属艦隊 旗艦 六花
「敵艦隊、回頭し、引き返す模様」
「ふぅ……なんとか引き返してくれたか」
「我々は兎も角、瀬保海軍基地の被害は甚大ですね。それに、艦隊も再編ですか?」
「いや、恐らくだが、瀬保の艦隊が再編できるまで、航行艦隊があそこを守ると思うぞ」
「航行艦隊がですか……」
「最新鋭戦艦と飛行機による偵察能力のある航空母艦、防衛に不足は無いだろう」
「しかし、今回の被害から見たら、四隻だとやはり心もとない気が。それに、航空母艦は副砲並の装備しかないと聞きます」
「何、唐国だって、東海艦隊と南海艦隊の半数を失った。今回使われていない北洋艦隊を用いても、それほど問題視するほどの脅威もない。敵は戦意も落ちていることだろうしな。あと、群鶴の艦隊も、浜綴海の哨戒を増やすだろう」
「そうですか……」
「何だ?」
「いえ……」
「哨戒も仕事だぞ」
「艦長は人の心を読まないでください」
「やる気の萎えた部下に喝を入れるのは、上官の仕事だろう?」
「そうですが……いえ、いいです」
「ま、先に言った様に、敵もすぐには攻めてこられまい」
しかしその予想は、すぐに裏切られることになる。
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